【佐藤禿山氏追悼連句】いわき文音五吟歌仙『ひよどりは』の巻解題06(名残折裏折立から挙句まで)
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※画像はブログ「勝手にいわきガイド/白水阿弥陀堂」より転載


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  いわき文音五吟歌仙「ひよどりは」の巻        宗海捌
                        起首 2016.08.09
                        満尾 2016.11.10


  発句 ひよどりは試練の海を越え行きぬ    禿山 三秋
  脇   涼新たなる旅立ちの朝        遊糸 初秋
  第三 来し方を家郷の月に眺むらん      俊輔 三秋/月
  四   薬あれこれ入れるポシェット     笑女 雑
  五  妹は姉に似合わぬ器用者        宗海 雑
  折端  吊り床揺れる薫風の庭         山 三夏
初裏
  折立 水族館人気抜群大くらげ         糸 三夏
  二   酢物味濃き嫁の手料理         輔 雑
  三  四捨五入すれば傘寿よ背の丸み      女 雑
  四   枯蔦からむ宮の狛犬          海 三冬
  五  難問が解けて空には冬の月        糸 冬/月
  六   誕生なるか女性領袖          山 雑
  七  移り香のスーツに残る帰り道       女 雑/恋
  八   逢瀬重ねる焼肉の店          輔 雑/恋
  九  迷惑は口先だけとすぐに知れ       海 雑
  十   相槌打つもうはのそらなり       糸 雑
  十一 ジグソーのゴジラ仕上がる花明り     山 晩春/花
  折端  縞のキルトに蒲公英の絮        女 三春
名残表
  折立 いかめしも開通を待つ春の駅       輔 三春
  二   港目指して下る坂道          海 雑
  三  園児らのラジオ体操靄晴るる       山 雑
  四   集ふママ友尽きぬおしゃべり      糸 雑
  五  家事番は草むしりなど屁の河童      輔 晩夏
  六   女形の台詞やっと覚える        女 雑
  七  寝乱れの顔を繕ふ隠れ宿         海 雑/恋
  八   咬み痕なぞる紅差しの指       執筆 雑/恋
  九  ペアカップ割って後ろは振り向かず    糸 雑
  十   賽は振られつ渡るルビコン       輔 雑
  十一 望月のさやかに照らす島の影       女 仲秋/月
  折端  琵琶を弾じてしばし秋興        海 三秋
名残裏
  折立 山の湯は合掌造り紅葉焚く        糸 晩秋
  二   御堂の池を過(よぎ)る天雲       筆 雑
  三  石垣の崩れに残る夢の跡         女 雑
  四   眼下の街に飛ばすドローン       輔 雑
  五  散る花にゆふべのこころ遥かなる     海 晩春/花
  挙句  霞隔つる幽明の境           筆 三春

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名残裏
  折立 山の湯は合掌造り紅葉焚く        糸 晩秋


膝送りはいよいよ最終七巡目入り。名残裏折立は3飛び早番の糸さん。打越に仲秋、前句に三秋と続いた秋を承けてもう一句秋を続けましょう。前句が打越の場の句から人情を起こしたので、それを承けて人情句を続けます

ところが、この条件を呈示した翌日の11月25日朝に俊輔氏からメールがあり、それには、今朝から禿山氏の呼吸が荒くなり容態が悪化して予断を許さない状況にある旨のメールがご夫人から届いた、ということが記されていました。
かねてより覚悟はしていたものの、禿山氏の命の灯が今まさに消えなんとしていることを知り、暗然たる思いに囚われながら、目下進行中の付合をしばらく停止して氏のご様態を見守りつつ平安を祈念したい旨をご連衆一同に伝えました。

しかし本復の望みも空しく、同日午後、再び俊輔氏から14時40分に禿山氏が逝去されたことを伝えるメールが届きました。また、葬儀は氏の強い希望により内輪に執り行われる運びとなるということでしたので、せめてもの連衆の弔意の徴(しるし)をお届けしようという衆議に決し、次のような弔電を「いわき文音連句連衆一同」の名でご夫人宛に発信しました。
===
ご逝去を悼み謹んでお悔やみ申し上げます。和男様の発句で始まり目下進行中の作品の完成を待たずに旅立たれたのはまことに残り多いことですが、最期まで付合を楽しまれたことがせめてもの慰めです。安らかな永遠の眠りに就かれるよう願ってやみません。
===

葬儀が済んだ後も連衆ともども、心に大きな穴が空いたような満たされぬ想いを抱きながら日々を過ごしていましたが、氏が最期の刻まで気遣われていた一巻の付合をいつまでも停止しておくに忍びず、初七日の明ける日を期してこれを再開することにしました。
また図らずも、同報メール宛先に残されていたアドレスに届いていた禿山氏宛の文音メールを、ご夫人がお読み下さっていたことを知ったので、今後もその状態を保持したまま、挙句に至るまでの運びをご覧頂くことにしました。一巻満尾を待たずに旅立たれた禿山氏の無念さへの、せめてもの慰めとならんことを願うばかりです。

付合停止が解除されて間もなく、遊糸さんから折立候補5句の呈示があり、その中から初案「紅葉初む集う友あり炉端焼き」を選り出しました。数年前に禿山氏も加わって故郷の山深い鉱泉旅宿で開かれたミニクラス会の思い出を句材としたものと見ました。残念ながら「集う友」が名残表四句目に出た「集うママ友」の繰り返しになるため「輪廻」の難を免れません。また食物の句材もすでに「酢物」「焼肉」と二度出ています。またこれは差合ではありませんが、「紅葉初む」は「初紅葉」の同類に当たるので、季は晩秋ではなく仲秋と見なすのがよいでしょう。
かかる吟味の結果、食物の句材を、その折に見た、山宿に移築されていた「合掌造り」に差し替え、さらに亡友の俳号「山」字を隠し題として潜める趣向を構えてみました。
「琵琶」とそれに映りの良い「合掌造り」が溶け合い、亡友との団欒のひと時を懐かしく思う心の籠もった付味の良い折立が生まれました。

  二   御堂の池を過(よぎ)る天雲       筆 雑

二句目は禿山氏の付番にあたる句所ですが、兼ねての運行目論見に従って捌の分身にあたる執筆が代役を務めることにします。
前句の「山の湯」から、その近くに立つ、白水阿弥陀堂の通称で名高い願成寺庭前にある蓮池の場景を浮かべました。この寺院は平安時代末期の建築で、県内唯一の国宝建築物に指定されており、ここにもまた禿山氏の思い出が色濃く残っています。そこの池に映る雲の姿に天上の友の姿を擬えました。
なお、このような内輪の話をご存じない方々にも、「山の湯」から「御堂」への付筋は格別の違和感なく受け止めて頂けるものと見定めました。

  三  石垣の崩れに残る夢の跡         女 雑

名残裏三句目は3飛び早番笑女さんの付番。前句の雑を続けましょう。打越には微かながらも人情自の要素が認められるので、人情を加えるならば、他もしくは自他半、あるいは場の句を続けても差し支えありません。
なおまた、ここまでの付合数句に、禿山氏を偲ぶ思いが付心として働いているのは覆うべくもない事実ですが、付合の運びの面からは、それを可能な限り内に秘めて、詞の上には露わにしないのがよいでしょう。
間もなく笑女さんから呈示された三句目候補5句の中では、初案「古校舎石垣のみの城の跡」を良しと見ました。ただし式目の面から言えば「古校舎」が《建物》の要素を含む「居所」として、打越の「合掌造り」に障ります。
そこで本句の《城跡》の要素を活かして掲句のような一直案を浮かべ、これをもって治定としました。下五「夢の跡」は、ひと目でそれと知れる、芭蕉の「夏草や」句の本句取りです。これに故郷いわき市旧城跡に今も僅かに残る、磐城平城の石垣の場景を配しました。
終局を穏やかに迎える名残裏にふさわしい趣を湛えた三句目が生まれました。

  四   眼下の街に飛ばすドローン       輔 雑

四句目は、お待ち兼ねの5飛び遅番俊輔氏にお願いします。雑をもう一句続けること、場の句が二句続いたのでここは必ず人情を起こすことを条件として呈示しました。また、前句には《戦乱》の糸口が潜んでいますが、付合がここに至ったからには静かに終局を迎えることを目指して、波乱には及ばないよう注意を払いたいところです。
俊輔氏から提出された候補5句の中から、初案「町一望に飛ばすドローン」の離れ味をもっとも良しと見ました。本句の自解に「平の城跡」とあったのは、戊辰戦争の折の磐城平藩落城の状況を描いた氏の近著『坊主持ちの旅』(北海道出版企画センター)の取材に当地を訪れたことを示すものです。前句への付心に「其場」の手法を用いて、よい味を出しています。なお上七「町一望に」の表現にもうひと工夫あってしかるべしと判じて、これに一直を加えて掲句の句形に治定しました。
作者が自らのこととして表現した人物が、落城によって焼失した天守閣跡の「物見が丘」と呼ばれる高台にいることを、「眼下」によって暗示する人情自句です。
飛行体にことのほか造詣が深かった禿山氏が、故郷の街の上空にドローンを飛ばす姿を想像させるような、追憶の情の籠もった付味の良い四句目が生まれました。

  五  散る花にゆふべのこころ遥かなる     海 晩春/花

次はいよいよ一巻の飾りとなる「匂の花」の座。ここは捌が付ける運びとなりました。
しばらく長考に沈んだ後に得た掲句をもって治定としました。本句は朝食後の仮眠から目覚めた折にふと浮かんだ一句。与謝蕪村が青年期を過ごした下総結城郡本郷の俳人早見晋我の死を悼んで編んだ一篇、「北寿老仙をいたむ」に出る一節を踏まえたものです。禿山氏が永眠されてからこの作品が通奏低音のようにずっと心に響いていたのですが、その思いが図らずも花句として結実しました。
ちなみに、その作品と解説は次のページに掲載されていますので併せてご覧下さい。
⇒ http://www.geocities.jp/sybrma/334buson.hokujurousen.html

  挙句  霞隔つる幽明の境(きょう)        筆 三春

これに執筆が挙句を付けます。ここでも禿山氏との永別を悲しむ心を籠めて吟案を巡らしました。通常の付合ならば挙句はあっさりとめでたく仕上げるのが習わしですが、本巻では追悼の思いをもって一巻を終えることにしました。
実は、ツイッターとフェイスブックに連載記事として連日掲載している【今日の季語】11月2日の「末の秋」の項に、例句として「幽明を友と隔てつ末の秋」の自作句を披露したばかりですが、ここでもまたこの語を用いて、禿山氏と「幽明境を隔つ」状況に置かれた連衆一同の悲しみを表出したいと願った次第です。
これにて、禿山氏の発句によって起こされた本巻は、改めて世の無常を思い知らされる形で満尾いたしました。この一巻を氏の霊前に捧げて鎮魂の縁(よすが)とさせて頂きます。

【付記】満尾後の校合(きょうごう)の折に、禿山氏の最期の句に出た「靄」と、挙句の「霞」が響き合っていることに気付きました。また発句と脇に《旅立ち》の付心が働いていたことと併せて、偶然とは思えない経緯の糸が本巻を貫いていたことに思い至り、感慨を新たにしました。

とびぃ
連句
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【佐藤禿山氏追悼連句】いわき文音五吟歌仙『ひよどりは』の巻解題05(名残折表七句目から折端まで)
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※画像はブログ「月夜の森 11/薩摩琵琶 友吉鶴心『花一看』」より転載

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  いわき文音五吟歌仙「ひよどりは」の巻        宗海捌
                        起首 2016.08.09
                        満尾 2016.11.10


  発句 ひよどりは試練の海を越え行きぬ    禿山 三秋
  脇   涼新たなる旅立ちの朝        遊糸 初秋
  第三 来し方を家郷の月に眺むらん      俊輔 三秋/月
  四   薬あれこれ入れるポシェット     笑女 雑
  五  妹は姉に似合わぬ器用者        宗海 雑
  折端  吊り床揺れる薫風の庭         山 三夏
初裏
  折立 水族館人気抜群大くらげ         糸 三夏
  二   酢物味濃き嫁の手料理         輔 雑
  三  四捨五入すれば傘寿よ背の丸み      女 雑
  四   枯蔦からむ宮の狛犬          海 三冬
  五  難問が解けて空には冬の月        糸 冬/月
  六   誕生なるか女性領袖          山 雑
  七  移り香のスーツに残る帰り道       女 雑/恋
  八   逢瀬重ねる焼肉の店          輔 雑/恋
  九  迷惑は口先だけとすぐに知れ       海 雑
  十   相槌打つもうはのそらなり       糸 雑
  十一 ジグソーのゴジラ仕上がる花明り     山 晩春/花
  折端  縞のキルトに蒲公英の絮        女 三春
名残表
  折立 いかめしも開通を待つ春の駅       輔 三春
  二   港目指して下る坂道          海 雑
  三  園児らのラジオ体操靄晴るる       山 雑
  四   集ふママ友尽きぬおしゃべり      糸 雑
  五  家事番は草むしりなど屁の河童      輔 晩夏
  六   女形の台詞やっと覚える        女 雑

  七  寝乱れの顔を繕ふ隠れ宿         海 雑/恋
  八   咬み痕なぞる紅差しの指       執筆 雑/恋
  九  ペアカップ割って後ろは振り向かず    糸 雑
  十   賽は振られつ渡るルビコン       輔 雑
  十一 望月のさやかに照らす島の影       女 仲秋/月
  折端  琵琶を弾じてしばし秋興        海 三秋

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  七  寝乱れの顔を繕ふ隠れ宿         海 雑/恋

付合は名残表七句目に差し掛かり、4飛び巡行の捌に付番が回ってきました。そこで前句「女形」を恋の呼び出しの詞と見定めて仕掛けられた恋を承けることにしました。
掲句の「繕ふ」は《化粧などを整える》の意。前句の人物をいささか妖しげな世界に拉致してその恋模様を描いてみました。

  八   咬み痕なぞる紅差しの指       執筆 雑/恋

膝送りはこれより六巡目入り。八句目は4飛び巡行付番の禿山氏にお願いします。恋は一句で捨てるべからず、その習わしに従って恋を続けましょう。恋の二句目は前二句の世界を背景にしてその続きを言う「三句絡み」に陥り易いもの。その点にご留意下さい。
このような条件を示して、氏の病状を懸念しながら付句を待っていると、それから6日後に、氏から次のようなメールが届きました。

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残念ながらギブアップです。句案の推敲は睡魔に勝てず毎度堂々巡りをしてます。
このような状態では、これ以上皆様をお待たせしても好転は見込めません。今後については何とかスマートに終息させるか、願わくば継続して頂きたいと願ってます。
連衆の皆様、重ねてお詫び申し上げます。
=====

かねてより、意のままにならなくなるまでは決してギブアップしないという、氏の決意表明を力草(ちからぐさ)に付合を進めて来たのでしたが、事態がかかる局面に至ったことを告げる知らせを受け、胸を突かれる思いに囚われました。しかしここで付合を頓挫させては氏の切なる願いを無にすることになるので、今後の運びについてあれこれ思案の末に次のような方策を案じ、それを連衆各位にお諮りしました。
それは、禿山氏の付番は、目下の名残表八句目が済めば残るはあと一つ、名残裏二句目のみという運行予定になっていたので、この両句所を捌が書記役の「執筆(しゅひつ)」に成り代わって急場を凌ぐことにしてはどうかという案です。
これを各位に示したところ、いずれからも異論なしという同意を頂いたので、この案に従って執筆が後見役を務める運びとなりました。

掲句は、前句の後朝(きぬぎぬ)の場景を承けて、「其場・其人」の手法を用いた恋の人情自他半句です。なお、三句前に「手」があって「指」との差合が懸念されますが、前者の「手の内」は比喩的な慣用句で実質は肢体に当たらないので障りにはならないと判断しました。

  九  ペアカップ割って後ろは振り向かず    糸 雑

九句目は4飛び巡行遊糸さんの付番。恋をもう一句続けるか、「恋離れ」で行くかは作者にお任せ、恋を続ける場合には前二句の世界の続きに陥らないようご注意下さい。
この要請を承けた遊糸さんから早々にご呈示のあった候補5句を吟味した結果、「後は振り向かず」に前句に通うものを含ませながら、それを「ペアカップ」にするりと逃げたところに良い離れ味を見せた掲句を初案のまま頂くことにしました。
前句から思い切り良く離れながら、一抹の恋の気分を残しつつ、新たな展開を招くにふさわしい上々の「恋離れ」句が生まれました。

  十   賽は振られつ渡るルビコン       輔 雑

十句目は4飛び巡行付番の俊輔氏にお願いします。雑をもう一句続けましょう。人情句で行くならば打越と同じ人情自他半を避けて下さい。場の句も可です。次が月の座に当たるので、月の出を妨げるような句材は控えましょう。
このような条件に従って俊輔氏から呈示された名残表十句目候補5句を吟味した結果、「カエサルの決断」という自註を添えた初案「賽は振られて渡るルビコン」を良しと見ました。
前句の「後は振り向かず」の勢いの良さを異なる局面に活かし、前句の句勢に応じて句を付ける「拍子(ひょうし)」と呼ばれる付けに近い手法に従ったもので、転じ味も上々です。なお微細な点については、「(振られ)て」が前句の「(割っ)て」と重なる点が気になるので、これを完了の助動詞「つ」に差し替えた句形により治定することにしました。
言い切りの形で短句の上七を断止する形が、カエサルの決意の強さに通底するものを感じさせます。前句の恋離れからさらに大きく転じて、ローマへの進軍を決意したカエサルのルビコン渡河の雄姿を詠んだ、離れ味の良い十句目が生まれました。


  十一 望月のさやかに照らす島の影       女 仲秋/月


十一句目は4飛び巡行笑女さんの付番。この句所を秋の月の座と定めます。前句まで人情句がしばらく続いて。いささか凭(もた)れ気味を感じることと、月の座であることを考慮すれば、場の句でさらりとかわすのが良さそうです。
笑女さんから呈示のあった十一句目候補5句の中から「白波に望月冴えて島の影」の初案を選り残しました。いささか親句の気味はあるものの、候補句の中では本案がもっとも付心が明確です。ただし「望月」だけならば良いのですが、「冴え」を添えると三冬の季語「月冴ゆ」に同化してしまうので、この点に対する手当てが必要です。また「白波」は八句目の「紅」と同じ色彩関連語で障ることと、前句と同じ水辺の「ルビコン」に付き過ぎる印象があるので、これは言わずに済ませる方策を考えたいところです。そこでこれらの難点に対して掲句に見るような一直を施して治定としました。
しばらく続いた人情を捨てて前句を場の句であしらった、付味のよい十一句目が生まれました。


  折端  琵琶を弾じてしばし秋興        海 三秋


これに早速4飛び巡行付番の捌が付けさせて頂きます。掲句は「島守」という詞を使いたいところでしたが、前句の「島」と同字で障るのでこれを表に出さずに、そのような人物がひとり琵琶を弾きながら秋興の刻を過ごす姿を思い描いて折端に据えました。
実はこの文音歌仙が始まったそもそものきっかけは、禿山氏が幼少の頃、自宅近くにあった常磐炭鉱の炭住長屋から琵琶の音が流れて来たという懐旧談が発端となり、それを踏まえて付合を試みたことにありました。本句の「琵琶」はその折のことを想起して取り上げた句材です。
なおよい機会なので、その折の「禿海(禿山)・笑人(笑女)・宗海」三名による習作十二句「ぼた山に」の巻を記念としてここに書き留めておくことにしましょう。数えみればあれからはや8年の歳月が過ぎ去りました。感無量という他はありません。
なお9の初案下五は「花言葉」でしたが、これは雑の正花で11の花の座に障るので「贈り物」に改めました。

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【予行演習十二句「ぼた山に」の巻】

1 ぼた山に琵琶音高き夕まぐれ    宗海 雑
2  家路を急ぐ顔黒き鉱夫(ひと)  禿海 雑
3 月明かり夕餉の香り子の笑顔    笑人 秋/月
4  踊浴衣の帯は紅色        宗海 秋
5 友集う北の寄宿舎秋深し      禿海 秋
6  波打つ稲穂すずめ飛び交う    笑人 秋
7 太棒に更科蕎麦を繰り延べて    宗海 雑
8  亭主の側(そば)よりヨン様が好き 禿海 雑/恋
9 香とともに心伝える贈り物     笑人 雑/恋
10  駅裏通り旧友の店        宗海 雑
11 花どきは歩いてみたきお城山    禿海 晩春/花
12  春風吹いて柳たなびく      笑人 三春
               起首 2008.09.27
               満尾 2008.10.18

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とびぃ
連句
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【佐藤禿山氏追悼連句】いわき文音五吟歌仙『ひよどりは』の巻解題04(名残折表折立から六句目まで)
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※画像はサイト「函館朝市 駅二市場」より転載


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  いわき文音五吟歌仙「ひよどりは」の巻        宗海捌
                        起首 2016.08.09
                        満尾 2016.11.10


  発句 ひよどりは試練の海を越え行きぬ    禿山 三秋
  脇   涼新たなる旅立ちの朝        遊糸 初秋
  第三 来し方を家郷の月に眺むらん      俊輔 三秋/月
  四   薬あれこれ入れるポシェット     笑女 雑
  五  妹は姉に似合わぬ器用者        宗海 雑
  折端  吊り床揺れる薫風の庭         山 三夏
初裏
  折立 水族館人気抜群大くらげ         糸 三夏
  二   酢物味濃き嫁の手料理         輔 雑
  三  四捨五入すれば傘寿よ背の丸み      女 雑
  四   枯蔦からむ宮の狛犬          海 三冬
  五  難問が解けて空には冬の月        糸 冬/月
  六   誕生なるか女性領袖          山 雑
  七  移り香のスーツに残る帰り道       女 雑/恋
  八   逢瀬重ねる焼肉の店          輔 雑/恋
  九  迷惑は口先だけとすぐに知れ       海 雑
  十   相槌打つもうはのそらなり       糸 雑
  十一 ジグソーのゴジラ仕上がる花明り     山 晩春/花
  折端  縞のキルトに蒲公英の絮        女 三春
名残表
  折立 いかめしも開通を待つ春の駅       輔 三春
  二   港目指して下る坂道          海 雑
  三  園児らのラジオ体操靄晴るる       山 雑
  四   集ふママ友尽きぬおしゃべり      糸 雑
  五  家事番は草むしりなど屁の河童      輔 晩夏
  六   女形の台詞やっと覚える        女 雑

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

名残表
  折立 いかめしも開通を待つ春の駅       輔 三春


付合は早くも峠を越えて名残表入り。折立は4飛び定時巡行の俊輔氏にお願いします。
春秋の季句は三句以上五句までとされている式目の「句数(くかず)」の定めに従い、前二句を承けて春をもう一句続けます。春三期の別は問いません。場の句を続けてもよく、新たに人情を起こしてもよしという局面です。
このような条件を承けて呈示された候補5句を吟味した結果、初案「開通のイカ飯を買ふ春の駅」をもっとも良しと見ました。
ご当地北海道にふさわしい吟句で、前句の「キルト」から"詰め物"の要素を導いた付心が面白い。ただ、中七がやや只事(ただごと)風の表現に流れている点にもうひと工夫欲しい印象を抱きました。
そこでこれに掲句のような擬人法による曲折を加えた一直案を浮かべてみました。その初案は、上五に「烏賊飯」の漢字表記を用いたのでしたが、ネット上でその画像を見ると平仮名書きになっていたのでこれに従って表記を改め、それがご当地のものであることを暗示しました。
離れ味もよく、明るさを備えて新たな展開の期待される折立が生まれました。

  二   港目指して下る坂道          海 雑

二句目は4飛び定時巡行付番の捌の担当。前に三句続いた春を離れて雑の句に戻ります。
函館を思わせる港町の場景を詠んだ掲句は、前句に対していささか親句(しんく)の気味はありますが、場の句が二つ続いたのを承けて、海の見える坂道をそぞろに下り歩む人物の姿を描いた起情の句を案じました。

  三  園児らのラジオ体操靄晴るる       山 雑

膝送りはこれより五巡目入り。三句目は3飛び早番の禿山氏に付番が回って来ました。
ご当地関連句材は前二句でお仕舞いにして、そこから大きく離れること、人情を起こした前句を承けて必ず人情を加えること、この二つを条件としました。
病床の禿山氏から、数日後に候補5句が届き、その中から選んだ初案に一直を加えたのが掲句です。朝のラジオ体操をする園児たちの姿を詠んだ本句は、前句の人物の目に映った「其場(そのば)」の手法に従ったものと解することができます。
起情の前句を承けてこれに人情他の句で応えた転じ味の良い三句目が生まれました。

  四   集ふママ友尽きぬおしゃべり      糸 雑

四句目は5飛び遅番、お待ち兼ねの遊糸さんにお願いします。雑をもう一句続けること、人情の有無は問わないものの、打越と同じ人情自は避けることを条件として示しました。
呈示された候補6句の中では初案「若き母親尽きぬおしゃべり」を良しと見ました。前句の「園児」への「対付(ついづけ)」として「母親」を配したところに転じの工夫が見えます。ただ「若き」とは言わずもがな、それは「園児」への付けから自ずと知れることなので、別の表現に言語空間を拡げたいところです。
そのような狙いから加えた最初の一直案は「ママ友集ひ尽きぬおしゃべり」で、上七の中止形にやや説明臭のある点にひっかかりを覚えて、さらに韻文性を高めたいと考え、もうひと工夫加えて掲句の句形により治定としました。
程よい付味の人情句によって前句への落着を見た四句目が生まれました。

  五  家事番は草むしりなど屁の河童      輔 晩夏

五句目は3飛び早番俊輔氏の担当。雑が三句続いたのでこのあたりで雑から夏季に転ずることにします。人情の有無は問いませんが、人情を入れるならば二句続いた人情他は避けましょう。
かかる条件を承けて呈示された初案の中から、「家事番はキャベツ料理もお手のうち」を粗選りしました。前句の「ママ友」からその夫へと目を転じて生まれた飛躍が離れ味をよくしています。ただし「お手のうち」の種目に《料理》を持って来たのは、初裏二句目にも「手料理」が出ていたので、別の領域にしたいところです。また付合の流れに目を向けると、片仮名表記語が打越から三連続する点が気になります。
そこでこれらの難点に一直を加えて「家事番は草むしりなどお手のうち」としたのですが、「手の内」は比喩表現ながら八句目の「指」と肢体関連語として障る恐れがあるので、思い切って俗な表現の「屁の河童」に替えて俳味を持たせることにしました。
親句性の強い前句二句の世界から離れた、付味の良い五句目が生まれました。

  六   女形の台詞やっと覚える        女 雑

六句目担当は5飛び遅番でお待ち兼ねの笑女さん。前句の夏を承けて晩夏または三夏で続けるもよく、一句で捨てて雑に戻るもよしという局面です。なお、歌仙では恋は一巻に二箇所で出すのが習わしとなっているので、そろそろ恋句を仕立てたいところ。その気配を感じさせるような「恋の呼び出し」の仕掛けがあれば上々吉です。
間もなく笑女さんから呈示された候補6句に吟味を加えた結果、初案「やっと覚えた江戸の世話物」に目が留まりました
短句に相応しい句調が好ましく響きます。ただ「江戸の世話物」がその《台詞》なのか、それとも《演題やその読み方》を言っているのかが判然とせず、その点にいささか甘い印象が残ります。
そこで、前句の「草むしり」を付所に、その作業をしながら素人芝居の台詞を覚えている人物と見立てた掲句のような一直案を浮かべました。「女形(おやま)」は役柄名なので、打越の人倫「ママ友」には障りなしと見ました。裏声を出す女形の台詞に併せてしなを作りながら草むしりしている姿に、一抹の滑稽味と恋の呼び出しの含みも持たせたものです。
前句を素人芝居の女役と見立てた「其人」の手法に従った、意表を突く転じ味を持つ六句目が生まれました。
(この項続く)
とびぃ
連句
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【佐藤禿山氏追悼連句】いわき文音五吟歌仙『ひよどりは』の巻解題03(初折裏七句目から折端まで)
gojira.jpg
※画像は「amazon ジグソーパズル バーニング・ゴジラ」より転載

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

  いわき文音五吟歌仙「ひよどりは」の巻        宗海捌
                        起首 2016.08.09
                        満尾 2016.11.10


 発句 ひよどりは試練の海を越え行きぬ    禿山 三秋
 脇   涼新たなる旅立ちの朝        遊糸 初秋
 第三 来し方を家郷の月に眺むらん      俊輔 三秋/月
 四   薬あれこれ入れるポシェット     笑女 雑
 五  妹は姉に似合わぬ器用者        宗海 雑
 折端  吊り床揺れる薫風の庭         山 三夏
初裏
 折立 水族館人気抜群大くらげ         糸 三夏
 二   酢物味濃き嫁の手料理         輔 雑
 三  四捨五入すれば傘寿よ背の丸み      女 雑
 四   枯蔦からむ宮の狛犬          海 三冬
 五  難問が解けて空には冬の月        糸 三冬/月
 六   誕生なるか女性領袖          山 雑
 七  移り香のスーツに残る帰り道       女 雑/恋
 八   逢瀬重ねる焼肉の店          輔 雑/恋
 九  迷惑は口先だけとすぐに知れ       海 雑
 十   相槌打つもうはのそらなり       糸 雑
 十一 ジグソーのゴジラ仕上がる花明り     山 晩春/花
 折端  縞のキルトに蒲公英の絮        女 三春

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 七  移り香のスーツに残る帰り道       女 雑/恋

付合は初折裏の後半に差し掛かり、七句目は3飛び早番笑女さんの担当。前句の恋の呼び出しを承けて、恋の情を明らかに表出した付句をお願いしました。
歌仙では一巻の中に必ず恋句を詠むこととされており、恋句のない作品は半端物(はんぱもの)という有り難くない評価を受ける仕儀となります。
間もなく候補5句が呈示され、その中でもっとも良いと見た上掲句を初案のまま頂くことにしました。「移り香」を前句の女性のものと見立てて相手の男性を描いた「向付(むかいづけ)」の手法に従う付けで、すらりとした句姿と併せてよい付味が感じられます。
前句の呼び出しにうまく応じた恋の七句目が生まれました。

 八   逢瀬重ねる焼肉の店          輔 雑/恋

八句目はお待ち兼ね、5飛び遅番の俊輔氏にお願いします。ここにも恋句に関する式目上の決まり事があり、いったん恋句が出たらそれを含めて必ず二句以上は続けなければなりません。この習わしに従ってこの句所では恋を続けることになります。
俊輔氏呈示の候補5句の中、「逢瀬はいつもジンギスカン屋」に目が留まりました。お住まいの北海道滝川市の名物の店、そこを恋の舞台に選んだ奇抜な発想に捌の食指が動きました。前句の「残り香」を温和しく承けず、はぐらかしに出た妙技が冴えています。惜しむらくは、下七が六・一という頭でっかちの句形のために句調がいま一つ整わないこと。ここにもうひと工夫欲しいところです。そこでこの難点を解消すべく、上掲句のような一直案を浮かべ、この句形で治定としました。
食物と恋の意表を突く取り合わせによって展開の面目を一新した、良い味の九句目が生まれました。

 九  迷惑は口先だけとすぐに知れ       海 雑

次は九句目。付番の回ってきた捌がこれに早速付けを試みました。
掲句は、一句を独立させて読めば恋の趣は感じられないものの、前句に付けて味わうとそこはかとない恋の情緒が漂う、そのような句について言う「恋離れ」を試みました。身に覚えのない艶聞を流されたことに対する「迷惑」という見立てが前句への付心として働いています。

 十   相槌打つもうはのそらなり       糸 雑

十句目は4飛びの標準巡行によって付番の回って来た遊糸さんにお願いします。
話の続きを言うのではなく、前句の人物に相応しい動作・振舞を詠む方向を目指すことが、前句との離れを生む要諦になると思われます。また、次の十一句目が花の座で、ここはその前に位置する「花前」と呼ばれる句所にあたるために、植物や花の出しにくい句材は控えるべしとされています。
これらの注文を受けて遊糸さんから呈示された候補7句について吟味を加えた結果、初案「上の空にて相槌を打つ」が、ピントを一点に絞ったところから良い味が出ていると見ました。なろうことならば、「相槌を打つ」の「を」に籠もる説明の匂いを消すために、これを用いずに表現したい気がします。
そこで、本案の上下を入れ替え、余分と思われる助詞を省く「すみのテニハを切る」と呼ばれる手直しを加え、掲句の句形に改めて治定としました。
前句に逸らし気味に付けたところに曲折を感じさせる、付味の良い十句目が生まれました。

 十一 ジグソーのゴジラ仕上がる花明り     山 晩春/花

十一句目は初折の花の座。この花は4飛び巡行で付番の回ってきた禿山氏に持って頂きます。前句に描かれた人物を新たな視点から捉えてそこに花を配するという、かなり気骨の折れる付合になりそうな予感がしますが、そこを上手くあしらうのが付け手の腕の見せ所。
この間、下に示した「付記」にあるような事情によって数日間の「付合停止」期間が生じ、それが解除された後に禿山氏から候補5句が呈示されました。その中から初案「花の下ジグソーパズルの仕上げ時」を拾い上げました。惜しむらくは、「上」字が前句と同字の障りになることと、前句の「上の空」との論理的整合を図ろうとした点に"付け代"の広過ぎる印象が残ります。
前件については、「仕上げ」が他の語をもっては代え難いために、すでに治定していた前句の初案「上の空」を「うはのそら」と旧仮名遣いに改めることをもって解消策とし、後件を含めて掲句のような一直形に仕立て上げて治定としました。
なお、中七「ジグソーパズルの」の字余り解消を図る際に、その絵柄には何がよかろうと思い巡らした果てに浮かんだのが、最近の映画で話題の「シンゴジラ」。絵柄を言えば「ジグソー」だけでも通じると考えて、これを組み込むことによってさらなる具体性を持たせました。
前句への程よい付味と意外性のある、斬新な初折の花句が生まれました。

 折端  縞のキルトに蒲公英(たんぽぽ)の絮(わた) 女 三春

初折裏の折端は4飛び定時巡行によって笑女さんに付番が回ってきました。
人情句が重なって運びがいささかこみ入ってきたので、ここは人情を離れた場の句でさらりと逃げるのがよさそうですが、人情を加えるならば打越と同じ自他半は避けましょう。
同級会の準備と運営による疲れを癒やして日常生活のリズムを取り戻された笑女さんから呈示された折端候補5句の中、初案「キルト模様に蒲公英の絮(わた)」に目を留めました。
ご自解には、句材が前句と同じ植物であることへの懸念が示されていましたが、これは「摺付(すりつけ)」と呼ばれる付け方で、打越ならば差合になりますが、一句を隔てない付句なので、その点に問題はありません。また、「キルト」に「ジグソー」がほのかに通って良い味を出していますが、欲を言えば「キルト模様」にもう一つ具体性を持たせたい印象を受けます。そこでその点についての補修を加えた掲句の句形をもって治定としました。
しばらく続いた人情句を離れてあっさりした付味の、転じ具合も良い折端が生まれました
(この項続く)

(付記)
上記十一句目の付句条件を禿山氏に呈示したちょうどその頃、故郷のいわき市湯本温泉の旅宿で予定されていた、喜寿の祝いを兼ねた中学校同級会が間近に迫っていました。当の禿山氏も初めは出席の心算でおられたのでしたが、前記のように、にわかに入院の事態が出来(しゅったい)したため、無念の思いで欠席を表明される仕儀に至りました。
氏はその思いをメールに綴り、会の当日私宛てに送って下さり、当夜の席で同級生各位に最後の挨拶として披露して欲しい旨を依頼されました。その懇請を受けて旧交を温める宴に先だって級友に披露した、その文面には次のようにありました。

===
平一中クラス会 開催 おめでとうございます。お集まりの皆様には 多少の問題は抱えていても このように参加できるのであって これは喜ばしい限りです。私も楽しみにしていたのですが 現在 体力低下が著しく、室内の移動がやっとで 長距離の移動は難しい状況です。これも この春、悪性リンパ腫の再発と 胃ガンの発病を告げられ 私は手術等を諦め 無処置を選択、末期には緩和病棟で処置を受けることを決断しました。現在 その緩和ケアにて 日ごとに食事の通過が難しく 僅かな流動食に頼っている状況ですので いずれ 最後を迎えるのは避けられません。しかし、今の医療チームは 患者に苦痛と不安を与えぬよう 丁寧、かつ懸命に処置してくれますので 皆様にもご休心願います。
私の参加は難しいですが この会が1年、もう1年と 末長く続くことを願ってます。そして皆さまのご多幸を念じ ご挨拶と致します。皆様 長い間お世話になり ありがとうございました。
===
とびぃ
連句
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【佐藤禿山氏追悼連句】いわき文音五吟歌仙『ひよどりは』の巻 解題02(初折裏折立から六句目まで)
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※画像はサイト「鶴岡市立加茂水族館/クラネタリウム」より転載

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  いわき文音五吟歌仙「ひよどりは」の巻        宗海捌
                        起首 2016.08.09
                        満尾 2016.11.10


 発句 ひよどりは試練の海を越え行きぬ    禿山 三秋
 脇   涼新たなる旅立ちの朝        遊糸 初秋
 第三 来し方を家郷の月に眺むらん      俊輔 三秋/月
 四   薬あれこれ入れるポシェット     笑女 雑
 五  妹は姉に似合わぬ器用者        宗海 雑
 折端  吊り床揺れる薫風の庭         山 三夏
初裏
 折立 水族館人気抜群大くらげ         糸 三夏
 二   酢物味濃き嫁の手料理         輔 雑
 三  四捨五入すれば傘寿よ背の丸み      女 雑
 四   枯蔦からむ宮の狛犬          海 三冬
 五  難問が解けて空には冬の月        糸 三冬/月
 六   誕生なるか女性領袖          山 雑

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

初裏
 折立 水族館人気抜群大くらげ         糸 三夏

 
膝送りは初折裏入り。折立担当は4飛び付番の遊糸さん。前句と同季の夏で初折の表裏を繋ぎます。人情句が続いて少々粘りが出て来たので、ここは場の句でさり気なくあしらうか、人情が入っても諄(くど)くならないよう、あっさり仕立てで行くことをお願いしました。
程なく呈示された候補6句の中から、初案「水族館浮かぶ海月が人気者」を選り出しました。前句の揺れる吊り床からクラゲの姿を思い浮かべたところに、連想の自然さと転じの良さがあります。ただし「浮かぶ」は "言はずもがな" の感を覚える詞なので、下記の数次に及ぶ改案を経て上掲句に治定しました。
一直初案は「大くらげ水族館の人気者」だったのですが、表五句目の「器用者」と「者」の同字で障ることに気付き、これを「大くらげ水族館の人気取り」に改めたものの、なお下五の言い回しが落ち着かず、これに再度手を加えて掲句の形に落着した次第です。
前句からさらりと転じた、折立にふさわしい展開の期待される付句が生まれました。
 
 二   酢物味濃き嫁の手料理         輔 雑
 
二句目はお待ち兼ね俊輔氏の付番。夏が二句続いたところで雑に戻ります。前二句が人間の登場しない場の句なので、ここは是非とも人情を起こしたい局面です。
このような要請を受けた俊輔氏から同日中に候補5句が呈示され、その中から初案「濃い酢物味嫁の手料理」を選びました。
本句は、前句の「くらげ」を付所として転じを図ったもの。着眼の良さが感じられるものの、上七の運辞にいま一つ工夫が欲しい気がします。そこで、上七内部の語順を入れ替えてその難の解消を図った結果、掲句の形に治定しました。
生類から食物の句材に転じて人情を起こした、付味の良い二句目が生まれました。
 
 三  四捨五入すれば傘寿よ背の丸み      女 雑
 
三句目は4飛び巡行に従って笑女さんに付番が回って来ました。前句の起こした人情を承けて、ここもまた人情句を続けましょう。
間もなく呈示された候補5句の中から、掲句を初案のまま頂戴することにしました。
本句は、前句の「嫁」にその《舅・姑》にあたるを人物を対置させた「向付(むかいづけ)」と呼ばれる手法に従ったもの。併せて人生の諸相に対する喜怒哀楽の情を述べる「観相」の付心も感じられます。
軽い俳味の中にも深みのある老体句が生まれました。
 
 四   枯蔦からむ宮の狛犬          海 三冬
 
笑女さんの三句目に、4飛び付番の捌が早速付けさせて頂きます。
掲句は前二句からの三句絡みの難を回避すべく、人情を捨てて冬の釈教句に逃れました。
前句の「老体」に通じる要素を持つ三冬の季語「枯蔦」によって前句に響かせたところに付心が働いています。また句材の「狛犬」にも、前句の「背の丸み」に通う付筋が潜んでいます。
 
 五  難問が解けて空には冬の月        糸 三冬/月
 
膝送りは三巡目入り、五句目は3飛び早番の遊糸さんの担当です。ここを二度目の月の座とします。
前句の季を承けてここは冬の月を詠んで頂きましょう。その際に第三の月に詠まれた状況と重ならない配慮が必要です。
この条件を承けて遊糸さんから呈示された候補5句の中から、初案「難問を解いて見上げる冬の月」に一直を加えた掲句を治定しました。「解いて見上げる」にかすかな説明の匂いを感じたので、「難問」を主体とする表現に改め「見上げる」は言外に隠しました。
前句の「枯蔦」が絡んだ姿に「難問」と通う要素を見出して新たな世界への展開を図った付けと転じの効いた五句目が生まれました。
 
 六   誕生なるか女性領袖          山 雑
 
六句目はお待ち兼ね6飛び遅番の禿山氏の付番。二句続いた冬を離れて雑に戻りましょう。
そろそろ恋が欲しい局面なので、どこかに恋を誘うような趣を感じさせる「恋の呼び出し」をお願いします。いきなり恋に入るのではないところにひと工夫が必要です。
 
ところが、このような条件を呈示した翌日、緩和病棟への引っ越しのために目下待機中という禿山氏からのメールが、担当医の病状説明を添えて送られてきました。胸を突かれる思いに囚われて危ぶみながら氏の句吟を待っていると、それより三日後、病床にある禿山氏のiPhoneから六句目候補5句の句案が届きました。
一座に寄せる氏の並々ならぬ思いに心を打たれながら吟味を加えた結果、離れ味の効いた初案「女性党首の誕生なるか」を、恋の呼び出し役としてもっとも良しと判定しました。ただ惜しむらくは、下七の四三の形が句調を損ねています。そこでこの点を改めるべく上下を倒置させ、かつ「党首」を4拍類義語「領袖」に入れ替える一直を加えて掲句のように句形を定めました。
時あたかも民進党の党首選びに向けた動きが始まったところ。そのような時事性を兼ね備えた、恋の呼び出しとしては意外性のある佳句が生まれました。(この項続く)
とびぃ
連句
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【佐藤禿山氏追悼連句】いわき文音五吟歌仙『ひよどりは』の巻 解題01(発句から初折表折端まで)
興行発足以来足掛け10年に及ぶ歳月を閲した「いわき文音連句」、その通巻第二十四にあたる歌仙「『ひよどりは』の巻」がこのたび満尾を迎えました。

その付合が終局にさしかかった頃、初巻以来メールによる文音方式の座を共にしてきた、札幌在住の佐藤禿山氏が入院先の病院で急逝されるという悲報に接しました。

メールによる文音連句を病間のこよなき楽しみとしながら、満尾を待たずに永の眠りに就かれた氏のご冥福を祈念しつつ、捌を務めた宗海が本巻に解説を加えて氏の霊前に捧げさせて頂きます。

hiyodori.jpg
※画像はサイト「FM-JAGA(FM帯広)」より転載

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

  いわき文音五吟歌仙「ひよどりは」の巻        宗海捌
                        起首 2016.08.09
                        満尾 2016.11.10

  発句 ひよどりは試練の海を越え行きぬ    禿山 三秋
  脇   涼新たなる旅立ちの朝        遊糸 初秋
  第三 来し方を家郷の月に眺むらん      俊輔 三秋/月
  四   薬あれこれ入れるポシェット     笑女 雑
  五  妹は姉に似合わぬ器用者        宗海 雑
  折端  吊り床揺れる薫風の庭         山 三夏

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


五吟による膝送り方式はこれが四度目。初・二巡目は a禿山>b遊糸>c俊輔>d笑女>e宗海、三・四巡目は b>a>d>c>e の付順を、それぞれ交互に二度ずつ繰り返しながら進めるという、前巻と同じ五四三飛び方式に従います。

  発句 ひよどりは試練の海を越え行きぬ    禿山 三秋


今巻の発句は、当の禿山氏に順番が回ってきました。呈示された候補5句の中から捌が選んで一直を加えたのが掲句。初案は「ひよどりや海峡超えに試練待つ」でした。狙いを三秋の季語「ひよどり」に定めた場の句で、試練の海を越えて行くひよどりの姿に、病と闘う作者の思いを籠めた一座への挨拶句と見定めました。ただ「海峡超え」「試練待つ」の運辞にいささか説明の匂いが感じられるので、これを上記の句形に改めました。

なお本句初案には次のようなコメントが添えられていました。それをこに引用して野鳥観察を楽しみの一つとされていた氏を記念する便(よすが)とします。
======
本道のひよどりの殆どは秋に道南に集結し群れをなして津軽海峡を渡り南を目指します。これに合わせて猛禽類のハヤブサも狩りの為に集まり海を渡る直前を狙います。ハヤブサは水が苦手の為ひよどりが海上に出てしまったら追わず地上から飛び立ち海までの僅かな区間が狩場となります。この様子今やすっかり知れ渡り全国から野鳥愛好家やカメラマンが集まるそうです。
======

  脇   涼新たなる旅立ちの朝        遊糸 初秋


運行目論見に従い、脇は遊糸さんにお願いします。前句が三秋なのでここは初秋の季語を用いて当季を定めることが必須条件。人情の有無は問いません。発句の言い残したものを探り当ててこれに寄り添うようにぴたりと付けるのが脇の大切な役割です。
このような条件に応えて、暑さをものともせぬ健吟ぶりを発揮して呈示された、その候補8句の中から「初めて涼し旅立ちの頃」を第一候補として選り出しました。これに運辞面から吟味を加えみるに、本句は上七でいったん言い切られていますが、ここは下に続けた方がすらりとした句姿になります。また「頃」で句末を留めるのは二拍分の余白を充填するための方策ですが、本句の場合にはそれよりも、時節を表す詞を表に出した方が、発句の言外にあるものを示す上でさらなる効果ありと見ました。
これらの吟味に基づいて、上七「初めて涼し」を傍題「涼新た」に替え、句末を「朝」とした上掲の句形に改めさせて頂きました。
初秋の季語を用いて当季をしっかと定め、人事への展開が期待される脇が生まれました。

  第三 来し方を家郷の月に眺むらん      俊輔 三秋/月


第三は俊輔氏の担当。発句が秋で始まった一巻は、月の定座を第三に引き上げるのが定石です。「月」とだけ詠めば秋になるので他の季語は要りません。前句は人情有無いずれとも解されますが、ここは「旅立ち」を付所に必ず人情を起こすことにしましょう。
第三は一巻の変化が始まる句所で、前二句の世界から大きく離れることが必須条件。また第三の句姿は発句に匹敵する「丈(たけ)高さ」が求められます。
これらの条件を踏まえて呈示された候補5句を、捌が篩に掛けて粗選りをした結果、「眺めやる来し方の月婚家にて」が残りました。
ただしこれについては、《過去》を言う「来し方」と月を直接結び付けた点と「婚家」の硬さの難を解消したい欲求を覚えます。
そこで、その両点について一直を加えた上掲句形に改めて治定としました。
前句の「旅立ち」への「対(つい)」付けとして、ふるさとに住む朋友の「来し方」に思いを巡らす人物を配した、落ち着きのある第三が生まれました。

  四   薬あれこれ入れるポシェット     笑女 雑

 
四句目はお待ち兼ね笑女さんの付番。秋の句数の縛りが解けたところで雑に転じましょう。格式を感じさせる句が三つ続いたので、この句所は「四句目ぶり」と称される軽い味の句でさらりとやり過ごしたいところです。人情は他または自他半、場の句でも構いません。
これらの条件に基づいて呈示された候補5句の中、「常備薬詰めポシェットを持つ」に目が留まりました。目先の変わった句材が軽くて四句目に相応しく、片仮名語も転じに効果があります。ただ、「…詰め…持つ」の表現が散文的で説明の匂いがするところにもう一手間加えたい印象が残ります。
そこでこれに短句らしさを付加する狙いを含めて掲句のように改めました。その第一次案は、初案の句形を活かして下七を「詰める…」としたのですが、打越の「旅」の用意のようにも読まれてしまうのを嫌って、このように改めました。
前句の「眺む」の主体に当たる人物の行為と見立てた、「其人」の手法に従う転じ味の良い四句目が生まれました。

  五  妹は姉に似合わぬ器用者        宗海 雑


前句の「ポシェット」を、手芸好きの義妹が贈ってくれた作品と見定め、そこに軽い俳味を加えた人情他の句です。実はこれに近いことが身近にあったばかりだったので、前句を見てすぐに本句が浮かびました。

  折端  吊り床揺れる薫風の庭         山 三夏


膝送りは早くも二巡目入り。兼ねての目論見どおり同じ付順をもう一遍繰り返すので、折端は4飛び付番の禿山氏が担当します。
一面二季としたいので、夏または冬いずれかの季語を用いて前句を承けること、話の続きとして理詰めで付けようとすると粘りが出るので、さりげなくふわりと付けることをお願いしました。
その要求に応じて提出された候補5句の中の「すず風吹いて庭木刈り込む」に、程良い付味と折端らしい落ち着きを覚えたので、この運辞の順序を入れ替えて「韻字止め」の形に改めました。
なおここでも、当初は初案を活かす心算で「庭木刈り込む涼風の庭」としたのですが、禿山氏から「涼」字が脇にある旨の指摘を受けたことと一句内の「庭」字の重出を嫌って、掲句の句形に治定しました。
(この項続く)
とびぃ
連句
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町田市民連句大会の報告(フェイスブックより転載)
11月27日に町田市民文学館において「第9回 町田市民連句大会」が開かれ、私もこれに参加しました。

午前は詩人梅村光明さんによる「詩人と連句」と題する講演があり、休憩・昼食をはさんで、午後から連句実作が行われました。
俳席は9組設けられ、各座5~6名の連衆が捌を中心に付合を行う形で進められました。各席には鳥にちなむ名が付けられ、私が捌を務めた5番目の座には「善知鳥(うとう)」という難読熟字の名札が立てられていました(注)。

連句形体はそれぞれの捌が決めることになっていたので、本席では時間の制約を考慮して「ソネット俳諧」と呼ばれる短い形式に従うことにしました。これは珍田弥一郎氏の考案になる連句形体で、ヨーロッパの定型詩で「ソネット」と呼ばれる4連14行詩に模したもの。一巻を4・4・3・3の四連に分け、各連に四季を配し、いずれかの連に花・月・恋を入れる形で運ばれます。

短い形体のお陰で、実作の終了時刻午後4時までには、談笑を楽しみながら余裕をもって満尾に漕ぎ着けることが叶い、最後に各席の捌が出来上がったばかりの作品を披講して滞りなく閉会に至りました。その作品と画像3枚をご覧下さい。
 
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 第9回町田市民連句大会
   ソネット俳諧「町口に」の巻    林 宗海捌

                  2016.11.27首尾
一連
 01 町口に続く尾根路や冬紅葉     林 宗海
 02  付合の座に満つる重ね着     辻 杏奈
 03 まっさらな空オカリナを吸いゆきて 山本真里
 04  喫煙場所は交番の裏       野村路子
二連
 05 うなだれて信楽焼に万年青の実   林 翠哥
 06  隠れ家さがすえんま蟋蟀       路子
 07 ふるさとの記憶をたどる月今宵     翠哥
 08  あるかなきかの風が君呼ぶ      真里
三連
 09 ギヤマンのグラスに触れる唇が好き   路子   ※唇(くち)
 10  蹠の砂のいまだ乾かず        真里   ※蹠(あうら《足裏》)
 11 ねうねうと甘える猫を抱きあげて    杏奈
四連
 12  神はお留守の厠三尺         翠哥
 13 トランプが徒に咲かせた花の冷え    杏奈   ※徒(あだ)
 14  海原遠く霞む鐘の音         執筆

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(注)この鳥はウミスズメ科に分類される海鳥の一種で、画像③に見るように上嘴の付け根に角状の突起があるのが著しい特徴。
なお能の演目にもこの鳥の名に基づく「善知鳥」がある。この鳥を殺して生計を立てていた猟師が、死後に亡霊となって生前の殺生を悔い、そうしなくては生きていけなかった身の悲しさを嘆くという内容。
なおまた、ウトウにこの漢字表記を宛てた根拠は不明だが、室町時代にすでにその文証がある。鳥名の由来も定かではないが、この鳥の鳴き声に基づく擬音語と解する語源説がある。
DSCF1093.jpg

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とびぃ
連句
0 0

いわき文音五吟歌仙「粥の香に」の巻 解題06(名残折裏折立から挙句まで)
hana05.jpg
※画像はブログ「お花見写真館2016/烏城(岡山)」より転載


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  いわき文音五吟歌仙「粥の香に」の巻         宗海捌
                        起首 2016.04.17
                        満尾 2016.07.06

 発句 粥の香に春の眠りを覚ましけり     宗海 三春
 脇   独活和え添えて床上げの膳      禿山 晩春
 第三 山笑ふ友の集へる故郷に        笑女 三春
 四   演歌の後は校歌朗誦         俊輔 雑
 五  夕暮れの川面に浮かぶ月赤し      遊糸 三秋/月
 折端  ちちろのすだく長屋門筋        海 三秋
初裏
 折立 ぐずる子をなだめすかして冬支度     山 晩秋
 二   亭主の膝で眠る三毛猫         女 雑
 三  ドクターの止めるも聞かずジャムを舐め  輔 雑
 四   自慢にならぬ強がりの癖(へき)     糸 雑
 五  ふつふつと汗の噴き出るサウナ風呂    山 三夏
 六   ヨガを済ませて付ける香水       海 三夏
 七  ふたとせの縁(えにし)をつなぐ赤い糸   輔 恋
 八   逢瀬待つ夜は心蕩(とろ)けて      女 恋
 九  お決まりの喧嘩の種はもの忘れ      糸 雑
 十   四月馬鹿なる真昼間の月        山 仲春/月
 十一 纜(ともづな)をぶらりと垂らす花見舟   海 晩春/花
 折端  鼻毛抜きつつ春の手枕         輔 三春
名残表
 折立 焼き上がる目刺鰯の香ばしく       女 三春
 二   ビーズつなぎに嵌まる此の頃      糸 雑
 三  ジャズラジオ好みはいつもサキソフォン  海 雑
 四   塩辛声が笑ひ振りまくく        山 雑
 五  熱燗が常温になる呑み談義        女 三冬
 六   朝の湯婆は二度のお務め        輔 三冬
 七  喜寿の会焼けぼっくいに何とやら     糸 雑
 八   人目を忍ぶささやきの道        海 恋
 九  触れた手の指絡め取る日暮れ時      山 恋
 十   酔ひの紛れに恋懺悔する        女 恋
 十一 草芝居赤城の月にお捻りが        輔 三秋/月
 折端  越える峠に行き合いの空        糸 初秋
名残裏
 折立 SLが二連で喘ぐ暮の秋         山 晩秋
 二   盆栽までも売れぬ円高         海 雑
 三  理髪より嵩むチワワのトリミング     輔 雑
 四   袖にやさしき絹の手触り        糸 雑
 五  蔵の街綿菓子色の花明かり        笑 晩春/花
 挙句  謡のどかに仕舞ふ老匠        執筆 三春
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名残裏
 折立 SLが二連で喘ぐ暮の秋         山 晩秋


膝送りは名残折裏に入り連衆各自最終の付番を迎えるに至りました。折立は3飛び早番禿山氏の担当。秋をもう一句続けます。前句が初秋で季戻りの恐れはないので秋三期いずれも可です。人情は二句前から他→自と続いているので、打越に戻る人情他は避けましょう。
これらの条件を承けて呈示された初案5句の中から「SLも二連で喘ぐ秋深し」の初案句を選びました。自解の中に、横文字はどうかという懸念が示されていましたが、これはかえって転じを良くするのに効いています。ただ細かいことながら、「も」に《上り峠の急峻さ》を説明する匂いがあることと、「SL…喘ぐ」の用言がまとめた修飾句をいったん「秋」が承けた後、さらにそれを「深し」と用言を重ねる言い回しにもうひと工夫欲しいところです。そこでこれらの点に僅かな一直を加えて掲句の形に改めました。
前句の「峠」に対してやや付き味が濃い印象はあるものの、転じに工夫の見られる折立が生まれました。

 二   盆栽までも売れぬ円高         海 雑


これに早速5飛び遅番の捌が付けます。前句の「喘ぐ」を付所に、そこからの質的転換を図りました。時事問題を扱った句がまだ出ていなかったので、イギリス国民投票の結果が日本経済に波及し、それが盆栽の輸出にまで影響が及びつつあるとされる当今の世界情勢を絡め、タイムスタンプのつもりで付けたものです。

 三  理髪より嵩(かさ)むチワワのトリミング     輔 雑


ナウ三句目は3飛び早番の俊輔氏にお願いします。場の句が二つ続いたので、ここは必ず人情を起こすことと、《不況》の要素が加わると三句絡みに陥る恐れのある局面なのでこの点は特に注意が必要です。
これらの条件の下に呈示された候補5句の中から選んだのは「散歩させトリミングするチワワにて」という無季の句。「盆栽」から「チワワのトリミング」への転じによい味が感じられますが、構句上「チワワ」に掛かる修飾句に二つの要素を盛り込んだところに説明の匂いがあるため、そこに一直を加えて掲句の形に改めました。「散歩」は捨てて「トリミング」に焦点を絞り、別に飼い主の理髪代との比較の要素を加えて俳諧味を付加したものです。「盆栽」から「チワワのトリミング」に転じた着想の奇抜さが満尾近くの付合に興を添えました。「円高」と「嵩む」にも内容面の響き合いがあります。

 四   袖にやさしき絹の手触り        糸 雑


花前の四句目は初めに記したとおり、本来ならば笑女さんの5飛び付番に当たる句所なのですが、まだ月花いずれの句もお詠みでなかったので、次の遊糸さんと付順を交替して花の座をお譲り願うことにしました。雑をもう一句続けることと、起情の前句を承けて必ず人情を加えることが条件となります。
呈示された候補5句の中、前句に微かに漂う《感触》の要素を付所とした「この感触が忘れられずに」を選り残しました。ただし指示語の「この」が前句をそのまま承ける形になるため、付句の独立性が損なわれる印象を与える点に難があるので、上記の要素のみを活かして大幅な内容の入れ替えを行いました。次の花句が詠みやすくなるような配慮も加えたつもりです。前句から大きく離れて花を招くにふさわしい四句目が生まれました。

 五  蔵の街綿菓子色の花明かり        笑 晩春/花


次は一巻の飾りとなる匂いの花。6飛び遅番でお待ち兼ねの笑さんに花を持って頂きます。品種名を言わずに「花」とだけ詠んで花句の要件を満たすことと、人情は他、あるいは人情無しも可とします。
これらの条件の下に呈示された候補5句の中から、掲句を初案のまま頂くことにしました。「綿菓子色」が心惹かれる決め詞で、「蔵の街」も前句によく映えています。前句にほのかに通う上々の付味を備えた匂の花の句が生まれました。

 挙句  謡のどかに仕舞ふ老匠        執筆 三春


挙句は捌の分身に当たる「執筆」が付けることにします。
前句の候補句中にあった「傘寿」に籠もる《老体》の要素をここに活かすことにして、蔵の街にふさわしい「謡」「仕舞」の句材を用いて、めでたい気分の挙句で一巻を巻き納めました。(この項終り)
とびぃ
連句
0 0

いわき文音五吟歌仙「粥の香に」の巻 解題05(名残折表七句目から折端まで)
akagiyama.jpg
※画像は「エントレ」より転載

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  いわき文音五吟歌仙「粥の香に」の巻         宗海捌
                        起首 2016.04.17
                        満尾 2016.07.06

 発句 粥の香に春の眠りを覚ましけり     宗海 三春
 脇   独活和え添えて床上げの膳      禿山 晩春
 第三 山笑ふ友の集へる故郷に        笑女 三春
 四   演歌の後は校歌朗誦         俊輔 雑
 五  夕暮れの川面に浮かぶ月赤し      遊糸 三秋/月
 折端  ちちろのすだく長屋門筋        海 三秋
初裏
 折立 ぐずる子をなだめすかして冬支度     山 晩秋
 二   亭主の膝で眠る三毛猫         女 雑
 三  ドクターの止めるも聞かずジャムを舐め  輔 雑
 四   自慢にならぬ強がりの癖(へき)     糸 雑
 五  ふつふつと汗の噴き出るサウナ風呂    山 三夏
 六   ヨガを済ませて付ける香水       海 三夏
 七  ふたとせの縁(えにし)をつなぐ赤い糸   輔 恋
 八   逢瀬待つ夜は心蕩(とろ)けて      女 恋
 九  お決まりの喧嘩の種はもの忘れ      糸 雑
 十   四月馬鹿なる真昼間の月        山 仲春/月
 十一 纜(ともづな)をぶらりと垂らす花見舟   海 晩春/花
 折端  鼻毛抜きつつ春の手枕         輔 三春
名残表
 折立 焼き上がる目刺鰯の香ばしく       女 三春
 二   ビーズつなぎに嵌まる此の頃      糸 雑
 三  ジャズラジオ好みはいつもサキソフォン  海 雑
 四   塩辛声が笑ひ振りまくく        山 雑
 五  熱燗が常温になる呑み談義        女 三冬
 六   朝の湯婆は二度のお務め        輔 三冬
 七  喜寿の会焼けぼっくいに何とやら     糸 雑
 八   人目を忍ぶささやきの道        海 恋
 九  触れた手の指絡め取る日暮れ時      山 恋
 十   酔ひの紛れに恋懺悔する        女 恋
 十一 草芝居赤城の月にお捻りが        輔 三秋/月
 折端  越える峠に行き合いの空        糸 初秋
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 七  喜寿の会焼けぼっくいに何とやら     糸 雑


七句目は順行4飛び付番遊糸さんの担当。二つ続いた冬を離れて雑に戻ります。打越が人情自他半なので、人情句で行くならば自あるいは他、場の句も可とします。このあたりそろそろ二度目の恋句が欲しい局面、恋の呼び出しとなるような要素が含まれていれば申し分ありません。
これらの条件に応えて呈示された候補6句の吟味の結果、初案句「同窓会焼けぼっくいに火がついて」が捌の篩(ふるい)に残りました。前句「二度のお務め」を付所に新たな状況へと付筋を伸ばしたもので、恋の呼び出しとしても相応しいと見たのですが、惜しむらくは「火」に打越「熱燗」と通う要素のあることと、「同窓会」が第三と四句目の「友・集う」「校歌朗唱」の世界に戻る遠輪廻の嫌いのある点が大きな障りになります。そこでこの難を改めるべく、これらを詞の表に出さずに"ぼかし"を掛けた掲句の一直案を浮かべました。
前句の「湯婆」が《老体》の付所となることと、「何とやら」にその齢に相応しい《もの忘れ》の響きを持たせて隠し味を効かせたものです。前句の《再度》の要素を《再燃》に転換して恋の呼び出しとした、転じ味の良い七句目が生まれました。

 八   人目を忍ぶささやきの道        海 恋


八句目は捌の付番。前句の誘いに乗ってこれを明らかな恋で承けました。ちなみに「ささやきの道」とは、国分寺市に隣接する小平市を流れる玉川上水沿いの細道の名。ここはかつての一橋大学教養部キャンパスと津田塾大学を結ぶ小径で、恋をささやくには絶好の場所です。ここを前句の老いらくの恋の舞台に選びました。

 九  触れた手の指絡め取る日暮れ時      山 恋


膝送りはさらにしばらく4飛びで順行します。九句目は禿山氏の付番、前句を承けて恋をもう一句続けます。八句目を共有しつつ、前二句の老体の恋からどのように離れるかが見所ですが、この展開はさほど難儀ではないように思われます。
呈示された候補5句の中で捌が目を付けた初案は「日暮れ時手に手を取った二人連れ」ですが、三句前の六句目と「二」の同字で障ります。「二人」を「ふたり」と仮名書きにして逃れる方策はあるものの、その《二人連れ》の要素はすでに前句に含まれていて、これを詞の表に出すと底が浅くなり、句の面白さが逃げてしまいます。そこでここに詠まれた状況を活かして大幅な一直を加えたのが掲句です。前句を日暮れ時と見立てた「其時」の手法に従い、その場に似合わしい初々しい恋模様に仕立て替えた付味の良い九句目が生まれました。

 十   酔ひの紛れに恋懺悔する        女 恋


十句目も順行4飛びで笑女さんに付番が回ってきました。恋の行方が気になるならばもう一句続けるか、あるいは恋離れで行くか、その判断は作者にお任せとします。人情を加えるならば、自他半句が二つ続いたので、これを避けて自または他、さもなくば人情を離れて場の句に転じるのも良いでしょう。
これらの条件を承けて呈示された候補5句の中から、初案「酔った振りにも色香いぢらし」に目を留めました。前句の状況の陰に《酔い》の要素を見出した付けで付味は悪くありませんが、前句からの転じ幅がいささか狭いため、打越から一直線に続く三句絡みの恐れがあり、その点についてもう一工夫欲しいところです。
本句の主軸となる《酔い》の要素を活かしたいと考えを巡らしたのですが、このままではどうしても前二句の世界の続きになってしまいます。そこで、窮余の一策として、前句から時間的な隔たりを置いた掲句を浮かべてみました。前句を昔の話にしてしまうことにはいささか不満が残るのですが、三句絡みを避けるには致し方ありません。そのことよりも、二度目の恋にふさわしい運びを見せた展開にうまくひと区切り付いた点をお手柄と見ました。

 十一 草芝居赤城の月にお捻りが        輔 三秋/月


順行4飛びが続いて十一句目は俊輔氏の付番。ここは月の定座にあたる句所ですが、それに絡んで難儀な問題が出来(しゅったい)しました。それは、打越九句目に時分と天象を兼ねる「日暮れ時」があるので、ここで天象を出すと打越の障りを生じてしまうことです。そこでその解決策としてここでは「書き割りの月」を詠んで頂くことにしました。「書き割りの月」とは、何らかの都合で実際に空に出ている月を詠めない場合に、絵に描いた月とか、月の異名を用いることで凌ぐ方策を指す呼び名です。
この求めに応じて呈示された候補5句の中からひとまず選んだのは「草芝居赤城の月に大向こう」という案ですが、下五を「大向こう」で留めたところにいささか不透明な印象が残ります。そこでこれを掲句の形に改めて頂戴することにしました。
前句の「酔い」と「恋懺悔」から草芝居の太夫の姿を呼び出し、それに書き割りの月を配した離れ味のよい十一句目が生まれました。

 折端  越える峠に行き合いの空        糸 初秋


名残表は折端に至り、次も4飛び順行で遊糸さんに付番が回ってきました。前句を承けて秋を続けます。十句目の人情は自他いずれにも解されますが、やや自の色彩が濃く感じられるので、人情を加えるならば他または自他半、あるいは場の句もよしとします。
この条件の下に呈示された候補5句の中から「直立不動色変えぬ杉」と「越える峠に行き合いの空」の二句を粗選りに残しました。いずれにも棄てがたい味があります。1は「直立不動」がいささか硬く、もう一段こなれが欲しいと考えて「すっくりと立つ」などの一直案も案じては見たものの、それよりも、5の《峠越え》には前句と程良く響き合う要素があって、そこによい付味が感じられる点を高く評価して、こちらを初案のまま頂戴することに決しました。
名残折表を終えるに相応しい落ち着きを感じさせる折端が生まれました。
(この項続く)
とびぃ
連句
0 0

いわき文音五吟歌仙「粥の香に」の巻 解題04(名残折表折立から六句目まで)
mezasi.jpg
※画像はWikipedia「メザシ」より転載

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  いわき文音五吟歌仙「粥の香に」の巻         宗海捌
                        起首 2016.04.17
                        満尾 2016.07.06

 発句 粥の香に春の眠りを覚ましけり     宗海 三春
 脇   独活和え添えて床上げの膳      禿山 晩春
 第三 山笑ふ友の集へる故郷に        笑女 三春
 四   演歌の後は校歌朗誦         俊輔 雑
 五  夕暮れの川面に浮かぶ月赤し      遊糸 三秋/月
 折端  ちちろのすだく長屋門筋        海 三秋
初裏
 折立 ぐずる子をなだめすかして冬支度     山 晩秋
 二   亭主の膝で眠る三毛猫         女 雑
 三  ドクターの止めるも聞かずジャムを舐め  輔 雑
 四   自慢にならぬ強がりの癖(へき)     糸 雑
 五  ふつふつと汗の噴き出るサウナ風呂    山 三夏
 六   ヨガを済ませて付ける香水       海 三夏
 七  ふたとせの縁(えにし)をつなぐ赤い糸   輔 恋
 八   逢瀬待つ夜は心蕩(とろ)けて      女 恋
 九  お決まりの喧嘩の種はもの忘れ      糸 雑
 十   四月馬鹿なる真昼間の月        山 仲春/月
 十一 纜(ともづな)をぶらりと垂らす花見舟   海 晩春/花
 折端  鼻毛抜きつつ春の手枕         輔 三春
名残表
 折立 焼き上がる目刺鰯の香ばしく       女 三春
 二   ビーズつなぎに嵌まる此の頃      糸 雑
 三  ジャズラジオ好みはいつもサキソフォン  海 雑
 四   塩辛声が笑ひ振りまくく        山 雑
 五  熱燗が常温になる呑み談義        女 三冬
 六   朝の湯婆は二度のお務め        輔 三冬
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


名残表
 折立 焼き上がる目刺鰯の香ばしく       女 三春


膝送りはこれより折が変わって名残表移り。折立はお待ち兼ね笑女さんの付番です。面の変わり目は同季で繋ぐのが好ましいので春をもう一句お願いします。前句の三春で季戻りの懸念がリセットされたので春三期いずれも可。人情も前一句で棄てずに続けましょう。
このような条件を承けて呈示された候補5句の中から「肴焼く大羽鰯の香ばしく」の初案句を選り出しました。付心の程合いが良く前句にぴたりとはまっています。ただし、魚名に重ねて「肴」と言ったところにいささか言い過ぎの難があります。なお共用の季寄せでは「大羽鰯」を三春の季語としていますが、多くの歳時記にはこれが見当たらず、「鰯」の傍題とすると三秋になってしまうおそれがあるため、より一般的な「目刺鰯」に改めました。前句と程よい付きと離れ味を備えて釣合の取れた折立が生まれました。


 二   ビーズつなぎに嵌まる此の頃      糸 雑


二句目はお待ち兼ね4飛び付番の糸さんにお願いします。春が四句続いたのでここは季を離れて雑で行きます。人情の有無は問いません。
このような条件の下に糸さんから呈示された候補6句の中から、初案「ビーズつなぎに時は過ぎ行く」を選り残しました。前句「目刺」に内在する《連なり》の要素を付所にしたものと見られます。主体を女性にして打越から転じたところによい離れ味がありますが、欲を言えば下七の表現にもう一工夫凝らしたいところです。そこで、上記の《連なり》の要素とは別に、当の女性が手芸に夢中になって夕飯の支度を忘れていた、という状況を新たに設定して掲句の形に改めました。時間的逆付けの趣も加わり、前二句の世界からの転じのよい二句目が生まれました。


 三  ジャズラジオ好みはいつもサキソフォン  海 雑


膝送りはこれより5巡目入り。名残表三句目は3飛び早番の捌の担当。これに早速付けさせて頂きます。掲句は、前句の人物がスマホで音楽を聴いている情景を目に浮かべ、それを人情自に転化させることによって転じを図ったものです。


 四   塩辛声が笑ひ振りまくく        山 雑


四句目はお待ち兼ね5飛び遅番禿山氏の担当。もう一句雑を続けることと、人情自が二句続いたので人情を加えるならば他または自他半、あるいは場にしても差し支えなしという条件で付けて頂きます。
呈示された候補5句の中から選んで一直を加えたのが掲句。前句の「ジャズ」を付所に、往年の名手ルイ・アームストロングを彷彿とさせる人物像が描出されています。初案は「合間に唄うしゃがれ声にて」でしたが、「しゃがれ声」を「塩辛声」に改めて俳味を増し、彼の満面の笑みを面影として添加したものです。愛称「サッチモ」はトランペット吹きでしたが、楽器の違いは問わず、「ジャズ」を付所と見ることにしました。人情自から他への"移り"が変化をもたらして転じの効果を挙げています。


 五  熱燗が常温になる呑み談義        女 三冬


次は五句目。付順が標準方式に戻ったことで3飛び早番の付番が笑女さんに回って来ました。ここは雑を離れて初めての冬で運ぶことにしましょう。前句を打越句に付ければ「笑みを振りまく」人物が誰であるかは一目瞭然ですが、この句所ではその世界からきっぱり離れないと三句絡みに陥ります。前句をサッチモではない不特定の人物の動作として詠むことが必須条件で、そこをどのように処理するか、そこが腕の見せ所になります。打越が人情自なので、人情他を続けるか、自他半、あるいは人情無しの場の句いずれかにしましょう。
このような条件を承けて呈示された候補5句の中から、人情自他を取り合わせて賑やかな「爺仲間燗酒温度じゃんけんで」の初案を第一候補句取り上げました。「燗酒」が三冬の季語にあたります。
燗の具合をじゃんけんで決めるというのは面白い見立てですが、打越に「好み」があり、これと似通った要素の根がかすかに繋がってしまう点が障りになります。また前句の「塩辛声」を、客ではなく飲み屋の亭主の声と見定めてみれば句の世界がさらに拡がり、そうなるともはや「爺」と特定する必要はありません。
かかる視点に立って一直を加えた掲句を浮かべてみました。談論風発の間に熱燗がすっかり冷めてしまったという見立てによるものです。前二句の世界から良い離れ味を見せて俳諧を感じさせる、転じの利いた五句目が生まれました。


 六   朝の湯婆は二度のお務め        輔 三冬


ナオ六句目は今や遅しとお待ち兼ねの5飛び遅番俊輔氏にお願いします。前句の季を承けて冬をもう一句続けます。冬三期の別は問いません。四句目が人情他なので、人情句を続けるならば打越を避けて自または自他半、さもなくば場に転じてもよしとしましょう。
このような条件の下に呈示された候補5句の中からまず「湯たんぽ空けて顔を洗浄」の初案を選びました。前句の《冷める》の要素から湯たんぽの湯を導いたのはうまい着想ですが、「空けて」以下がいささか散文的で説明の匂いを感じさせる点をもう一段詩歌らしく昇華させたいところです。その方針に従って掲句の句形に仕立て替えをしました。
なお「湯たんぽ」はそのまま使ってもよいのですが、音数律の制約から本来の語形にあたる「湯婆(たんぽ)」に鞍替えをしました。これが近代中国から伝わった本来の形で、後にその語源が忘却され、新たに「湯」を注釈的に語頭に添えた「重言(じゅうごん)」による語形変化が生じました。(この項続く)
とびぃ
連句
0 0

いわき文音五吟歌仙『粥の香に』の巻 解題03(初折裏七句目から折端まで)
hanamibune.jpg
※画像はブログ「品川 船清」より転載


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  いわき文音五吟歌仙「粥の香に」の巻         宗海捌
                        起首 2016.04.17
                        満尾 2016.07.06

 発句 粥の香に春の眠りを覚ましけり     宗海 三春
 脇   独活和え添えて床上げの膳      禿山 晩春
 第三 山笑ふ友の集へる故郷に        笑女 三春
 四   演歌の後は校歌朗誦         俊輔 雑
 五  夕暮れの川面に浮かぶ月赤し      遊糸 三秋/月
 折端  ちちろのすだく長屋門筋        海 三秋
初裏
 折立 ぐずる子をなだめすかして冬支度     山 晩秋
 二   亭主の膝で眠る三毛猫         女 雑
 三  ドクターの止めるも聞かずジャムを舐め  輔 雑
 四   自慢にならぬ強がりの癖(へき)     糸 雑
 五  ふつふつと汗の噴き出るサウナ風呂    山 三夏
 六   ヨガを済ませて付ける香水       海 三夏
 七  ふたとせの縁(えにし)をつなぐ赤い糸   輔 恋
 八   逢瀬待つ夜は心蕩(とろ)けて      女 恋
 九  お決まりの喧嘩の種はもの忘れ      糸 雑
 十   四月馬鹿なる真昼間の月        山 仲春/月
 十一 纜(ともづな)をぶらりと垂らす花見舟   海 晩春/花
 折端  鼻毛抜きつつ春の手枕         輔 三春
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 七  ふたとせの縁(えにし)をつなぐ赤い糸   輔 恋


初裏折七句目は3飛び早番俊輔氏の付番。前句から恋の呼び出しが掛かったのでここはそれに応じて頂きます。初度の恋はいきなり濃厚なのを詠むよりも、ほのかな味に仕立てるのが順当です。五句目の「ふつふつと」との打越の嫌いを避けるために、同類の畳語形式擬態語の使用は控えましょう。
これらの条件の下に呈示された候補5句の中から、初案「二人して道場通ひもはや四年」に目が留まりました。前句の言外に新たな状況を見出したところがお手柄です。ただ「道場」が「ヨガ」に付き過ぎていることと、恋の気分を別の詞に託すことができれば「二人して」は言わずとも済む詞で、もう少し"ぼかし"を効かせるとさらに面白味が加わるものと見て一直を加えたのが掲句です。
前句の人物に同じヨガ道場に通う相手を配して、あっさりとした恋模様を描き出した付味の良い七句目が生まれました。


 八   逢瀬待つ夜は心蕩(とろ)けて      女 恋


八句目は5飛び遅番の笑女さんの担当。前句を承けて雑の恋を続けます。前二句が描き出した世界の続きにならないように、前句からこれとは異なる状況を引き出すのが勘所となりますが、前句が観念性の強い恋句なので、これに付けるには具体性のあるものが欲しいところです。
呈示された候補五句の中でもっとも具体性を感じさせる上々の恋句として選んだのが掲句。"触り"とも言うべき「心とろけて」が聞かせ所です。初案は「逢瀬の夜は心とろけて」で、このままでも頂けますが、折角の好句なのでこれにもう一手間加えた句形に改めて頂戴しました。前句との付味の良い恋情纏綿(てんめん)とした佳吟が生まれました。


 九  お決まりの喧嘩の種はもの忘れ      糸 雑


九句目はお待ち兼ね遊糸さんの付番。膝送りはこれよりしばらく4飛びが続きます。
恋が二句出たのでもはや恋からは離れましょう。一句単独では恋句とは言えないものの、前句に付けて味わうとほのかな恋情が感じられる、そのような味わいが出せれば上々の恋離れになります。
このような注文に応えて呈示された候補6句の中から取り上げたのは「喧嘩するその発端は忘れごと」の初案句です。馴染みの間柄に「喧嘩」という不協和音を交えたところに転じの良さがあります。ただし「発端」には、詞の硬さと併せて打越の「縁」「赤い糸」にかすかに通う要素があり、この点にもう一工夫欲しいところです。そこでここに俳諧味を一匙加えて掲句の形に仕立て直しました。恋離れに《喧嘩》の要素を盛り込んだ転じ味の良い九句目が生まれました。


 十   四月馬鹿なる真昼間の月        山 仲春/月


膝送りは四巡目に入り、十句目は禿山氏に4飛び順行の付番が回って来ました。型通りに行くならば月の定座は八句目あたりに置かれるところですが、本興行では月花担当者が偏在しないようにこの句所まで月の座を"こぼし"ました。
また次の十一句目に花の座が続くため、それに応じてここは春の月で凌ぐという、いささか型破りの運行に従うことにしました。なお、打越の八句目に「逢瀬待つ夜」があるため、ここでは夜分の月を出すと差合になる点にも留意が必要です。
前句「もの忘れ」を付所にあれこれと付筋を探って頂いた候補5句の中から選んだのは「エープリルフール月中天に」の初案句。仲春の季語「エープリルフール」に意外性があるとともに「もの忘れ」に潜む《間抜けぶり》と通う要素が響き合って上々の付味を見せています。ただし「月中天」だけでは夜分の障りが克服されない点と、上七に付属語を入れて下七に続けたいという欲求に駆られます。そこでその付心を活かして、これに大幅な一直を加えたのが掲句です。上七の洋語を漢語に替えることによって二文字のゆとりを生み出したことと、差合を避けるために「月」を明らかな昼の月にしたいというのがその狙いです。「もの忘れ」に「四月馬鹿」を響かせて、春の昼月を短句で出すという型破りの面白さに満ちた月句が生まれました。


 十一 纜(ともづな)をぶらりと垂らす花見舟   海 晩春/花


十一句目は初折の花の座。前句の余勢を駆って、捌がこれに花句を付けます。
前句の場を河畔の場景と見定めたのですが、前句の季がまだ花時ではないので、その点を凌ぐために晩春の季語「花見舟」によってこれに応えました。「四月馬鹿」に内在する要素を具象化させることを狙って仕立てた場の句。月花を春季で連続させるという目論見もうまうまと果たすことができました。


 折端  鼻毛抜きつつ春の手枕         輔 三春


4飛び運行はなお続きます。折端はお待ち兼ね俊輔氏の付番。晩春または三春の季語を用いて春を続けましょう。場の句が二句続いたので、ここは人情を起こすことが必須条件になります。
呈示された五句の中から掲句に目が留まりました。花見客を登場させて人情を起こしたところが要求された条件を適えており、俳諧味を具備して前句にもよく付いています。
初案は「鼻毛抜きつつ春のうたた寝」でしたが、発句に「春の眠り」があり、これとの遠輪廻の嫌いが感じられるので、下七を「春の手枕」に改めました。「手枕」と「鼻毛」の雅俗混淆が、折端に込み入った俳味を醸し出して面白い味に仕上がりました。
(この項続く)
とびぃ
連句
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いわき文音五吟歌仙『粥の香に』の巻 解題02(初折裏折立から六句目まで)
hizaneko.jpg
※画像はブログ「猫ジャーナル」より転載


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  いわき文音五吟歌仙「粥の香に」の巻     宗海捌
                        起首 2016.04.17
                        満尾 2016.07.06

 発句 粥の香に春の眠りを覚ましけり     宗海 三春
 脇   独活和え添えて床上げの膳      禿山 晩春
 第三 山笑ふ友の集へる故郷に        笑女 三春
 四   演歌の後は校歌朗誦         俊輔 雑
 五  夕暮れの川面に浮かぶ月赤し      遊糸 三秋/月
 折端  ちちろのすだく長屋門筋        海 三秋
初裏
 折立 ぐずる子をなだめすかして冬支度     山 晩秋
 二   亭主の膝で眠る三毛猫         女 雑
 三  ドクターの止めるも聞かずジャムを舐め  輔 雑
 四   自慢にならぬ強がりの癖(へき)     糸 雑
 五  ふつふつと汗の噴き出るサウナ風呂    山 三夏
 六   ヨガを済ませて付ける香水       海 三夏

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初裏
 折立 ぐずる子をなだめすかして冬支度     山 晩秋


膝送りは初折裏に入り、折立は禿山氏の付番。秋をもう一句続けます。三秋の季が二句続いたので、ここはそれ以外の秋に転じなければなりません。
呈示された候補5句の中では、前二句の屋外景を室内に転じた掲句に目が留まりました。初案は「ねだる子をなだめすかしつ冬支度」でしたが、「ねだる」の対象が前句に付けても判然としないことと、中七の助動詞「つ」を助詞《て》の意味に用いたとすると問題が残るし、これを助動詞として扱ったものとしてもここに句切れが生じて発句体になってしまうので、これらの点に修復を加えて掲句の形に改めました。
なお上五には「むずかる子」の別案も浮かびましたが、芭蕉が意を用いた"俗談平話"(日常語)に相当する「ぐずる」をあえて選んで、語の雅俗に関わる面に変化を求めました。


 二   亭主の膝で眠る三毛猫         女 雑


膝送りはしばらく四飛び巡行が続きます。二句目は笑女さんの付番。秋が三句続いたのでここは季を離れて雑にしましょう。前句が人情を起こしたのでそれを一句で捨てずに人情句を続けます。自他の別は問いません。
候補6句の中から、前句の人物の傍に「亭主」がいるとする見立てに従った掲句を選びました。本句は「三毛猫」に焦点を当ててはいますが、それに膝を貸しているご亭に対して、家事をちっとも手伝ってくれないという主婦の思いも潜んでいるものと解して、これを初案のまま頂戴することにしました。
なお打越に虫類の「ちちろ」がいますが、猫とは「異生類」にあたるので差合にはなりません。前句の場景に別の人物を添えた「対付(ついづけ)」による軽い味の二句目が生まれました。


 三  ドクターの止めるも聞かずジャムを舐め  輔 雑


三句目は俊輔氏の付番。雑を続けます。打越が人情自他半句と解されるので、人情を加えるなら自または他。場の句で承けても構いません。
候補5句の中から捌が目を付けた句の初案は、「餅食らひ踊りを踊る二絃琴」。前句から漱石と猫へ連想を馳せたところは自然な付筋です。しかしそれを『猫』の作中場面にすがって詠んだところが付筋が露わに過ぎる結果になっていることと、説明の匂いのする「~して~する」式修飾句をいささか飛躍のある「二弦琴」に続けた、その二点に不満が残ります。
この着想を活かすには思い切った改案が必要なので、やむなく掲句に見るような大幅な一直を試みました。「亭主」の持つ二義性を利用して、前句が《夫》の意に用いたものを《一家の主》の漱石に見立て替えたものです
前句の「亭主」「猫」から漱石の面影を読み取り、その世界へと大きく転じた付味の良い三句目が生まれました。


 四   自慢にならぬ強がりの癖(へき)     糸 雑


次はお待ち兼ね遊糸さんの付番。もう一句雑を続けます。二句目の「亭主」が人情他に当たるので、人情の打越を避けてここは自あるいは自他半の句を試みることにしましょう。
候補6句の中から選んだ句の初案は「強がる癖は誰かにそっくり」でした。前句の「聞かず」を付所に《人の性格》という付筋を求めた「其人」の手法に従う付けが他の候補句に勝っています。ただし下七の字余りが句調を乱している点と、「誰か」が打越の「亭主」と同じ人倫の詞である点に障りがあるので、ここを改める必要を感じて掲句の形に改めました。
前句の人物を病体から離して性格に目を向けた、転じ味のよい四句目が生まれました。


 五  ふつふつと汗の噴き出るサウナ風呂    山 三夏


膝送りはこれより三巡目入り。付順の入れ換えによって3飛び早番が山どのに回ってきました。しばらく雑が続いたのでここで夏に転じることにします。
候補5句の中でもっとも良しと見た初案は「あと十分汗の吹き出るサウナ風呂」。三夏の季語「汗」を用いて捌の呈示した条件に応えたもので、前句に説明を加えようとせずに対象の描写を優先しているところが好もしい。ただし上五が字余りである点と、ここにまだかすかながら前句への理由付けの意図が感じられます。そこでここに一直を加えて掲句の形に治しました。
前句の「強がり」からサウナで我慢する人物を引き出した、軽い遣句風の味を持った五句目が生まれました。


 六   ヨガを済ませて付ける香水       海 三夏


六句目は捌が付けます。前句の夏の季は一句で離れることも許されますが、ここではもう一句続けることにしました。
前句をジムの場景と見立て、三夏の季語「香水」をこれに配してみました。そろそろ恋が欲しい局面なのでその呼び出しも兼ねています。(この項続く)
とびぃ
連句
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いわき文音五吟歌仙『粥の香に』の巻 解題01(発句から初折表折端まで)
kayunoka.jpg
※画像は「大阪ガス/ Let’sガス火クッキング」より転載

興行発足以来足掛け10年に及ぶ歳月を閲した「いわき文音連句」、その通巻第二十三にあたる歌仙「『粥の香に』の巻」がこのたびめでたく満尾を迎えました。今回も一巻の進行状況を捌(さばき)役の宗海が解説を加えながら6回にわたって連載いたします。

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  いわき文音五吟歌仙「粥の香に」の巻      宗海捌
                        起首 2016.04.17
                        満尾 2016.07.06

 発句 粥の香に春の眠りを覚ましけり     宗海 三春
 脇   独活和え添えて床上げの膳      禿山 晩春
 第三 山笑ふ友の集へる故郷に        笑女 三春
 四   演歌の後は校歌朗誦         俊輔 雑
 五  夕暮れの川面に浮かぶ月赤し      遊糸 三秋/月
 折端  ちちろのすだく長屋門筋        海 三秋


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五吟による膝送りはこれが三度目ですが、従前の四吟歌仙に用いた二種の付順を交互に繰り返す膝送り方式に従うと、長句と短句の担当者が偏ってしまう欠点のあることに遅ればせながら気付きました。そこで今巻以降は別の膝送り方式に基づいて付け進めることにしました。

それは今巻について言えば、初・二巡目は a宗海>b禿山>c笑女>d俊輔>e遊糸、三・四巡目は b>a>d>c>e の付順を、それぞれ交互に二度ずつ繰り返しながら進めるという、変則的な五四三飛び方式に従うものです(eは毎回四飛び)。

この方式で進めると月花の配分は大体うまく行くのですが、匂いの花の担当者が月花両句を持つことになってしまうので、この点への配慮を払う必要があります。それについてはその時点で触れることにします。

 発句 粥の香に春の眠りを覚ましけり     宗海 三春


この巻では発句の付番が捌に回ってきました。この付合が始まる頃、札幌在住の禿山氏が入院され、連衆一同の気懸かりは一方ならぬものがありましたが、幸い大事には至らずに帰還され、付合にも参加が叶う幸運な展開になりました。そこでその慶事への祝意を籠めて、ご当人に成り代わって人情自句を浮かべました。
初案は「春眠を粥の香りに覚ましけり」でしたが、三春の漢語季語「春眠」よりも和語傍題「春の眠り」の柔らかさを佳しと判断して掲句の形に改めました。


 脇   独活和え添えて床上げの膳      禿山 晩春


脇は当の禿山氏が担当します。前句の言外に隠れたものを表に出して寄り添うように付けるのが上々の脇とされます。
呈示された候補5句の中から選んだのが上掲句。前句に籠もるめでたさの気分を「床上げ」によって具象化し、晩春の季語「独活和え」を用いて当季を定めたものです。初案上七末は「…添えた」でしたが、僅かなながら、ここを「添えて」に改めて格調を整えました。前句を病の癒えた人物と見定め、その朝餉の膳に焦点を当てた、発句に似合わしい付味の脇が生まれました。


 第三 山笑ふ友の集へる故郷に        笑女 三春


第三は一巻の転じが始まる大事な句所。ここを笑女さんに持って頂きます。春をもう一句続けることと、前二句に詠まれた世界から大きく離れること、さらに自らのこととして詠む人情自の句が続く状況からも離れるという配慮も必要な局面です。
呈示された候補5句の中で捌が目を留めたのが上掲句。禿山氏の片名俳号「山」が季語の中にさりげなく隠されています。初案は「故郷の集う仲間に山笑う」でしたが、この句形は平句体で第三の句体にはそぐわないため、これに一直を加えて治定としました。なお作者の心情には前二句の内容が投影されていますが、それは連衆にしか解らぬこと。見かけの上では前二句から大きく離れた転じ味の良い第三が生まれました。


 四   演歌の後は校歌朗誦         俊輔 雑


四句目は俊輔氏の付番。春(および秋)は三句以上五句まで続けるという「句数(くかず)」の制約が解けたのでここは雑で行くことにします。
呈示された候補5句の中から選んで治定したのが上掲句です。前句にまっすぐ続くという点にいささか親句の気味はあるものの、四句目らしい軽さで前句によく付いている点を評価して頂戴しました。初案は「みんないい子で校歌朗誦」でしたが、これに"逸らし"の要素を加えるためにカラオケの場景に付筋を改めたものです。前句に音曲の句材をあしらった軽妙な四句目が生まれました。


 五  夕暮れの川面に浮かぶ月赤し      遊糸 三秋/月


五句目はお待ち兼ねの遊糸さんに付番が回ってきました。ここは月の定座に当たる句所なので、秋の月を所望しました。
候補5句の中から選んで一直を加え頂戴したのが上掲句です。前句まで人情句が続いたのをさらりと流して場の句に転じたところがお手柄です。初案は「夕暮れの川に上るは赤き月」でしたが、「川に上るは」に前句「演歌の後は」と「は」の特立表現の重なりがある点と、「川」だけで済ませずに《水面》の要素も加えたい点に付け入る隙を見て取り、このように改めました。これまでの流れを変えて新たな展開が期待できる五句目が生まれました。


 折端  ちちろのすだく長屋門筋        海 三秋


これより膝送りは二巡目入り。前記のごとく同じ付順を再度繰り返すことになるので、折端は捌の付番になります。前句の場を武家屋敷町と見定め、その場景を同じ場の句で承けて、三秋の虫類季語「ちちろ」を詠み込んで秋を続けました。
(この項続く)
とびぃ
連句
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ツイッター笠着百韻「猫の子の」の巻 (清書)
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※画像は「猫の『ひなたぼっこ』」より転載


本年4月4日に開巻し、5月31日にめでたく満尾を迎えたツイッター笠着百韻通巻第三十「猫の子の」の巻が改訂作業にあたる「校合(きょうごう)」を終えて、このたび本治定に至りました。その清書をここに掲載します。

本巻はこれまでと同じく、「初折」から「名残折」に及ぶ四折の百韻形式に則り、巻中に花四座、月七座を置く「四花七月」の方式に従って付合を進めました。付合初巡は連衆の顔触れがひととおり出揃うのを待ち、それ以降は付順を決めずに先に付けた句を優先する"先勝乱吟"方式を原則としました。なお進行の調整と差合などの吟味は、捌役の宗海(筆者)が務めました。

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  ツイッター #笠着 百韻「猫の子の」の巻(途中経過)
                    起首 2016.04.04                   
                    満尾 2016.05.31

01 猫の子の招き寄せたる日和かな      宗海(晩春)
02  祠へ続く温き石段           鯉子(三春)
03 春夕べカリスマ主婦を囲み居て      里代(三春)
04  ざわめく庭にひとり眼を遣る      蛉
05 麦秋の丘に郵便配達夫          晶子(初夏)
06  門扉の縁(へり)を伝ふ横這       関屋
07 月今宵帰りを急ぐ歩を止めて       松翠(仲秋/月)
08  案山子の服をコーディネートし     真葛(三秋)
初折裏
09 母真似て朱き酸漿吹いてみる        鯉(三秋)
10  翁佇み眼を細めつゝ           蛉
11 波荒き海に横たふ佐渡ヶ島         海
12  篝火揺れて薪能待つ           代(初夏)
13 二度三度生垣掠め飛ぶ夜鷹         屋(三夏)
14  銀河鉄道停まることなし        曙水
15 恋ふ人の街は今頃草の市          晶(初秋/恋)
16  湖畔の彼を隠す霧雨           鯉(三秋/恋)
17 待つほどに晴れて漕ぎ出す月の舟      葛(三秋/月)
18  松葉散り込む宵の野天湯         海
19 老脚の孫を杖とも柱とも          屋
20  入学式は社会人枠            代(仲春)
21 撓む枝闇夜に浮かぶ花篝          鯉(晩春/花)
22  あえぐ火の玉向かう鞦韆         屋(三春)
二折表
23 皆して見上ぐる先に武者絵凧        翠(三春)
24  コンビニで買ふ海苔のお握り       海(初春)
25 くまモンが背中で揺れる下校道       代
26  カルチエ・ラタンと消印のあり      葛
27 棟梁の吐くけむに笑む鉄線花        蛉(初夏)
28  大ぶり椀で麦湯差し出す         晶(三夏)
29 箸の櫂漕ぎだす汗の強き意志        屋(三夏)
30  インバウンドで都賑はふ         鯉
31 人波を分けてにょきにょき自撮り棒     翠
32  スマホ管理で家計順調          代
33 赤提灯銀杏焼に眼の光る          蛉(晩秋)
34  楊枝銜えて花圃に酔い醒め        屋(三秋)
35 歩かぬ子連れたる帰路に白き月       鯉(三秋/月)
36  砂漠遥かを金色の鞍           葛
二折裏
37 恋文はラムプの精に運ばせて        晶(恋)
38  寝酒注ぐ指細く清らに          屋(三冬/恋)
39 寒灯に物語ある摩天楼           海(三冬)
40  構想を練るヒッチコック氏        葛
41 週末は鳥の塒を友として          代
42  羽毛枕に遠きカウベル          鯉
43 さつき晴れ空を飛ぶかに登頂す       蛉(初夏)
44  緑誇ろふ白神の森            屋(初夏)
45 軽トラのハンドルさばき鮮やかに      翠
46  湾岸行けば昼の弦月           代(三秋/月)
47 七十路は夢のごとくに敗戦忌        海(初秋)
48  ラジオの調べ乱すすいっちょ       屋(初秋)
49 呼び出しが断トツ人気花相撲        葛(三秋/花)
50  筋きっかりと残す帚目          海
三折表
51 天空の風引き寄する糸柳          鯉(晩春)
52  良寛さんは子等とうらうら        晶(三春)
53 姿消す魔法もちゐて苗代田         屋(晩春)
54  打ち捨てられし靴の片方         葛
55 山の手の外人墓地は海へ向く        代
56  寒靄の街香る八角            屋(三冬)
57 君待ちて行きつ戻りつ年の暮れ       鯉(仲冬/恋)
58  思ひ編み目に籠るマフラー        海(三冬/恋)
59 川漁師投網繕ふ見張り小屋         蛉
60  釣船草は風に帆を上げ          屋(初秋)
61 防人の子にも聞こえよ砧の音        水(三秋)
62  夜気の身に入むあしひきの峰       屋(三秋)
63 岩陰にシュラフ畳めば三日の月       海(仲秋/月)
64  何処ぞの土産獏の置物          葛
三折裏
65 皇帝の地中の兵馬起きだして        晶
66  血脈赤く繁る𣜿(ゆずりは)        翠(新年)
67 低き陽に酔ひを残して初蹴鞠        屋(新年)
68  コルバトールの丘に下り立つ       代
69 蔓の先届きそうなる白き薔薇        鯉(初夏)
70  藍染浴衣袖を振りつつ          葛(三夏/恋)
71 右ひじに華奢な二の腕風薫る        屋(三夏/恋)
72  各駅停車次は終点            海
73 今日の月いのち騒立つ海の中        水(仲秋/月)
74  藻に住む虫の乾く間もなし        代(三秋)
75 藤壺の残涙かくすぬくめ酒         屋(晩秋)
76  幼をあやすパパの変顔          鯉
77 綿菓子に舞ひを納むる花吹雪        屋(晩春/花)
78  二人静の隠す恥ぢらひ          海(晩春)
名残折表
79 フーガ聴く春服の肩寄せあひて       代(三春/恋)
80  惚れた男はまたも情無し         葛(恋)
81 海峡の難所過ぎれば港の灯         晶
82  小ママ自慢鮪照り焼き          屋(三冬)   ※小(ちい)ママ
83 他人には読めぬ字並ぶボトル棚       海
84  漬けたる梅は炭酸に溶け         鯉(晩夏)
85 レシートに自分史の種掬ふ日日       葛
86  夫婦の会話犬を挟んで          水
87 稽古着の小紋縫ひ替へちゃんちゃんこ    代(三冬)
88  丘の裸木空にスケッチ          鯉(三冬)
89 入相の鐘に押さるる人の背         屋
90  熟柿ひとつを後生大事に         葛(晩秋)
91 行く秋の置き忘れたる昼の月        海(晩秋/月)
92  ふたりの家路トンボ見送る        水(三秋)
名残折裏
93 大鍋をぐるりと囲むきりたんぽ       代(晩秋)
94  出だし頷き続く輪唱           鯉
95 お隣に噂話をおすそ分け          水
96  木漏れ日浴びるつっかけの脚       屋
97 俳句より俳号に凝る律義者         葛
98  夢うとうとと春はあけぼの        代(三春)
99 さざめきの匂ひ残して花衣         海(晩春/花)
100 野を吹く東風に靡く黒髪         執筆(三春)   ※挙句の「執筆」は鯉子さんが務めました。
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とびぃ
連句
0 0

いわき文音五吟歌仙『初便り』の巻 解題06(名残折裏折立から挙句まで)
IMGP2713_20160416100049385.jpg
※画像は2015.05.22東京蔵前国技館五月場所にて筆者撮影

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  いわき文音五吟歌仙「初便り」の巻          宗海捌

                        起首 2016.01.07
                        満尾 2016.03.20


  発句 初便り実を食む鳥の珍しや       遊糸 新年
  脇   新年会に揃ふ顔触れ         笑女 新年
  第三 温泉(いでゆ)宿瀬音聞ゆる窓開けて   宗海 雑
  四   地物野菜の並ぶ朝市         禿山 雑
  五  据え置けば辺りを払う猿茸       俊輔 三秋
  折端  残業終えて裏道の月          女 三秋/月
初裏
  折立 秋出水天気予報は大当たり        糸 仲秋
  二   てるてる坊主揺れる軒先        山 雑
  三  補助輪を外して被るヘルメット      海 雑
  四   投票箱へ制服のまま          輔 雑
  五  つなぐ手に力のこもる下り坂       糸 雑/恋
  六   高ぶる想い雨の後朝          女 雑/恋
  七  移り香のほのかに残る白絣        海 晩夏/恋
  八   合歓咲く木陰望む昼月         山 晩夏/月
  九  島々の名のみ留めて蚶満寺        輔 雑
  十   懐石膳に海老の真薯(しんじょう)    女 雑
  十一 踊りの輪少し崩れて花の宴        糸 晩春/花
  折端  湯暖簾くぐる朧夜の下駄        山 三春
名残表
  折立 仕上げたる篆刻文字の麗らかさ      海 三春
  二   修行明けとて啖(くら)ふ肉塊      輔 雑
  三  妙義山奇岩怪石連なりて         糸 雑
  四   先の読めない駆け出しのチェス     女 雑
  五  微笑みを豊かに包む裘(かわごろも)    海 三冬
  六   俱に身一つ恋の道行き         山 雑/恋
  七  憑き物が落ちて収まる元の鞘       輔 雑/恋
  八   呼吸整え朝のジョギング        女 雑
  九  茶点前の袱紗捌きも清々(すがすが)と   糸 雑
  十   水面の揺ぎ映す丸窓          山 雑
  十一 居待月比叡の御山を昇り来て       海 仲秋/月
  折端  鬼門の薄母が気にする         輔 三秋

名残裏
  折立 独り住む都会生活そぞろ寒        糸 晩秋
  二   お風呂沸いたとタイマーの声      女 雑
  三  座布団をテレビ桟敷も飛ばしたき     海 雑
  四   老いも若きも好きな捕物        山 雑
  五  呼び込みの喉を枯らして花の道      輔 晩春/花
  挙句  雲の極(はたて)に消ゆる風船     執筆 三春

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名残裏
  折立 独り住む都会生活そぞろ寒        糸 晩秋


付合はいよいよ終盤を迎えて名残裏入り。折立は三飛び早番の遊糸さんにお願いします。句数の定めに従って秋をもう一句続けます。三秋あるいは秋三期のいずれでも差し支えありません。また、前句が人情を起こしたのを承けて、必ず人情を加えます。自他の別は問いません。
呈示された候補5句の中から、初案「独り居の都会生活そぞろ寒」を第一候補として選り出しました。内容が前句「母が気にする」に響いてよい付味を見せています。ただし「居」が打越の「居待月」と同字で障りますが、そこは何とでもなるでしょう。その上五を「独り住む」と改めて頂戴することにしました。
前句の人情を他から自へ転じて新たな展開を図った、終盤にふさわしい穏やかな折立が生まれました。

  二   お風呂沸いたとタイマーの声      女 雑

二句目はお待ち兼ね五飛び遅番の笑女さん。句数の縛りが解けたので雑に戻りましょう。人情は打越と同じ「人情他」を避けること、場の句でも構いません。
このような条件を踏まえて呈示された候補5句の中から選んだのが上掲句。人語を話すものは合成音声のみというところに《独居のわびしさ》という付心がうまく活かされていて、前句とよく付いています。合成音をずばり「声」と表現としたところが面白い。運辞の良さに加えて付句の転じを誘うにも打って付けの二句目が生まれました。

  三  座布団をテレビ桟敷も飛ばしたき     海 雑

三句目は三飛び早番の捌が担当します。
前句の時分に取り合わせるにふさわしい情景を案じていたところ、たまたまその折に大相撲春場所が興行されていたので、そのテレビ観戦に熱を入れる人物の姿に思い至りました。横綱が負けると必ず桟敷席から座布団が土俵に飛んできます。その画面を見ている人物を我が事として詠んだ、「其場」の手法に従う「人情自」句です。

  四   老いも若きも好きな捕物        山 雑

四句目担当は五飛び遅番の禿山氏。雑をもう一句続けます。ここは次が花の座に当たる「花前」と呼ばれる句所なので、花が詠みにくいような句材や植物は避けるべしとされています。
呈示された候補5句の中では、初案「老いも若きもプロレスに酔う」に目が止まりました。相撲からプロレスへという転じの狙いはそれなりに評価できるのですが、格闘技という同じ土俵内に留まっているところにいま一つ意外性に乏しい憾みが残ります。また片仮名語が三つ続く点も変化の面でマイナス材料になります。
そこでこれらの難点に一直を加えて掲句のように改めました。新たに設定した句材の「捕物」は、前句の「飛ばす」のもう一つの付所として銭形平次の投げ銭のイメージを重ねたもので、そこに付けの曲折が加わっています。

  五  呼び込みの喉を枯らして花の道      輔 晩春/花

五句目は一巻の飾りとなる「匂の花」の座。ここは俊輔氏に花を持って頂きます。人情を加えるなら他者の姿を詠む「人情他」で行きたいところです。
俊輔氏から呈示された候補5句を見ると、実景としての「花」が詠まれているのは一句のみで、他はいずれも「根無しの花」と呼ばれる、植物の花としての実体のないものであったので、それらは「正花(しょうか)」として扱うことは叶いません。また仮に、花の実体はあったとしても、「桜」のような個別名では正花として認められません。通常の花句ではあくまでも実景の花を詠むべきです。初案「花見道呼び込み男のど枯らす」だけが辛うじてこの要件を満たしていますが、なお刈り込みを要する点があります。
まず句体の面から見ると、本句は上五でいったん切れる発句体に当たるので、これを平句体に改める必要があります。また「花見道」にはいささか熟し切れていない印象が残ります。また中七は「呼び込み」だけで十分で、「男」まで言うと残る言語空間を狭めてしまいます。なお下五「のど刈らす」は大打越「声」の同字を避ける工夫として上策なので、これを句末から上に引き上げて活かしましょう。
このような吟味に基づいて得られた一直案が上掲句です。「喉を枯らせる」(「る」は完了・存続の助動詞)と素直に行こうかとも考えたのですが、あえて含みのある「て」を用いた省略表現による曲折を導き入れました。思念的な前句を具体性の強い人情句で承けた、意表を突く面白味のある花句が生まれました。

  挙句  雲の極(はたて)に消ゆる風船     執筆 三春

前句までで連衆それぞれが7句を担当する膝送りがひととおり終わりました。残る挙句は捌が分身としての「執筆」に変じて付けることにします。
上掲句は、三春の季語「風船」に「聳物(そびきもの)」と呼ばれる「雲」を取り合わせた場の句により、一巻をめでたく満尾させることにしました。「雲の果て」では字足らずになるので《果て》の意を表す古語ハタテを用いて拍数を整えました。
これにてに五吟文音歌仙通巻二十二「初便り」の巻はめでたく満尾を迎えました。
とびぃ
連句
0 0

いわき文音五吟歌仙『初便り』の巻 解題05(名残折表七句目から折端まで)
hienocuki.jpg
※画像は「チイ&カプチーノのブログ」による

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  いわき文音五吟歌仙「初便り」の巻          宗海捌

                        起首 2016.01.07
                        満尾 2016.03.20

  発句 初便り実を食む鳥の珍しや       遊糸 新年
  脇   新年会に揃ふ顔触れ         笑女 新年
  第三 温泉(いでゆ)宿瀬音聞ゆる窓開けて   宗海 雑
  四   地物野菜の並ぶ朝市         禿山 雑
  五  据え置けば辺りを払う猿茸       俊輔 三秋
  折端  残業終えて裏道の月          女 三秋/月
初裏
  折立 秋出水天気予報は大当たり        糸 仲秋
  二   てるてる坊主揺れる軒先        山 雑
  三  補助輪を外して被るヘルメット      海 雑
  四   投票箱へ制服のまま          輔 雑
  五  つなぐ手に力のこもる下り坂       糸 雑/恋
  六   高ぶる想い雨の後朝          女 雑/恋
  七  移り香のほのかに残る白絣        海 晩夏/恋
  八   合歓咲く木陰望む昼月         山 晩夏/月
  九  島々の名のみ留めて蚶満寺        輔 雑
  十   懐石膳に海老の真薯(しんじょう)    女 雑
  十一 踊りの輪少し崩れて花の宴        糸 晩春/花
  折端  湯暖簾くぐる朧夜の下駄        山 三春
名残表
  折立 仕上げたる篆刻文字の麗らかさ      海 三春
  二   修行明けとて啖(くら)ふ肉塊      輔 雑
  三  妙義山奇岩怪石連なりて         糸 雑
  四   先の読めない駆け出しのチェス     女 雑
  五  微笑みを豊かに包む裘(かわごろも)    海 三冬
  六   俱に身一つ恋の道行き         山 雑/恋

  七  憑き物が落ちて収まる元の鞘       輔 雑/恋
  八   呼吸整え朝のジョギング        女 雑
  九  茶点前の袱紗捌きも清々(すがすが)と   糸 雑
  十   水面の揺ぎ映す丸窓          山 雑
  十一 居待月比叡の御山を昇り来て       海 仲秋/月
  折端  鬼門の薄母が気にする         輔 三秋

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  七  憑き物が落ちて収まる元の鞘       輔 雑/恋


膝送り五巡目の最後は俊輔氏の付番。前句を承けて恋を続けます。前二句の描き出した逃避行の世界からどのように抜け出すか、三句絡みに陥り易い局面なのでその点がこの句所のポイントになります。
呈示された候補6句の中では初案「火傷して憑き物落ちる若旦那」に目が止まりました。前句の後日談を付筋としたもので「憑き物が落ちる」はよい言い回しを探り当てました。ただ上下両五にはまだ前句に対する説明の匂いが残っているので、そこにもうひとつ離れ味を加えたいところです。その点に対処すべく、初案の「火傷」「若旦那」の枝葉は刈り込んで、「憑き物」のみを活かし、慣用句「元の鞘に収まる」を代わりに埋め込んで掲句の句形に改めました。
前二句の切迫した恋の状況から離れて、身に取り憑いた物の怪を落としたかのような、けろりとした人物の振る舞いへ転じたところに面白さがあります。一句立ての川柳を思わせる俳諧味を湛えた七句目が生まれました。


  八   呼吸整え朝のジョギング        女 雑


膝送りはこれより六巡目入り。八句目は三飛び早番の笑女さんにお願いします。「人情自他半」句が二つ続いたので、自または他の人情句、あるいは場の句に転じてさらりと恋から離れることにしましょう。
呈示された候補5句の中から選んで一直を加えたのが上掲句。初案は「歩調揃えて朝のジョギング」で転じ味はよいのですが、「揃えて」には自分とは別の人物もいることを示す「人情自他半」の要素が含まれているため、同類の人情句が三句続くことになります。また「歩調」は打越「道行き」と微妙に通じる要素があり、これらの点に対する直しを入れた「人情自」句に改めた次第です。
程よい付味と離れ味で新たな展開が期待される八句目が生まれました。


  九  茶点前の袱紗捌きも清々(すがすが)と   糸 雑


九句目は五飛び遅番遊糸さんの担当。さらに雑を続けます。人情を加えるならば打越の「人情自他半」を避けること、人情無しでも構いません。また後の打越十一句目が月の定座に当たるので、これと天象の障りを生じないように注意しましょう。
捌の注文を受けて呈示された候補5句の中では「お茶手前流れる所作は自然体」に目が止まりました。前句の「呼吸」を付所にした離れ味のよい句ですが、「流れる」「自然体」には作者が語り手となって説明を加えている印象があり、もっと客観描写に徹したいところです。この点に対処すべく大幅な刈り込みを加えたのが上掲句です。前句の《呼吸》に異なる意味を持たせて場景を屋外から室内に転じ、前句の「朝」の気分に「清々と」で応じたもので、離れ味の良い九句目が生まれました。


  十   水面の揺ぎ映す丸窓          山 雑


十句目は三飛び早番の禿山氏にお願いします。雑をもう一句続けること、次に月が控えているのでその妨げになるような天象や時分には注意すること、人情を加えるならば打越と同じ人情自は避けること、これらの点を条件として示しました。
それに応えて呈示された候補5句の中では、初案「障子に映る水面(みなも)揺らいで」を良しと見ました。障子に写る水面の揺らぎに着眼した点が勝れています。折角の佳句なので、句末を体言留めにして落ち着きを持たせたいと考えて一直を加えたのが上掲句です。「障子」を「丸窓」としてこれを言外に隠すことで句想に曲折を持たせ、「障子に映る」の散文調を改善したところが狙いです。
前句との付き・離れとも上々で次の月を呼び出すにも好適な十句目が生まれました。


  十一 居待月比叡の御山を昇り来て       海 仲秋/月


十一句目は三度目の月の定座。ここは五飛び遅番の捌が付けます。
上掲句は、前句を京都の庭園の夜景と見定めて、東に比叡山を遠景に配した場の句。前句に描かれた場景に相応しい場所を配して付ける「其場(そのば)」と呼ばれる手法に従うものです。


  折端  鬼門の薄母が気にする         輔 三秋


名残表は最後の折端に至りました。この句所の担当は常時四飛び付番の俊輔氏。前句の仲秋を承けて、「季戻り」を避けるために初秋以外の秋季にします。なお場の句が二つ前に並んだので、ここは必ず人情を加えましょう。
条件に応じて呈示された候補5句の中から捌が選んだのは、初案「母が嫌がる鬼門のすすき」の一句。「叡山」が京都の「鬼門」に当たることに付筋を見出したところがお手柄です。ただし下七の「鬼門の/すすき」が句調を乱す形として嫌われる「四三」の句形なので、この点への手当が必要です。
その解消策として上下の語順を入れ換え、ついでに「嫌がる」を「気にする」と和らげたのが上掲句です。意表を突く上々の離れ味を感じさせる折端が生まれました。
なお本句の「(鬼)門」には、打越「丸窓」と居所の障りになるのではという、字面上の懸念を感じさせる節がありますが、熟語としての「鬼門」は《居所》ではなく《方角》が実質的な意味なので、この点に基づいて差合にはならないと判断しました。
(この項続く)


とびぃ
連句
0 0

いわき文音五吟歌仙『初便り』の巻 解題04(名残折表折立から六句目まで)
myoRgisaN02.jpg
※画像はブログ「旅の日はいつも」による

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  いわき文音五吟歌仙「初便り」の巻          宗海捌

                        起首 2016.01.07
                        満尾 2016.03.20

  発句 初便り実を食む鳥の珍しや       遊糸 新年
  脇   新年会に揃ふ顔触れ         笑女 新年
  第三 温泉(いでゆ)宿瀬音聞ゆる窓開けて   宗海 雑
  四   地物野菜の並ぶ朝市         禿山 雑
  五  据え置けば辺りを払う猿茸       俊輔 三秋
  折端  残業終えて裏道の月          女 三秋/月
初裏
  折立 秋出水天気予報は大当たり        糸 仲秋
  二   てるてる坊主揺れる軒先        山 雑
  三  補助輪を外して被るヘルメット      海 雑
  四   投票箱へ制服のまま          輔 雑
  五  つなぐ手に力のこもる下り坂       糸 雑/恋
  六   高ぶる想い雨の後朝          女 雑/恋
  七  移り香のほのかに残る白絣        海 晩夏/恋
  八   合歓咲く木陰望む昼月         山 晩夏/月
  九  島々の名のみ留めて蚶満寺        輔 雑
  十   懐石膳に海老の真薯(しんじょう)    女 雑
  十一 踊りの輪少し崩れて花の宴        糸 晩春/花
  折端  湯暖簾くぐる朧夜の下駄        山 三春

名残表
  折立 仕上げたる篆刻文字の麗らかさ      海 三春
  二   修行明けとて啖(くら)ふ肉塊      輔 雑
  三  妙義山奇岩怪石連なりて         糸 雑
  四   先の読めない駆け出しのチェス     女 雑
  五  微笑みを豊かに包む裘(かわごろも)    海 三冬
  六   俱に身一つ恋の道行き         山 雑/恋

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名残表
  折立 仕上げたる篆刻文字の麗らかさ      海 三春


付合はこれより名残表入り。折立は捌が付けます。
前二句の春を承けてここはもう一句春を続けなければなりません。掲句はその「句数」の定めに三春の季語「麗らか」を用いて応えたもの。前二句の世界から脱け出すために、前句の人物を踊りから大きく離して、印章作成にいそしむ篆刻作家と見定めました。手の業が満足すべき状態で仕上がったので、晴れ晴れとした気持で銭湯に向かう人物の姿を詠んだ、「其人(そのひと)」と呼ばれる手法に従う付けです。


  二   修行明けとて啖(くら)ふ肉塊      輔 雑


二句目は常時四飛び信輔氏の付番。春が三句続いて句数の縛りが解けたので雑に戻ります。
呈示された候補6句の中から、初案「修行開けて食らふ肉料理」句に捌の食指が動きました。前句の篆刻師に対比させる形で、これと共通する要素を感じさせる修行僧の姿を詠んだ、「相対付(あいたいづけ)」と呼ばれる付け方に従ったものです。
前二句の世界は肩の凝りを解(ほぐ)そうと銭湯に向かった場景であるのに対して、後者は禁断の肉食で精力を取り戻そうという修行僧を対比的に登場させたことになり、そこに思わぬ滑稽味が生まれます。句想はたいへん面白いのですが、句調に乱れのある点が惜しまれます。
そこで掲句に見るように、上七を《一定期間が終わる》意にふさわしく表記を「開け」から「明け」に改め、さらに「とて」に《と称して》の意を持たせて、"自称"に対する一種の揶揄(やゆ)の意を込めてみました。また「食らふ」の「食」を「健啖家」に用いられる「啖」字に変えたのに合わせて、「肉料理」を「肉塊」として《暴食》の要素を付加する狙いも隠れています。
前二句の世界から大きく転じて付合に変化をもたらす効果のある二句目が生まれました。


  三  妙義山奇岩怪石連なりて         糸 雑


膝送りはこれより五巡目入り。名残表三句目は三飛び早番遊糸さんの担当。雑を続けます。なお折立に用いられた「麗らか」は、ここでは心理的な要素が重きをなしていますが、本来は時候の季語なので、これと打越の障りを生じないように注意する必要があります。
呈示された候補6句の中では上掲句をもっとも良しと見ました。メールに添えられた自解によれば、前句の「塊」から「岩」を連想した付けであることが知られました。これだけならば言葉の縁で付ける「物付」に終わってしまいますが、「奇岩怪石」には前句の修行の場所にふさわしい場所として、意味上の繋がりもあるのでそこによい付味が感じられます。そこで本句を初案のまま頂戴することにしました。


  四   先の読めない駆け出しのチェス     女 雑


四句目担当はお待ち兼ね五飛び遅番の笑女さん。ここも雑を続けます。
打越の二句目は、作者が登場人物を自らのこととして詠んだ「人情自」句に当たるので、ここは人情の打越を避けて「人情他」または「人情自他半」で行くか、あるいは人間の登場しない「場」の句を続けても構いません。
呈示された候補6句の中では、前句の「奇岩怪石」からチェスの駒を思い浮かべた初案「勝負のつかないしんまいのチェス」の転じ味を良しと見ました。ただそれだけだと言葉の繋がりに頼る「物付」になってしまうので、そこにもうひと味、内容面に通うものを添えたいところです。
そこでその点に一直を加えて掲句の句形に改めました。「奇岩怪石」の背後にロッククライマーの姿を連想し、登攀の際に必要な《先を読む》の要素を引き出してこれをチェスの勝負場面に転化したものです。奇岩の形状からチェスの駒に転じて新たな展開を図った四句目が生まれました。


  五  微笑みを豊かに包む裘(かわごろも)    海 三冬


笑女さんの四句目に三飛び早番の捌が付けたものです。そろそ二度目の恋が欲しい局面なので、ここは恋の呼び出しを試みることにしました。
前句を吟じ返すうちに何とはなしに浮かんだのがこの一句。「空撓(そらだめ)」と呼ばれる付けの手法に近いものです。敢えて付筋を露わにするならば、前句の「チェス」からテレビドラマ「相棒」を思い浮かべ、そこに登場する謎の女性の姿をイメージし、その人物にぴっちりとした三冬の季語「裘」を着装させてみました。「先の読めない」には《相手の心がつかめない》の要素が含まれているので、恋の呼び出しには持ってこいの"手づる"になりました。


  六   俱に身一つ恋の道行き         山 雑/恋


六句目は五飛び遅番禿山氏が担当します。前句の仕掛けた恋の呼び出しを承けて恋情の明らかな恋句を詠んで頂きます。
捌の求めに応じて呈示された候補5句の中、初案「ボストン一つ恋の道行き」に目が止まりました。前句に登場する女性を逃避行の相手と見定めたところに付味の面白さがあります。ただし「バッグ」を省いた「ボストン」にいささか危うさがあり、四句目の「チェス」が洋語であるとともに句材面でも「器財」の共通性のある点に打越の気味が感じられます。
このような吟味の結果、一直を加えた上掲句を頂戴することにしました。バッグも何も持たせない方が逃避行の覚悟の程が増すものと思量してかくは相成った次第です。ミ音を上下句に配して句調も良い恋の六句目が仕上がりました。
(この項続く)
とびぃ
連句
0 0

いわき文音五吟歌仙『初便り』の巻 解題03(初折裏七句目から折端まで)
basyoRkuhi_kisakata02.jpg
※画像はブログ「私の芭蕉紀行」による

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  いわき文音五吟歌仙「初便り」の巻          宗海捌

                        起首 2016.01.07
                        満尾 2016.03.20

  発句 初便り実を食む鳥の珍しや       遊糸 新年
  脇   新年会に揃ふ顔触れ         笑女 新年
  第三 温泉(いでゆ)宿瀬音聞ゆる窓開けて   宗海 雑
  四   地物野菜の並ぶ朝市         禿山 雑
  五  据え置けば辺りを払う猿茸       俊輔 三秋
  折端  残業終えて裏道の月          女 三秋/月
初裏
  折立 秋出水天気予報は大当たり        糸 仲秋
  二   てるてる坊主揺れる軒先        山 雑
  三  補助輪を外して被るヘルメット      海 雑
  四   投票箱へ制服のまま          輔 雑
  五  つなぐ手に力のこもる下り坂       糸 雑/恋
  六   高ぶる想い雨の後朝          女 雑/恋

  七  移り香のほのかに残る白絣        海 晩夏/恋
  八   合歓咲く木陰望む昼月         山 晩夏/月
  九  島々の名のみ留めて蚶満寺        輔 雑
  十   懐石膳に海老の真薯(しんじょう)    女 雑
  十一 踊りの輪少し崩れて花の宴        糸 晩春/花
  折端  湯暖簾くぐる朧夜の下駄        山 三春

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  七  移り香のほのかに残る白絣        海 晩夏/恋


七句目は、前二句の恋の名残を引き留めるべく、捌がもう一句恋を続けます。すでに雑が5句続いたので、このあたりで季句に転じることにします。
掲句は、晩夏の季語「白絣(しろがすり)」を用いて、「移り香」を前句に摺り付ける形で恋の情をかすかに漂わせることを目指したものです。


  八   合歓咲く木陰望む昼月         山 晩夏/月


八句目は五飛び遅番禿山氏の担当。三句続いた恋を離れ、前句の季を承けて夏の月を詠んで頂きます。
呈示された候補5句の中では初案「木陰に望む夏の昼月」をもっとも良しと見ました。ただしこれは、単独では三秋の季語となる「月」を夏のものにするために「夏の昼月」としたもののようですが、それよりも「木陰」に季を含ませれば「夏」と言わずに済むし、個別種名を示すことによる具体化も図られるという一石二鳥の効果が生まれます。そのような心積もりに従って、掲句に見るように晩夏の季語「合歓(ねむ)の花」を傍題風に用いた形の一直を加えました。
ちなみに「合歓」という漢名は、葉を合して閉じる様が男女の交合を思わせるところから出たとされています。そこには恋の気分も感じられるので、恋離れにはまことに好都合な句材です。前句の絣の白に合歓の花の紅の映りも良い、恋離れにふさわしい月句が生まれました。


  九  島々の名のみ留めて蚶満寺         輔 雑


九句目は定時四飛びの俊輔氏。夏が二句続いたので雑に戻ります。
呈示された候補五句の中では、前句の「合歓」を付所に、「象潟や雨に西施がねぶの花」の芭蕉句を踏まえた初案「象潟や侘びつくしたるはせを翁」の付筋の良さに目が止まりました。ただしこのままでは、平句には一般に用いない切字があること、中七の説明色が濃すぎること、下五に「はせを翁」を露わに出したことなどに難があって頂戴し兼ねます。そこでこの句想を活かして大幅な一直を加えた掲句に改めました。「蚶満寺(かんまんじ)」は上掲芭蕉句碑の建つ寺の名。「象潟」の名を露わに示すのは付筋が見えすぎることになるので、これに代えて下五に置いたものです。前二句の世界を大きく離れ、新たな展開の期待される九句目が生まれました。

なお今回の解説冒頭に掲げた画像に見えるは、掲句に出る坩満寺境内に建てられた芭蕉句碑。ここには「象潟の雨や西施がねぶの花」(濁点筆者)とあり、これがこの地で詠まれた折の初案ですが、『奥の細道』ではよく知られた上掲の句形に改められており、テニヲハの微妙な入れ換えに芭蕉の苦心のほどが偲ばれます。


  十   懐石膳に海老の真薯(しんじょう)    女 雑


膝送りはこれより四巡目入り。十句目は三飛び早番の笑さんにお願いします。
掲句は、呈示された候補五句の中から選んだ一句に捌が手を加えたもの。一般にはあまり名の知られていない前句の「蚶満寺」をどのようにあしらうかがこの付句の見所です。初案は「懐石膳に独活のしら和え」で、寺の食膳に出されたとおぼしき料理名に転じたのは旨い運びです。ただ、「独活」は食物とは言え植物名でもあるので、打越の「合歓」と同類で差合います。また「しら」は打越「白」との同字を避けたものと見えますが同じ色名として障るので、他の句材と入れ換えたいという一存からこのように改めました。ちなみにこの料理名はその通用表記「真薯」が示すように、本来はシンジョだったのが、後に訛ってシンジョウと長呼されたものです。


  十一 踊りの輪少し崩れて花の宴        糸 晩春/花


十一句目は初折の花の座。ここは五飛び遅番でお待ち兼ねの遊糸さんに花を持って頂きます。前二句に人間の登場しない場の句が続いたので、ここは人情を新たに加えた「起情」の句を付けて頂くことにしました。
呈示された候補5句の中、捌が感じ入ったのが上掲句。中七「少し崩れて」に詞運びの良さがあり、句の内容にも元禄花見踊りを彷彿とさせる華やぎが感じられて、前句の「懐石膳」にも良く映っています。《飲食》の要素に「宴」との近さはあるものの、それを凌駕して余りありと判じて初案のまま頂戴しました。花句にふさわしい華やぎを持った付味の良い十一句目が生まれました。


  折端  湯暖簾くぐる朧夜の下駄        山 三春


膝送りは早くも付合の前半最後に当たる初折裏折端にさしかかりました。この句所は三飛び早番の禿山氏にお願いします。
呈示された候補5句の中から選んだものに一直を加えたのが上掲句です。初案は「春の夕べに向う銭湯」。前句の花見が済んだ夕方に時分を見定めたもので、程よい転じがあって前句によく付いています。ただ下七「向かう銭湯」にはいささかありきたりの感が付きまとうので、ここにいま一つ曲折を持たせたいと考えました。そこでいったんは「春の夕べにくぐる湯暖簾」と案じてみたのですが、もうひと手間加えたのが上掲句です。前句に「下駄」の音を響かせる趣向を構えました。
(この項続く)
とびぃ
連句
0 0

いわき文音五吟歌仙『初便り』の巻 解題02(初折裏折立から六句目まで)

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  いわき文音五吟歌仙「初便り」の巻          宗海捌

                        起首 2016.01.07
                        満尾 2016.03.20

  発句 初便り実を食む鳥の珍しや       遊糸 新年
  脇   新年会に揃ふ顔触れ         笑女 新年
  第三 温泉(いでゆ)宿瀬音聞ゆる窓開けて   宗海 雑
  四   地物野菜の並ぶ朝市         禿山 雑
  五  据え置けば辺りを払う猿茸       俊輔 三秋
  折端  残業終えて裏道の月          女 三秋/月
初裏
  折立 秋出水天気予報は大当たり        糸 仲秋
  二   てるてる坊主揺れる軒先        山 雑
  三  補助輪を外して被るヘルメット      海 雑
  四   投票箱へ制服のまま          輔 雑
  五  つなぐ手に力のこもる下り坂       糸 雑/恋
  六   高ぶる想い雨の後朝          女 雑/恋

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

初裏
  折立 秋出水天気予報は大当たり        糸 仲秋


これより付合は初折裏に移り、折立は五飛び遅番の遊糸さんの担当。「句数(くかず)」の定めに従って秋をもう一句続けます。前に三秋が二つ続いたのでここは秋三期のいずれかにしなければなりません。
捌の求めに応じて呈示された候補6句の中から初案のまま頂いたのが上掲句。前句の「秋出水」に気象予報を絡めて言い残された余白を狙った「其場」の付けが良い味を出しています。如何様にも展開の可能な拡がりと仄かな俳味を持つ折立が生まれました。


  二   てるてる坊主揺れる軒先        山 雑


二句目は三飛び早番禿山氏の担当。秋が三句続いて句数の制約が解けたので雑に戻ります。
掲句は、呈示された候補5句の中から選んだ「てるてる坊主軒先に濡れ」に捌が一直を加えたもの。前句の「天気予報」を付所としたもので、親句性のやや強い点に気がかりは残るものの、前句の内容を素直に承けています。そこで前句の《雨》の要素を明示した「濡れ」を「揺れる」に替えて親句性を弱め、ついでに下七の語順を逆にして体言留めの短句に似合わしい形に改めました。前句に表れていない場を軒端と見定めた「其場」の付けの手法に従った、軽い味の二句目が生まれました。


  三  補助輪を外して被るヘルメット      海 雑


これに早速三句目付番の捌が付けさせて頂きました。
掲句は、前句の場景を幼児のいる家の庭先と見定め、その子が補助輪無しで二輪車に乗れるようになった姿を描いたもの。前二句の世界に通底する《雨》を詞の表に出すと三句絡みの難に陥るので、天候のことは表に出さず、言外に《雨上がり》の要素を潜ませました。


  四   投票箱へ制服のまま          輔 雑


四句目は常時四飛びの俊輔氏。ここも雑を続けます。人間の姿のない「場の句」の二句目を承けて前句が「人情」を起こしたので、この句所ではそれを一句限りとせずに必ず人情を加える必要があります。
呈示された候補6句の中、初案「制服のまま投票に行く」に目が止まりました。前句に潜む《初心》の要素を《学生》に具現化させて新たな世界への転換を図った"見立て替え"の手法に従う付けです。ただし句表現上「…のまま…に行く」がいささか散文的で説明の匂いを感じさせるので、ここに一直を加え掲句の形にしました。初案の「まま」を句末に据え、これを承ける述語「行く」を切ることにより、説明調の払拭を試みたものです。なお上七は初め「投票所へは」としたのですが、打越にこれと同じ"居所"の句材「軒先」があって障りになるので、その点を改めました。前句から意想外の時事の要素を導き出した転じ味の面白い四句目が生まれました。


  五  つなぐ手に力のこもる下り坂       糸 雑/恋


膝送りはこれより三巡目入り。五句目担当は三飛び早番の糸さん。もうしばらく雑を続けます。このあたりでそろそろ恋が欲しいと思っていたところ、前句に「制服」が出たので、これを恋の呼び出しと解して恋句を詠んで頂くことにしました。
捌の心算に従って呈示された候補7句の中では初案「つなぐ手に力こもりて帰り道」を良しと見ました。他にこれと類想の「辺りの目気にして歩く二人連れ」もあったのですが、こちらは作者が語り手となって外から二人の行動を描いているところがやや説明的なのに対して、前者は登場人物の内側に入り込んで自らの皮膚感覚として詠んだところが勝っています。ただし初案「帰り道」に前句の続きを言っている嫌いがあることと、初折折端にも「裏道」が出て間もない点を勘案して、掲句の形に手を加えました。
初案「力こもりて」の連用修飾形を「力のこもる」の連体修飾形に改めて句末まで一息に続く勢いを持たせ、「帰り道」の説明の匂いを消して具体性を与えるために「下り坂」に差し替えたところが一直の眼目に当たります。
前句の恋の呼び出しに応じた初々しさを感じさせる五句目が生まれました。


  六   高ぶる想い雨の後朝          女 雑/恋


六句目は五飛び遅番の笑さん。前句の恋を承けてもう一句雑を続けます。前二句の世界と異なる恋に転じるには、五句目を別の角度から読み替える必要があります。新たな世界をどのように開くかが見所です。
呈示された候補5句は、いずれも前二句の初々しい恋の世界から一転した濃艶な恋の世界への転じが見られ、捌の目論見どおりの展開となりました。掲句はその中から選んだ句に一直を加えたものです。初案は「高ぶる想い後朝の後」で、前句の翌日に時点を移してよい付味を見せています。惜しまれるのは「後朝の後」に見かけ上の「後」字の重複があること。そこでこれをいったんは「後朝の雨」とした後、もう一段曲折を加えて語順を「雨の後朝」として治定しました。蕉門俳諧「鴈がねも」の巻に出る次の付合を想起させるよい味の恋句が生まれました。
  足駄はかせぬ雨のあけぼの       越人
 きぬぎぬやあまりかぼそくあてやかに   芭蕉

(この項続く)
とびぃ
連句
0 0

いわき文音五吟歌仙『初便り』の巻 解題01(発句から初折表折端まで)
P1041723_R.jpg
※画像は札幌市内にて佐藤禿山氏撮影

前回から連衆五名が一座する付合となった「いわき文音連句」、その通巻第二十二に当たる歌仙「初便り」の巻が先月めでたく満尾を迎えました。一巻の進行状況を捌(さばき)役の宗海が解説を加えながらこれから6回にわたって連載いたします。

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  いわき文音五吟歌仙「初便り」の巻          宗海捌

                        起首 2016.01.07
                        満尾 2016.03.20

  発句 初便り実を食む鳥の珍しや       遊糸 新年
  脇   新年会に揃ふ顔触れ         笑女 新年
  第三 温泉(いでゆ)宿瀬音聞ゆる窓開けて   宗海 雑
  四   地物野菜の並ぶ朝市         禿山 雑
  五  据え置けば辺りを払う猿茸       俊輔 三秋
  折端  残業終えて裏道の月          女 三秋/月

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


今回も前回と同じ膝送り方式に従い、"遊糸>笑女>宗海>禿山>俊輔" と "笑女>遊糸>禿山>宗海>俊輔"の付順を交互に繰り返す「五飛び三飛び」(五番目は常時四飛び)形で付け進めます。


  発句 初便り実を食む鳥の珍しや       遊糸 新年


本年初興行の発句は遊糸さんにお願いしました。暮のうちから「松明け」の正月七日開巻を申し合わせておいたので、それを待ちかねていた遊糸さんから、8句に及ぶ候補句が呈示されました。
その中から頂いたのが上掲句。新年の季語「初便り」によって当季を定めています。これと同工の「珍しやギンザンマシコの初便り」にも食指が動いたのですが、中七に字余りを生じてしまう点を嫌いました。
ちなみにこの鳥名は、札幌在住の禿山氏の賀状メールに添付されていた画像の被写体を指すもので、アトリ科に属する珍鳥です。その画像を今回の記事に拝借しました。食んでいるのはナナカマドの実とのことです。


  脇   新年会に揃ふ顔触れ         笑女 新年


脇担当は笑女さん。新年を続けます。脇は発句に言い残されたところを探り取って寄り添うように付けるのがよいとされ、発句と同時・同場所が原則ですが、今回の発句については比較的ゆるやかに対応できそうなので、付句作者の裁量にお任せすることにしました。
笑女さんから呈示された5句の中から選んで一直を加えたのが掲句です。初案は「新年会の話題豊に」でしたが、「話題豊に」がいささか説明的な言い回しなので、ここにボカシを掛けることにした次第です。発句に描かれた世界を新年会の話題の内容と見定め、発句とともに一座への挨拶も込められています。


  第三 温泉(いでゆ)宿瀬音聞ゆる窓開けて   宗海 雑


第三は捌が付けます。新年が二句続いたので季を離れて雑に転じます。本句は脇の《集まり》の要素を付所に、昨年ミニクラス会が開かれた印象深い郷里の宿の佇まいを面影にしたものですが、「瀬音」は虚構です。ここでは「第三」の句体の一つで、上五と下五の間に別の中七を入れる「杉形(すぎなり)」体と呼ばれる句形を試みました。なお上五は当初「山の宿」だったのですが、この後に出された五句目の句材に《山》の要素が潜在していて打越の気味が感じられるため、途中でこれを「温泉(いでゆ)宿」に改めました。


  四   地物野菜の並ぶ朝市         禿山 雑


四句目は禿山氏の担当で雑を続けます。呈示された候補5句の中から一直を加えて頂戴したのが上掲句。前句から一夜を隔てた時分を設定し、「温泉宿」にふさわしい場所を選んだ「其場」の付けを試みたもので、程よい離れ味が感じられます。なお初案上七は「地場産野菜」でしたが、「産」に感じられる説明の匂いを解消するために掲句のように改めました。


  五  据え置けば辺りを払う猿茸       俊輔 三秋


五句目は俊輔氏の付番。ここは通常ならば月を出す句所ですが、本巻では月花句担当者の均等化を図るために、月を定座の一句後に「こぼす」ことにします。その呼び出しを兼ねて秋に転じことをお願いしました。
上掲句は、呈示された候補5句の中から選んだ初案の句材「猿の腰掛」に目を留め、これを下五にうまく収まる「猿茸(ましらたけ)」に差し替え、《堂々としているさま》を言う慣用句「辺りを払う」を中七に据えて擬人化を試みたものです。前句の「朝市」に猿の腰掛を配した着眼の面白さを活かした五句目が生まれました。


  折端  残業終えて裏道の月          女 三秋/月


膝送りは一巡が済んでここから付番の変わる二巡目入り。折端は三飛び早番笑女さんの担当。前句の秋を承けて上記のごとく短句の月を詠んで頂きます。打越に「朝」があるので、朝の時分を思わせる月は差合になりますが、昼あるいは夜分の月ならば「異時分打越嫌わず」で障りにはなりません。
呈示された候補5句はいずれも付所を「猿茸」に求めて「薬膳」「薬湯」などで応じたものですが、《薬》の要素はすでに「猿茸」に内包されていて意外性に乏しい憾みがあります。そこでここでは、前句の「据え置く」を付所にそれにふさわしい場を定める方向で一直を加えることにました。
その芽を含んだ句材を候補句中に探したところ、その目論見に叶う「路地裏」を句材に用いた句に目が止まりました。これを町工場の建ち並ぶ下町地域と見定めてみると、上記「据え置く」から、そのような小企業の経営者が大事そうに飾り置いた「猿茸」の姿が浮かんできます。そこで大幅な改訂を試みたのが上掲句。そのような企業に勤める社員が、残業を済ませて帰途に就く一場面を描いた人情句です。なお「路地裏」は打越と「地」の同字で触るのでこれを「裏道」としました。打越と前句の世界から大きく離れて新たな展開の期待される折端が生まれました。
(この項続く)
とびぃ
連句
0 0

ツイッター笠着百韻「冬晴れや」の巻 (清書)
kasagi29.jpg
※画像はブログ「ひかりあふれる散歩道」より転載

本年1月28日に開巻し3月7日にめでたく満尾を迎えたツイッター笠着百韻通巻第二十九「冬晴れや」の巻が、改訂作業にあたる「校合(きょうごう)」を終えて本治定に至りましたのでその清書を掲載します。

本巻は「初折」から「名残折」に及ぶ四折の百韻形式に則り、巻中に花を四座、月を七座置く「四花七月」の方式に従って付合を進めました。付合は付順を決めず先に付けた句を優先する"先勝乱吟"方式を原則とし、進行と差合などの吟味は宗海(筆者)が務めました。

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  ツイッター #笠着 百韻「冬晴れや」の巻(清書)
                   起首 2016.01.28
                   満尾 2016.03.07

01 冬晴れや欅の落す鳥の影         晶子(三冬)
02  室(むろ)を離れて香る寒独活      宗海(晩冬)
03 燗の酒まはすまとゐや和むらん      関屋(三冬)
04  抜きつ抜かれつ襷(たすき)色々     鯉子
05 乗り降りの人なき山の駅の昼       里代
06  歩み出す道霧が纏わる         蛉(三秋)
07 暫くはいざよふ月を異土に見て      真葛(仲秋/月)
08  秋の名残に響く組鐘(カリヨン)    松翠(晩秋)
初折裏
09 よく通る声と香りで林檎売り        晶(晩秋)
10  アダムとイブの大地広がる       曙水
11 東雲に街のまどろみ解かれゆく       鯉
12  迷子の犬を探すポスター         海
13 避暑地ではいつも揃ひのペンダント     代(晩夏)
14  灼熱の恋夏は早や逝き          葛(晩夏/恋)
15 あの娘(こ)の名付けたダリアに水をやる   晶(三夏/恋)
16  移り支度の捗らぬ午後          屋
17 物憂くて頬杖つけば窓に月         鯉(三秋/月)
18  さんま蒲焼ついすゝむ酒         蛉(三秋)
19 ふるさとの便を開ければ走り蕎麦      海(晩秋)
20  姉のお軽の出を土間で待つ        晶
21 花道を送られ首途の男役          屋(雑/花)
22  辰巳の空に鳶が羽ばたく         代
二折表
23 嗄れて招き声張る歳の市          海(仲冬)
24  あかぎれの手で呉るるのど飴       葛(晩冬)
25 豹の柄天神橋の筋を交ふ          屋
26  祭を囃す笛の高き音           鯉(三夏)
27 冷麦の赤き一本奪ひ合ひ          晶(三夏)
28  母に敵はぬ針仕事する          代
29 行燈を引き寄せちょいと横座り       水
30  緩い扱(しごき)をほどく流し目      海(恋)
31 恋文はレポート用紙不器用に        翠(恋)
32  グラス傾け開くアルバム         屋
33 マジックの種は尽きまじ虚実の世      葛
34  箪笥預金に勝るものなし         代
35 昼月の骨董市の長話            水(月/三秋)
36  鰯で誘ふ雄の三毛猫           晶(晩秋)
二折裏
37 腕の程見せつつ並ぶ菊の鉢         海(晩秋)
38  力石には四股名彫られて         屋
39 大音声ジンギスカンの裔なりと       葛
40  アラサー女子でかこむすき焼き      水(三冬)
41 番小屋の冷めた囲炉裏に灰模様       翠(三冬)
42  加賀友禅を川流しする          代
43 橋渡る電車の音の響く町          鯉
44  ちと手を抜いてラジオ体操        晶
45 不揃いの団子の上に上る月         屋(三秋/月)
46  風船葛日ごと色付く           海(仲秋)
47 大人めき秋の別れと絵暦に         葛(晩秋)
48  空へ続けと磨くガラス戸         晶
49 山城の址を覆ひて花の雲          翠(花/晩春)
50  野のたそがれに遍路笠置く        代(三春)
三折表
51 潮の香に解き放たれる磯遊         鯉(晩春)
52  異国の詩集旅のカバンに         水
53 チケットはネットでゲット寝台車      海
54  清姫またも先回りする          葛
55 筋通す師の横顔の優しくて         鯉(恋)
56  ノートの余白君を描(えが)く夜      屋(恋)
57 溜息を浅く川原に石を蹴る         蛉(恋)
58  青葉の垣に干した長靴          晶(三夏)
59 マイ枕抱へて昼寝保育園          代(三夏)
60  お喋り尽きぬ辻のファミレス       海
61 ものの影逢う魔が時に横切りて       水
62  たゆたふ舟の無事を祈れり        鯉
63 月代の石段明(さや)か金毘羅宮       翠(三秋/月)
64  篠笛吹けば至る新涼           海(初秋)
三折裏
65 地芝居の哀れ敦盛化粧して         代(晩秋)
66  くすくすと咲く制服の女子        蛉
67 広小路先サブカルの電気街         屋
68  空を見上げてみすゞ諳んず        鯉
69 真似だけじゃ済まぬ三猿習性に       葛
70  福笑いとて目鼻散らばる         翠(新年)
71 松風の音鎮まりて初点前          代(新年)
72  駒を留めて嵯峨の枝折戸         晶
73 枳穀(きこく)垣密かにくぐる真夜の月    海(仲秋/月/恋)
74  鬼の子隠す後朝の袖           葛(三秋/恋)
75 かくれんぼとんぼに釣られ見つかりぬ    水(三秋)
76  わらべうたにも時は移りて        代
77 そよ風に揺るる湖水の花の波        鯉(晩春/花)
78  われもわれもと御影供の市        翠(晩春)
名残折表
79 裏小路そぞろ歩めば鐘霞む         海(三春)
80  魚焼く匂ひもはや昼時          葛
81 腰折れの孤老佇む緩(ゆる)日向       蛉
82  両膝つきて探る草の根          鯉(晩夏)
83 継続の力を借りて大事成す         屋
84  パズルの中のモナリザの笑み       代
85 ドローンに下心まで覗かれて        晶
86  冬将軍の構え盤石            翠(三冬)
87 駄目押しの火鉢持ち込む天守閣       屋(三冬)
88  初鶴の声尾根を越え来る         海(初冬)
89 それぞれの鍬の掌止めて眼を交わす     蛉
90  萩散る庭に塗りの駒下駄         翠(初秋)
91 寝ねがてに弦月しばしとどめおき      代(三秋/月)
92  琵琶歌のせて届く秋風          屋(三秋)
名残折裏
93 恋ふる人清方描くひとに似て        水(恋)
94  手差し伸べられ切通し行く        鯉(恋)
95 ひそやかに冬の夕陽に落とす影       海(三冬)
96  伊勢の海より届く寒鰡          代(三冬)
97 サミットは名こそ惜しけれの心で      鯉
98  登る理由はそこにある山         晶
99 ひと息に枡の酒干す花の宴         海(晩春/花)
100 蒲公英の絮(わた)宙にふうはり     翠(三春)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


とびぃ
連句
0 0

いわき文音五吟歌仙『赤蜻蛉』の巻 解題06(名残折裏折立から挙句まで)
toranpu.jpg
※画像はブログ「Ray Matsumoto Give Love & Peace」より転載

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  いわき文音五吟歌仙「赤蜻蛉」の巻          宗海捌
                        起首 2015.09.18
                        満尾 2015.12.13


 発句 赤蜻蛉載せて運ぶや坊主持ち      俊輔 三秋
 脇   金木犀の香る畦道          宗海 仲秋
 第三 宵の月鎖(さ)せる坑口照らすらん    禿山 三秋/月
 四   娘足長祖母は胴長          笑女 雑
 五  五十肩ハウツー本をかき集め      遊糸 雑
 折端  寒稽古にも追掛けがいる        海 晩冬
初裏
 折立 影冴ゆる八甲田山音もなく        輔 三冬
 二   風化してなお道祖双体         女 雑
 三  くねくねと横座りする膝の上       山 雑/恋
 四   しごきほどけて闇は深まり       糸 雑/恋
 五  蓋開けて卵を落とす泥鰌鍋        輔 三夏
 六   泡盛酌めば昇る夕月          海 三夏/月
 七  黍畑塩吹く頬を手で拭い         山 雑
 八   湿布貼るにも器用不器用        女 雑
 九  接着の技術は今やロケットに       糸 雑
 十   金の筋目の細き志野焼         海 雑
 十一 三斎が利休見送る花明かり        輔 晩春/花
 折端  出窓開けば胡蝶飛び立つ        女 三春
名残表
 折立 漸くに炬燵を塞ぐ模様替え        山 晩春
 二   夫(つま)と眼鏡を探す半日       糸 雑
 三  タイマーに頼る薬の飲み忘れ       海 雑
 四   湯気ほっこりとゆめぴりか盛る     輔 雑
 五  七五三集へる人の賑やかに        女 初冬
 六   鎮守の森に潜むふくろう        山 三冬
 七  恋の道魑魅魍魎も現れて         糸 雑/恋
 八   きぬぎぬを刷く紅の雨         輔 雑/恋
 九  温泉(ゆ)の加減尋ぬる声のあてやかに   海 雑
 十   空の銚子の並ぶ二の膳         山 雑
 十一 遠山が背比べする望の月         女 仲秋/月
 折端  耳を澄ませば木の実降る音       糸 晩秋
名残裏
 折立 トランプの占ひ果てて秋思なる      海 三秋
 二   近衛門兵昏れ残る空          輔 雑
 三  歳月の轍(わだち)に窪む石畳       女 雑
 四   捨て猫集ふ春の熊野路         山 三春
 五  伽羅の香に迎へられたる花の宿      糸 晩春/花
 挙句  追分唄ふ声ののどけさ        執筆 三春

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


名残裏
 折立 トランプの占ひ果てて秋思なる      海 三秋


膝送りの付合はいよいよ最終七巡目に入りました。名残裏折立は三飛び早番の捌の担当。早速遊糸さんの折端句に付けさせて頂きます。

屋外句が二つ続いたので、その流れを変えるべく室内の場景に戻しました。前句に漂う静寂の気分にふさわしく三秋の季語「秋思」を配し、前句に描かれた木の実降る音に聞き入る姿から、トランプ占いを終えて思いに沈む人物を思い描いたものです。

 二   近衛門兵昏れ残る空          輔 雑


ナウ二句目担当はお待ち兼ね五句飛び遅番の俊輔氏。秋三句の「句数」の縛りが解けたところで再び雑に戻ります。なお「人情自」句がすでに二句続いたので、人情句ならば「他」または「自他半」、、もしくは「人情無し」でも構いません。名残裏では荒事は禁物、静かに舞い納めるのが好ましい。

その要求に応えて呈示された候補5句の中から拾い上げた句案は次の一件。
  昏れ残る空口寄せの婆ぁ
穏やかな上七に対して下七にやや唐突な印象があることと、最後の面に置く句材と表現としていささか不似合いの印象を受けます。

そこでこの上七を下七に据え替えて「○○○○○○○昏れ残る空」の形に改める案を呈示しました。空白部分に充てるべき詞は自由度が高いので、捌の案よりも作者にお願いして納得の行くものにしたいと思量して、代案をいくつか考えて頂くことにしました。

その要請を受けて信輔氏が再提示されたのは次の三案。
 1 飛影とどめて 昏れ残る空
 2 ミレーの牧婦 昏れ残る空
 3 女王の門兵 昏れ残る空

作者が自薦する3の付味の良さを捌も良しと見ました。ただ「女王」は前句「トランプ」からの付筋がいささか露わで説明の匂いがあるのと、上七の字余りが句調を乱している点に難があります。そこでここをさらに「近衛門兵」と改めた掲句の形を提案して治定に至りました。これにより、付味・転じともに上々の面白い二句目が生まれました。

 三  歳月の轍(わだち)に窪む石畳       女 雑


ナウ三句目は三飛び早番の笑女さんにお願いします。前句が「人情自」句なので、人情を加えるならば「他」または「自他半」、あるいは人情を加えない場の句で行くのがよいでしょう。

呈示された候補5句の中から、前句の「近衛門兵」によく映える次の初案に目が留まりました。
  昔馬今は車の石畳
西欧の古都を想わせる「石畳」の句材が前句の情景によく馴染んでいます。ただし上五・中七の解説風な詠みぶりにいささか説明の匂いが感じられます。そこでこの点に一直を加えて掲句の形に改めて治定としました。前句の場景に映りのよい三句目が生まれました。

 四   捨て猫集ふ春の熊野路         山 三春


四句目はお待ち兼ね五飛び遅番禿山氏にお願いします。打越が「人情他」句なので、人情を加えるならば「自」または「自他半」、あるいは場の句をもう一句続けても差し支えありません。

まもなく呈示された候補5句の中から次の初案を選びました。
  山妻伴に歩く熊野路
前句「石畳」から「熊野路」を探り当てたものと見られます。ただしこのままでは「山妻」が二句目「門兵」と人倫の打越になります。また「山妻」は自らの妻への謙称で、例えば「愚妻を連れて歩く熊野路」などと詠むのと同じことですから、連俳などの文芸に用いるにふさわしい人称語とは言えません。

そこでこれらの点に対する手当として、人情を消して未出の句材にあたる獣類を登場させてみました。なお呈示した条件では雑の句をお願いしたのですが、次が花の座なのでその呼び出しを兼ねて一つ早めに春季に変更することにしました。前句との付味も良く、花を呼び出すにもふさわしい花前句が生まれました。
 五  伽羅の香に迎へられたる花の宿      糸 晩春/花

五句目は一巻の飾りにあたる匂の花の座。このたびは遊糸さんに花を持って頂きます。場の句が二句続いたので必ず人情を加えること、初折の花とは趣向を変えて変化を心掛けることを条件として呈示しました。

その要求に応えて提出された候補6句の中から、断然他を圧していると見て選んだのが掲句。前句との付味も、一句立てとしての句姿もよく、匂の花の座に置くにふさわしい気品が感じられます。その句調に似合わしく「迎え」を旧仮名の「迎へ」に改めて初案の句形のまま頂きます。前句と映りの良い、丈高い花句が生まれました。

 挙句  追分唄ふ声ののどけさ        執筆 三春


前句までで連衆5名による膝送りが七巡りしました。残るは挙句のみ、これは捌が付けて一巻を閉じることにします。

挙句は発句や脇を付けた人は付けないものとされるので、この句所では、連衆から出された付句を懐紙に書き留めたり、式目に照らして差合をチェックしたりなど、宗匠の補佐にあたる役割を務める「執筆(しゅひつ)」の名で付句を呈示することにします。

挙句は一巻の成就を祝う気分をこめて、めでたくあっさりと詠み納めるのが習わしです。掲句はそのような心得に従って付けたものです。かくしてこの文音では初めての五吟歌仙はめでたく一巻満尾を迎えました。(終)
とびぃ
連句
0 0

いわき文音五吟歌仙『赤蜻蛉』の巻 解題05(名残折表七句目から折端まで)
cimimoRryoR.jpg
※画像はブログ「カラパイア」より転載

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  いわき文音五吟歌仙「赤蜻蛉」の巻          宗海捌
                        起首 2015.09.18
                        満尾 2015.12.13


 発句 赤蜻蛉載せて運ぶや坊主持ち      俊輔 三秋
 脇   金木犀の香る畦道          宗海 仲秋
 第三 宵の月鎖(さ)せる坑口照らすらん    禿山 三秋/月
 四   娘足長祖母は胴長          笑女 雑
 五  五十肩ハウツー本をかき集め      遊糸 雑
 折端  寒稽古にも追掛けがいる        海 晩冬
初裏
 折立 影冴ゆる八甲田山音もなく        輔 三冬
 二   風化してなお道祖双体         女 雑
 三  くねくねと横座りする膝の上       山 雑/恋
 四   しごきほどけて闇は深まり       糸 雑/恋
 五  蓋開けて卵を落とす泥鰌鍋        輔 三夏
 六   泡盛酌めば昇る夕月          海 三夏/月
 七  黍畑塩吹く頬を手で拭い         山 雑
 八   湿布貼るにも器用不器用        女 雑
 九  接着の技術は今やロケットに       糸 雑
 十   金の筋目の細き志野焼         海 雑
 十一 三斎が利休見送る花明かり        輔 晩春/花
 折端  出窓開けば胡蝶飛び立つ        女 三春
名残表
 折立 漸くに炬燵を塞ぐ模様替え        山 晩春
 二   夫(つま)と眼鏡を探す半日       糸 雑
 三  タイマーに頼る薬の飲み忘れ       海 雑
 四   湯気ほっこりとゆめぴりか盛る     輔 雑
 五  七五三集へる人の賑やかに        女 初冬
 六   鎮守の森に潜むふくろう        山 三冬

 七  恋の道魑魅魍魎も現れて         糸 雑/恋
 八   きぬぎぬを刷く紅の雨         輔 雑/恋
 九  温泉(ゆ)の加減尋ぬる声のあてやかに   海 雑
 十   空の銚子の並ぶ二の膳         山 雑
 十一 遠山が背比べする望の月         女 仲秋/月
 折端  耳を澄ませば木の実降る音       糸 晩秋

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 七  恋の道魑魅魍魎も現れて         糸 雑/恋


七句目は常時四飛び遊糸さんの付番。前句の「潜む」にかすかな恋の気配が感じられるので、ここで恋句を詠んで頂くことにしました。それが難しければここで恋を呼び出してもかまいません。いずれにしても人情句で承けるのが自然です。

その要求に応えて呈示された候補6句の中から選んだのが上掲句。前句の「潜む」を付所に思いも寄らない「魑魅魍魎」が導き出されました。妖怪を恋句に組み込んだ意外性が面白く、一も二もなく本句を初案のまま頂くことにしました。次の付けが自在に拡がる可能性を持つ懐の深い恋句が生まれました。

 八   きぬぎぬを刷く紅の雨         輔 雑/恋


膝送りはこれより七巡目に入り、八句目は三飛び早番信輔氏の担当。雑の恋を続けます。前句が観念的な恋句なので、ここは必ず人情句によって具体化を図るようお願いしました。

その要請を受けて呈示された候補6句の中から捌が食指を動かしたのは次の初案句。
 5)きぬぎぬの雨紅(くれない)を刷(は)く
「紅」に一種の凄絶感があり、そこが前句「魑魅魍魎」に映じて面白い付味を醸し出しています。上下を倒置して名詞留めにすると短句らしさが生まれるので、最初は
 5') 紅を刷くきぬぎぬの雨
としたのですが、ふと思い付いてこれに今一つ曲折を加えた次の案が浮かびました。
 5") きぬぎぬを刷く紅の雨

こちらは[きぬぎぬを刷く紅]の雨 という、いま一回り韜晦(とうかい)の加わった句構造に相当します。念のためにどちらが好みかを連衆各位にお尋ねしたところ、前句作者の遊糸さんから強いご推挽があり、信輔氏からも再案のご納受を頂いたのでこの句形に治定しました。前句によく映えて恋情纏綿(てんめん)とした濃厚な八句目が生まれました。


 九  温泉(ゆ)の加減尋ぬる声のあてやかに   海 雑


早速これに九句目担当の捌が付けることにします。恋がすでに2句続いたので、ここでは「恋離れ」を試みることにします。「きぬぎぬ」には「後朝」の熟字が用いられるように、前句の「時分」は朝ですが、その時間を戻す形で夜分句としてこれに配したのが上掲句です。一句独立では恋句にならないものの、前句に付けると恋の情が生まれます。

なお初案は「湯の加減尋ぬる声のあてやかに」だったのですが、同面の四句目に「湯気」があることに後から気付きました。すでに四句隔てているので「湯」の同字の障りにはならないものの、字面が同じところに輪廻の嫌いがあります。これに替えて「温泉(ゆ)」の熟字訓を用いることによりその嫌いを避けることにしました。

ちなみに八句目の改案と九句目の付合は、蕉門俳諧歌仙「鴈がねも」の巻の次のくだりを「本説(ほんぜつ)」として踏まえたものです。
  足駄はかせぬ雨のあけぼの       越人
 きぬぎぬやあまりかぼそくあてやかに   芭蕉
  かぜひきたまふ声のうつくし      越人


ともあれ、「きぬぎぬ」に「雨」を寄せたのは信輔氏のお手柄でした。


 十   空の銚子の並ぶ二の膳         山 雑


十句目担当は三飛び早番の禿山氏。もう一句雑で行くことにします。
呈示された候補5句の中から選んだ初案句は次の句形に従うものでした。
  銚子片手に代わり催促

本句の付心としては前句の場を自宅と見立てたものでしょうが、情緒面から見て「催促」が前句の「あてやかに」に籠もる気分とうまく釣合が取れていません。この点を改善したいと考え、一直を加えて掲句の形に治定しました。
前句の「声」の主を宿のお運びの女性と見定め、これに呑兵衛の旅客を配したものです。打越と前句の恋の気分を離れて新たな展開が楽しみな十句目が生まれました。


 十一 遠山が背比べする望の月         女 仲秋/月


十一句目はお待ち兼ね笑さんの付番。ここが三度目の月の定座にあたります。
呈示された候補5句の中から選んだ初案句は次の句形に従うものでした。
  望の月高さを競う山在りて

満月に照らされた山々がシルエットとして連なる場景が浮かんできます。「高さを競う」がよく見かける表現であることと、下五「山在りて」が温和しいためにいささか物足りなさを覚えます。それらの難点を改めるべく一直を加えて掲句の形に治定しました。屋内から野外へ目を転じて新たな展開に効果のある月の句が生まれました。なお後から気付いたのですが、「背比べ」が前句の《並んだ銚子》と響き合うところには隠し味としての効き目があります。


 折端  耳を澄ませば木の実降る音       糸 晩秋


折端は四飛び糸さんの付番。前句の季が仲秋なので「季戻り」を避けて初秋以外の秋を続けることになります。
呈示された候補5句の中から捌が目を付けたのは次の初案句。
  木の実の雨が耳驚かす

下七の「耳驚かす」対象として、木の実の降る音を配したところに面白い味が感じられます。ただし、「木の実の雨」は比喩的表現とは言え、八句目に「雨」が出たばかりなので輪廻の嫌いを感じさせます。
そこでの点に対して一直を加え、上掲句の形に治定しました。前句との付味も良く前句の場の句から情を起こした、折端らしい落ち着きのある「人情自」句が生まれました。 (この項続く)



とびぃ
連句
0 0

いわき文音五吟歌仙『赤蜻蛉』の巻 解題04(名残折表折立から六句目まで)
kotacuhusagu.jpg
※画像はブログ「一日一豆」より転載


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  いわき文音五吟歌仙「赤蜻蛉」の巻          宗海捌
                        起首 2015.09.18
                        満尾 2015.12.13


 発句 赤蜻蛉載せて運ぶや坊主持ち      俊輔 三秋
 脇   金木犀の香る畦道          宗海 仲秋
 第三 宵の月鎖(さ)せる坑口照らすらん    禿山 三秋/月
 四   娘足長祖母は胴長          笑女 雑
 五  五十肩ハウツー本をかき集め      遊糸 雑
 折端  寒稽古にも追掛けがいる        海 晩冬
初裏
 折立 影冴ゆる八甲田山音もなく        輔 三冬
 二   風化してなお道祖双体         女 雑
 三  くねくねと横座りする膝の上       山 雑/恋
 四   しごきほどけて闇は深まり       糸 雑/恋
 五  蓋開けて卵を落とす泥鰌鍋        輔 三夏
 六   泡盛酌めば昇る夕月          海 三夏/月
 七  黍畑塩吹く頬を手で拭い         山 雑
 八   湿布貼るにも器用不器用        女 雑
 九  接着の技術は今やロケットに       糸 雑
 十   金の筋目の細き志野焼         海 雑
 十一 三斎が利休見送る花明かり        輔 晩春/花
 折端  出窓開けば胡蝶飛び立つ        女 三春
名残表
 折立 漸くに炬燵を塞ぐ模様替え        山 晩春
 二   夫(つま)と眼鏡を探す半日       糸 雑
 三  タイマーに頼る薬の飲み忘れ       海 雑
 四   湯気ほっこりとゆめぴりか盛る     輔 雑
 五  七五三集へる人の賑やかに        女 初冬
 六   鎮守の森に潜むふくろう        山 三冬

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名残表
 折立 漸くに炬燵を塞ぐ模様替え        山 晩春


膝送りは早くも後半にさしかかり、これより名残折の表入り。折立はお待ち兼ね五飛び遅番禿山氏の担当。式目の「句数」の定めに従って春をもう一句続けます。春三期のいずれも可、人情の有無は問いません。

呈示された候補の中から一次選考に残ったのは次の一句。
  好天に炬燵を塞ぎ模様替え
式目への差合はなく、穏やかに前句の内容を承けてはいますが、室内描写をそのまま引き継いでいる点と、「出窓開く」から「好天に炬燵を塞ぎ」と運んだところに続きを言っている印象が残ります。上五を「好天に」と言わずに、前句からの続きを阻む要素となる詞を交えてその難から逃れたいところです。また「塞ぎ」の中止形にも説明の匂いがします。

これらの点に一直を加えて掲句の形に改めました。中七を中止形ではなく連体形にしたことと、上五に《やっと腰を上げた》という要素を加えて改善を図ったものです。前句を模様替え最中の場景と見立ててこれに穏やかに応じた折立句が生まれました。

 二   夫(つま)と眼鏡を探す半日       糸 雑


二句目は遊糸さんに付番が回って来ました。春が三句続いて句数の制約が解けたので雑に戻ります。初裏折端、名残表折立と「人情自」句が二つ続いたので、人情を続けるならば他または自他半、さもなければ人情無しで運ぶことになります。

遊糸さんから呈示された候補5句には句材に関する障りはないのですが、いずれも人情自と見なされる句なので、同じ人情が三句続いてしまう難があります。そこで次の候補句に一直を加えてその難を解消することにしました。
  あれこれ探す物の置き場所
本句の「あれこれ探す」をもっと具体化させて、付筋を前句の「模様替え」の際に何かをどこかに置き忘れたという内容に改め、さらに人情他の要素を加えるという方針に沿った上掲句案を呈示してご納受頂きました。これによって初案に具体性が加わって付味の良い二句目が生まれました。

 三  タイマーに頼る薬の飲み忘れ       海 雑


これに早速三句目付番の捌が付けさせて頂きます。前句の二人でどこかに置き忘れた眼鏡を探す情景から、物忘れを意味する《廃忘(はいもう)》の要素を探り出し、これを「薬」の飲み忘れという病体の句材に転じ、併せてさらに「タイマー」を加えて曲を添えたもの。老体の要素もほの見えています。

 四   湯気ほっこりとゆめぴりか盛る     輔 雑


次は四飛び早番信輔氏の付番。さらに雑を続けます。人情に関しては打越と同類の「人情自他半」句にならないように注意する必要があります。

呈示された候補5句の中で目を留めたのは次の一句。
  白い湯気出すゆめひかり
前句への付心は《飲》に対するに《食》をもってしたということと解しました。ただしこのままでは下七が字足らずなのと、上七の「白い」は言わずもがな、また「出す」にいささか散文的な印象がある点にそれぞれ補修を加えればよい付味が出ると判断して掲句の句形に一直を加えました。

ちなみに、初案の「ゆめひかり」という米の銘柄名が不審だったのでネットを検索してみたところ、これと名前のよく似た「ゆめぴりか」が網に掛かりました。「日本一おいしい米を」という北海道民の「夢」に《美しい》意を表す「ピリカ」を添えて名付けられた旨の解説がありました。ご当地にふさわしい句材なので、機に乗じてこれに改めたのですが、図らずも上下の句頭にユの同音の並ぶ表現効果も生まれました。

 五  七五三集へる人の賑やかに        女 初冬


五句目は臨時四飛び笑女さんの付番。冬を誘う趣の前句が折良く出たのでここはそれに乗じて冬季に移ることにします。人情句で行くならば「人情他」または「自他半」、「人情無し」で行くことも可能です。

呈示された5句の中から次の初案句に目が留まりました。
  七五三つ集いし人の賑やかに
前句との映りの良い付けです。なお「集いし」は現代語では「集まった」にあたりますが、その「た」は「過去」ではなく「完了(存続)」の意なので、それに相当する文語助動詞「り」を用いた掲句の句形にて治定としました。前句に籠もる《暖かさ》の要素が、和やかな集まりの雰囲気と響き合って付味の良さの感じられる五句目が生まれました。

 六   鎮守の森に潜むふくろう        山 三冬


六句目は臨時四飛び禿山氏の付番。もう一句冬を続けます。人情を入れるならば「人情自」以外、あるいは「人情無し」も可です。

候補5句の中から、前句に良く付いた掲句を初案のまま頂くことにしました。前句の「七五三」から「鎮守の森」への移り、さらにそこに住む「ふくろう」への連想の流れが自然で味の良い場の句です。前句までしばらく人情句が続いて、いささか凭(もた)れ気味を生じていた流れを場に転じて、新たな展開を招くにふさわしい六句目が生まれました。 (この項続く)
とびぃ
連句
0 0

いわき文音五吟歌仙『赤蜻蛉』の巻 解題03(初折裏七句目から折端まで)
kibibatake.jpg
※画像はブログ「JOINTtly green」より転載


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  いわき文音五吟歌仙「赤蜻蛉」の巻          宗海捌
                        起首 2015.09.18
                        満尾 2015.12.13


 発句 赤蜻蛉載せて運ぶや坊主持ち      俊輔 三秋
 脇   金木犀の香る畦道          宗海 仲秋
 第三 宵の月鎖(さ)せる坑口照らすらん    禿山 三秋/月
 四   娘足長祖母は胴長          笑女 雑
 五  五十肩ハウツー本をかき集め      遊糸 雑
 折端  寒稽古にも追掛けがいる        海 晩冬
初裏
 折立 影冴ゆる八甲田山音もなく        輔 三冬
 二   風化してなお道祖双体         女 雑
 三  くねくねと横座りする膝の上       山 雑/恋
 四   しごきほどけて闇は深まり       糸 雑/恋
 五  蓋開けて卵を落とす泥鰌鍋        輔 三夏
 六   泡盛酌めば昇る夕月          海 三夏/月

 七  黍畑塩吹く頬を手で拭い         山 雑
 八   湿布貼るにも器用不器用        女 雑
 九  接着の技術は今やロケットに       糸 雑
 十   金の筋目の細き志野焼         海 雑
 十一 三斎が利休見送る花明かり        輔 晩春/花
 折端  出窓開けば胡蝶飛び立つ        女 三春

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 七  黍畑塩吹く頬を手で拭い         山 雑


七句目は三飛び早番禿山氏の付番。五・六句目に夏が2句続いたので再び雑に戻ります。下戸どのに酒盛り句への付句をお願いするはちとお気の毒ながら、そこをうまくあしらうのが想像力の見せ所というものです。

呈示された候補5句の中で捌が目を留めたのは次の2句。
 3)キビ畑塩吹く頬を手で拭い
 5)風止んで収穫を待つキビ畑

3は前句の時間を戻して付ける「逆付(ぎゃくづけ)」の手法に従うもの。前句に付けると畑仕事の後に一献する農夫の姿が浮かんできます。夏の季語となる「汗」を避けて「塩吹く頬」とした工夫が功を奏しています。また「塩」には「泡盛」と微妙に響き合う効果もあります。5は同じ付筋で場の句として表現したもの。落ち着きのある句姿です。

彼此見比べた結果、5にも心が残りますが、そこに人情の加わった3の付味をさらに勝れたりと判断し、「キビ」を漢字表記改めただけで初案をそのまま頂戴しました。転じ味・付き味ともに上々の七句目が生まれました。

 八   湿布貼るにも器用不器用        女 雑


八句目担当は五飛び遅番の笑女さん。雑を続けます。前2句の形成する世界からまったく別の世界にどのように転ずるかが付けの眼目になります。

ご呈示頂いた候補5句の中では次の句を良しと見ました。
  湿布薬に頼る腰痛
前句の《農作業》から病体の「腰痛」を経て「湿布薬」を引き出したところによい思案の程が窺われます。ただ「腰痛」を真正直に詞の表に出すと付筋が露わに見えてしまうのと、「頼る」にいささか説明の気味が感じられる、その二点にいまひと工夫凝らしたい思いが残ります。そこでこれらの点に一直を加えて上掲句を案じた次第です。程よい付味と転じ味を兼ね備えた、新たな展開の期待される八句目が治定を見ました。

 九  接着の技術は今やロケットに       糸 雑


九句目の担当は四飛び付番の遊糸さん。ここでも雑を続けることにします。句中の人物を自らのこととして詠んだ「人情自」の句が続いたので、付合の流れが単調に陥らないように、この句所では他者を交えた「人情他」か、自他両者の登場する「人情自他半」、あるいは人間の姿のない「人情無し」のいずれかで行くことを条件としました。

遊糸さんから呈示された候補5句の中から粗選びしたのは次の2句。
 1)交渉は粘るが良しと教えられ
 5)接着剤技術は進みロケットに

1は前句の「湿布」から「粘り」という抽象概念を抽出し、それを人事に具体化させたもの。これも転じの手法の一つです。5は「貼る」から同様に「接着」の要素を引き出したもの。付筋がやや見え過ぎる嫌いはありますが、句材の「ロケット」には転じの面白さがあります。

上記2候補句を捌きの天秤に掛けた結果、人情については1の人情自よりも5の人情無しの方が展開の変化に長けていると判定しました。なお上五の字余りと、「技術は進み」にいささかの説明臭がある点に対処すべく一直を加え、掲句の形に改めさせて頂きました。「湿布」から「ロケット」へと見事に転じた、新たな展開の期待される九句目が生まれました。

 十   金の筋目の細き志野焼         海 雑


遊糸さんの前句に三飛び早番の捌が十句目を付けます。

掲句は前句の「接着」から茶器の補修に施される「金継ぎ」を思い浮かべたもの。当初は上七を「金の継目」としたのですが、付筋がいささか露わになる嫌いがあるので、その"欠け"を補修すべくこのように改めました。なお「茶碗」の句材には次の花句を付け易くしようとする狙いも込められています。

 十一 三斎が利休見送る花明かり        輔 晩春/花


十一句目は初折の花の座。お待ち兼ねの俊輔氏に最初の花を持って頂きます。花の句は、固有種名を詠んだのでは「正花」として認められないので、必ず汎称としての「花」のみを用いて詠むことが必須条件です。

呈示された候補5句に吟味を加えた結果、付味と"花への賞翫の心"の両面から次の候補句をもっとも良しと見ました。
 2)三斎と左介が送る花明かり

これには「細川忠興と古田織部と千利休」の自註が施されていました。前句の茶碗を付所に、利休が秀吉の勘気に触れて追放の憂き目を見た折、忠興と織部が秀吉に憚ること無く利休を見送ったという故事を踏まえたもので、歴史小説家の面目躍如たる付けです。両人の通称「三斎」「佐介」が頭韻を踏んで並んでいる点も効果的です。ただ、細部について言えば、自註が無いと「送る」だけでは判り難い印象を受けます。そこで最初この点を改めるために次の改案を試みました。
 2')三斎と左介見送る花明かり

しかし、さらになお考えるところがあってこれに再案を加えました。
 2")三斎が利休見送る花明かり

初案は見送る側の二人を表に出して客体としての利休を言外に隠していますが、それを再案のようにすれば主体と客体が明らかになって理解度が高まると考えた次第です。ただしそれでは「佐介」の名は消えてしまいますが、見送られる相手を明示した方が解りやすいと判断しました。専門家にとっては、付筋が露わに過ぎるという不満を覚えるであろうことは重々承知の上の提案でしたが、信輔氏からは快くご納受を頂きました。

史伝を踏まえた人名入りの起情句によって付合に新たな趣が加わり、「花明り」が利休の悲劇に哀れを添えた、長(たけ)高い花句が生まれました。

 折端  出窓開けば胡蝶飛び立つ        女 三春


折立は三飛び早番の笑女さん。前句を承けて三春または晩春の季語を用いることと、前句が人情を起こしたのでここでも必ず人情を入れることとをお願いしました。

間もなく呈示された候補5句の中では次の句の付味をもっとも良しと見ました。 
  出窓開ければ蝶飛び立ちて

「飛び立つ」が前句の「見送る」にほのかに通うところがある点と、「開ければ」として人情自を引き寄せた工夫が優れています。ただ「蝶/飛び立ちて」の詞の切れ目が、短句の句調を不整にする「二五四三」の「二五」の形であるのに加えて表現にもいまひとつ曲が欲しいことと、句末は「て」留めよりも動詞留めにした方が落ち着くように感じられます。

かかる吟味の結果、掲句に見るような一直案に従った次第です。なお「開(あ)ければ」を「開(ひら)けば」としたのは、同じ「開く」が初裏五句目にも用いられていることに配慮したものです。前句への程よい付きと離れによって、新たな展開の期待される折端が生まれました。  (この項続く)
とびぃ
連句
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いわき文音五吟歌仙『赤蜻蛉』の巻 解題02(初折裏折立から六句目まで)
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※画像はブログ「小川原湖のほとり」より転載


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  いわき文音五吟歌仙「赤蜻蛉」の巻          宗海捌
                        起首 2015.09.18
                        満尾 2015.12.13


 発句 赤蜻蛉載せて運ぶや坊主持ち      俊輔 三秋
 脇   金木犀の香る畦道          宗海 仲秋
 第三 宵の月鎖(さ)せる坑口照らすらん    禿山 三秋/月
 四   娘足長祖母は胴長          笑女 雑
 五  五十肩ハウツー本をかき集め      遊糸 雑
 折端  寒稽古にも追掛けがいる        海 晩冬
初裏
 折立 影冴ゆる八甲田山音もなく        輔 三冬
 二   風化してなお道祖双体         女 雑
 三  くねくねと横座りする膝の上       山 雑/恋
 四   しごきほどけて闇は深まり       糸 雑/恋
 五  蓋開けて卵を落とす泥鰌鍋        輔 三夏
 六   泡盛酌めば昇る夕月          海 三夏/月

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

初裏
 折立 影冴ゆる八甲田山音もなく        輔 三冬


付合は早くも初折裏に移り、折立は信輔氏の付番。前句の冬季は、式目の「句数」の定めでは一句のみで捨ててもよいものですが、面が改まる場合には折端と同季の形で続けるのが習わしなので、「季戻り」を避けて晩冬あるいは三冬の季語を用いることをお願いしました。その要請に応えて提出された候補5句の中から、もっとも付味がよいと判定して選んだ句の初案は次のような句形に従うものでした。
  寒波満つ八甲田山は音もなし
前句の「寒稽古」を承けてこれを人事から寒景に転じたもので、前句の内容によく付いています。「八甲田山」のような固有地名は表六句には用いることのできない句材の一つですが、ここから裏に移ったのでその点はお構いなし。ただし「寒波」の「寒」が前句と同字の障りになることと、下五の「もなし」が第三の留めの形の一つとされるものなので、これを平句に似合わしく改めることに意を用いて掲句の句形に仕立て直しました。軽い詠み口の前句から一転して、折立に置くにふさわしい丈高い句姿が生まれました。

 二   風化してなお道祖双体         女 雑


二句目は笑さんの三飛び早番。二句続いた冬を離れて雑に戻ります。呈示された候補5句の中の次の一句に目が留まりました。
  双体道祖風化してなお
引き締まった「双体道祖」という表現に心惹かれました。大景を写し取った前句に近景として道祖神を置いたところが効果的です。下七の「なお」を先行させて「双体」に続けるとさらに良い句形になるように思われたので、そのような一直を加えて掲句の形に治定しました。なお「道」字は脇句の「畦道」にも用いられていますが、すでに三句以上を隔てているので同字の障りにはなりません。前句の山容に古体の道祖神を配した格調のある神祇句が生まれました。

 三  くねくねと横座りする膝の上       山 雑/恋


三句目はお待ち兼ね禿山氏の五飛び付番。人間の登場しない「人情なしの句(場の句)」が二つ続いたので、ここはぜひとも人情を起こしたい局面です。前句の「双体道祖」は恋を誘うにふさわしい句材なので、これを「恋の呼び出し」と解して雑の恋句で応ずることをお願いしました。

呈示された候補5句の中で目を留めたのは次の初案句。
  膝上に横座りして縋りつく
積極的に男性に迫る女性を描いた恋句で、「横座り」に詞の面白さがあります。「(横座り)して」が前句「(風化)して」と重なる点と、「膝上」は句末に置いた方がさらに句興が増すことを考慮して、これに一直を加えた掲句の形に改めて頂戴しました。

睦まじげに肩を並べる前句の道祖神像を付所に、相手の膝の上に横座りして身体をぴったり寄せる艶めかしい女性の姿へと転じた面白い味の恋句が生まれました。

 四   しごきほどけて闇は深まり       糸 雑/恋


四句目担当は常時四飛び付番の遊糸さん。恋の句は二句以上続けるのが定石なので、ここは否応なしに前句の恋を承けて頂きます。前句をどのようにあしらうか、難しい局面ですが、そこが腕の見せ所。呈示された候補6句を吟味した結果次の初案二句を候補として残しました。
  3) はらりと落ちる緋の長襦袢
  5) しごきほどけて闇は深まり

一句立てとして味わうだけならば候補3の「はらり」がよく効いて面白いのですが、前句にも同類の擬態語「くねくねと」があって二つが連なる点に僅かな難があるため、候補5に軍配を上げ、これを初案のまま頂戴することにしました。なんと言っても「闇は深まり」が決め台詞で、前句に似付かわしいまことに濃艶な恋句が生まれました。

 五  蓋開けて卵を落とす泥鰌鍋        輔 三夏


五句目は三飛び早番の俊輔氏の付番。恋が二句続いたので、この句所には無季または夏の「恋離れ」句を所望しました。一句だけでは恋句にはならないけれども前句に付けると恋の心が感じられる、そのような句が上々の恋離れとされます。

呈示候補5句の中、次の初案句に捌の食指が動きました。
  汗流し卵割りたるどじょう鍋
前句の恋を承けるのに「卵」「泥鰌」に潜む《精を付ける》という要素を踏まえた付心がほのかな俳味を生んでよい離れ味が感じられます。ただし上五の「汗」は「どじょう鍋」と夏の季重なりになることと、「汗流し」の連用中止形を用いた表現にいささか説明の匂いがあります。また中七は「割る」よりも「落とす」が良さそうです。

これらの点を改めるべく一直を加えて掲句の句形が生まれました。なお前句の「闇」に「鍋」を配したところには「闇鍋」への連想を誘う要素もあって思わぬ効果を発揮しています。

 六   泡盛酌めば昇る夕月          海 三夏/月


六句目は五飛び遅番の捌が付けます。ここは前句の季を承けて夏の月を出すのがかねてよりの目論見でした。
前句を開け放った座敷の酒盛り場景を詠んだものと見立て、その場に夏の月を配したものです。なお二句前に用いられた「闇」は、真夜中に相当する「時分」の詞とも解され、本句の「夕」に障る懸念もありますが「異時分」は「打越嫌わず」と見なされるので差合なしと判断しました。 (この項続く)
とびぃ
連句
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いわき文音五吟歌仙『赤蜻蛉』の巻 解題01(発句から初折表折端まで)
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今からちょうど60年前に福島県平(現在いわき)市立平第一中学校の学窓を巣立った級友同士が、ふとした機縁で始めた電子メールによる文音(ぶんいん)連句、その通巻第二十一が今月半ばに満尾を迎えました。

思い起こせば、笑女・禿山・宗海の3人で始めた最初の三吟歌仙「刈り終へし」の満尾が7年前の2008年12月22日、その後、通巻第四「陽だまり」の巻の中途から、この話を耳にした遊糸さんが参加を希望されて四吟歌仙に変わり、さらにそれがしばらく続いた後、今回からは禿山氏のお知り合いで北海道滝川市在住の歴史小説家田中俊輔氏を招請して五吟歌仙が賑々しく興行される運びとなりました。

本ページ冒頭に掲げる画像は、その俊輔氏が福島宜慶氏と共同で本年7月に北海道出版企画センターから刊行した『坊主持ちの旅-江政敏と天田愚庵-』表紙のスキャナコピーです。本書は磐城平生まれで正岡子規を初めとする当時の多くの著名人と交流のあった歌僧天田愚庵(あまだ・ぐあん)と、その友人で事業家の江政敏(ごう・ まさとし)との交流を描いた歴史小説です。ちなみに愚庵の母は本記事筆者の家系に繋がる女性にあたります。郷土と縁の糸で結ばれた不思議な出会いに驚かされた次第です。

そのような因縁によって起こされた本巻の進行状況の解説を、これまでと同様に捌(さばき)を務めた宗海がこれから6回にわたって連載することにいたします。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

  いわき文音五吟歌仙「赤蜻蛉」の巻          宗海捌
                        起首 2015.09.18
                        満尾 2015.12.13

 発句 赤蜻蛉載せて運ぶや坊主持ち      俊輔 三秋
 脇   金木犀の香る畦道          宗海 仲秋
 第三 宵の月鎖(さ)せる坑口照らすらん    禿山 三秋/月
 四   娘足長祖母は胴長          笑女 雑
 五  五十肩ハウツー本をかき集め      遊糸 雑
 折端  寒稽古にも追掛けがいる        海 晩冬

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


今回は、正客の俊輔氏を宗海が亭主としてお迎えする形で巻き起こされ、その後に三人の連衆が続いて付け進めることになります。一巡目を"俊輔>宗海>禿山>笑女>遊糸"の付順で運んだ後、二巡目はこれを"宗海>俊輔>笑女>禿山>遊糸"の順に入れ換え、以後はこれを交互に繰り返す「五飛び三飛び」の膝送り方式で進めて行きます。ただし五番目の遊糸さんの付番は常に四飛びで変わりなく、また月・花の座の担当が偏在しないように、機に応じて付順を入れ換えることもあります。

 発句 赤蜻蛉載せて運ぶや坊主持ち      俊輔 三秋

俊輔氏から早々に送られて来た発句候補は次の5句。
  1) 鉄眼に仁義を切って秋思かな     三秋
  2) 文音に名のりあげたが秋の蝿     初秋
  3) フラガール踊る舞台に蘭捧ぐ     仲秋
  4) 坊主持ち荷物預けて赤とんぼ     三秋
  5) 湯河原に金婚そろって秋鰹      三秋

1の「鉄眼」とは前掲小説の主人公の一人である愚庵の法名で、4はその作品の初章に描かれた、彼の幼年時代の一場面を句材としたもの。「坊主持ち」とは、同行者の荷物を交替で持ち、途中で僧侶に出会うごとに持ち手を替える遊び。いわき市を郷里とする他の四人への挨拶の心が籠められていることと、持ち手を替えるというところに連句の付合を思わせる要素が潜んで隠し味として効いている点が他を凌駕しています。この二点を評価して本候補句を頂戴することにしました。
ただし初案4は、意味の切れ目が上下両五にある「二段切れ」の句形なので、これに一直を加えて掲句のように改めさせて頂きました。初案の動作主は荷物を預ける側に立つ人物でしたが、これを持つ側に入れ替え、「預けて」を「載せて」として俳味を加えたものです。なお上五は「赤蜻蛉(を)」のテニハ「を」を切った形で下に続くので二段切れにはなりません。

 脇   金木犀の香る畦道          宗海 仲秋

正客の発句を承けて亭主の宗海が脇を付けます。脇句は発句に寄り添うように詠むべしとされ、発句と同じ時・場所を表す内容で応ずるのを原則とします。そこでこれも上記作品に描かれた「坊主持ち」の遊びに興ずる幼い主人公たちが田圃の道を歩く場面を思い浮かべ、そこに虚構の「金木犀」を取り合わせる形で当季を定めました。

ちなみに発句にはその興行が始まった時季の季語を用いるのを原則としますが、本句のように季語が季全体に及ぶものである場合には、脇が三期を区分する初・仲・晩の季語を用いて当季を定めなければなりません。本句に「金木犀」の季語を用いたのは、この付合の始まったのが仲秋であることによるものです。

 第三 宵の月鎖(さ)せる坑口照らすらん    禿山 三秋/月

第三は禿山氏の付番。秋の発句で始まる巻では、ここを月の定座とするのが習わしです。第三は一巻の変化が始まる句所とされ、付句の心得としては前二句の構築した世界から大きく転じることが何より大切です。またその句形も「て・に・らん・もなし」などで留めるのが一般です。

禿山氏から提出された候補5句の中から捌が一直を加えて治定したのが上掲句。前二句の磐城平藩の世界から故郷の常磐炭鉱に連想を馳せ、月に照らされた廃坑の姿を思い描いたものです。

初案の句形「宵の月閉じし坑口照らすらん」は、上五に5拍連語を置いて軽い留めを入れた、第三に多く用いられる「大山体」と呼ばれる句体で、目前にない現在の場景を推量する「らん」を句末に据えた点も第三の作法に従うものです。なお中七「閉じし」は、過去の「し」ではなく存続体を用いて「閉ぢたる」としたいところですが、これでは字余りを生ずるので、「閉ざす」に近い二拍の動詞「鎖す」に別の存続の助動詞「り」を添える形に改めて治定しました。

 四   娘足長祖母は胴長          笑女 雑

四句目担当は笑女さん。秋が三句続いて式目の季に関する「句数(くかず)」の制約が解かれたので、ここで「雑(ぞう)」句に転ずることにします。四句目から挙句の前までの句は「平句(ひらく)」と呼ばれ、季語を用いない雑句や切字を用いない、俳句とは異なる句体で運ばれることになります。発句から第三までは内容・形式ともに重い句が続くので、四句目は変化を求めるためにも軽い味の句が好まれます。

第三治定の後、早々と呈示された候補5句の中で、上記の条件を満たすにもっともふさわしいと判定したのが次の初案句です。
  祖母は胴長娘足長
前句が離れた所の場景を推量したものですから、その思いを抱く人物を詠むことにすれば付筋は如何様にも自在に拡がります。付心の面でも《長さ》の要素が細い糸筋となって前句の「坑」に通う点によい付味が感じられます。なお本句に詠まれた二人の女性は、上七が主で下七が従にあたりますから、美味い物は後に出すことにして、上下を入れ替えた僅かな一直を加え治定しました。テニハの「は」に備わる"特立性"もこの方が効果的に発揮され、俳味がさらに増すものと思われます。

 五  五十肩ハウツー本をかき集め      遊糸 雑

五句目は遊糸さんの付番。雑句をもう一句続けます。呈示された候補5句の中から取り上げた句は次の一句。
  体力の無さに集めるハウツー本
前句の「胴長」を付所にそこから「筋力」「体力」へと付筋を伸ばした自然な付けを評価しました。ただし「体力の無さ」とまで言ってしまうと説明になるので、そこをもう少しさり気無く表現したいと考え、掲句の形に一直を加えました。

上記の所望点への手当と併せて、下五の字余り解消のために「ハウツー本」を中七に回し、下五に「かき集め」という平俗表現を意図的に用いて俳味を増したものです。

 折端  寒稽古にも追掛けがいる        海 晩冬

五句目で膝送りが一巡したので二巡目は付順が替わり、折端は捌が付けます。一面には二季を配するのが好ましいとされるので、この句所には夏か冬の季句を置くことにします。

掲句は前句の「五十肩」を付所として夏冬の運動競技関連季語を探し、晩冬の「寒稽古」を探り当てたもの。これにひと味加えるべく当人をイケメン男子と見定め、それに「追掛け」を取り合わせたものです。 (この項続く)

とびぃ
連句
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ツイッター笠着百韻「見晴らすや」の巻 (清書)
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※画像はブログ「ぶらぶらお祭り探訪」より転載


本年11月2日に開巻し12月14日にめでたく満尾を迎えたツイッター笠着百韻通巻第二十八「見晴らすや」の巻が改訂作業にあたる「校合(きょうごう)」を終えて本治定に至りました。その清書を掲載します。

本巻は「初折」から「名残折」に及ぶ四折の百韻形式に則り、巻中に花を四座、月を七座置く「四花七月」の方式に従って付合を進めました。付合は付順を決めず先に付けた句を優先する"先勝乱吟"方式を原則とし、進行と差合などの吟味は宗海(筆者)が務めました。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

  ツイッター #笠着 百韻「見晴らすや」の巻(清書)

                    起首 2015.11.02
                   満尾 2015.12.14

01 見晴らすや四方秋色の城下町       関屋(三秋)
02  離れ座敷に手繰る新蕎麦        宗海(晩秋)
03 湖にさざ波寄する月映えて        鯉子(三秋/月)
04  小魚なれど光る銀鱗          真葛
05 週末はシルバーパスでジム通ひ      里代
06  銭湯セット包(くる)む風呂敷      屋
07 閊(つっか)えて最初に戻る節回し      海
08  心太には木の箱が合ふ          代(三夏)
初折裏
09 頼りなき夫(つま)に添ひつつ草刈女     葛(三夏)
10  羽白き鷺川面見つめて          子
11 小春日のゆらりゆらりと道遠く       屋(初冬)
12  締切疾(と)うに過ぎた原稿        海
13 返信といふ恋文を待ちてをり        代(恋)
14  去り行く人に思ひひと言         子(恋)
15 御雇の背の如高く持つ誇り         葛
16  快進撃は至極当然            屋
17 球場のライトフェンスに昇る月       海(三秋/月)
18  蟋蟀の声夜に染み入る         松翠(三秋)
19 山荘に風吹き残し秋簾           代(仲秋)
20  琳派の画集美酒に似合ひて       曙水
21 舞ひ散りて緩き流れに花筏         子(晩春/花)
22  黄色一点眠る蝶蝶            葛(三春)
二折表
23 入学の済みし帽子の誇らしく        屋(仲春)
24  人集(だか)りするジャグラーの芸     海
25 常連を手玉に取りて若女将         翠
26  羽子板市へ姪を誘ふ           代(仲冬)
27 自転車のお迎へ急ぐ冬の霧         子(三冬)
28  値引きで決まる今日の献立        水
29 団らんに西京漬は甘辛く         蛉
30  贔屓力士の四股名あれこれ        海
31 白装の少女の瞳きらきらと         屋(晩夏)
32  錦で飾るタイムカプセル         葛
33 初恋の痛み疼いて私鉄駅          翠(恋)
34  二人眺むる有明の月           代(三秋/月/恋)
35 隣家よりソプラノ聞こえ秋澄める      子(三秋)
36  鼻を頼りに探す木犀           翠(晩秋)
二折裏
37 ようこその持てなし受けて今年酒      葛(晩秋)
38  夜空仰げばはやオライオン        蛉
39 塾終えてひとりぼつちの帰り道       屋
40  夢の中でも過去問を解く         代
41 断捨離は行ひ難く言ひ易き         海
42  未練が残る黴の塩辛           蛉(初夏)
43 息づかひ間近に熱き青葉闇         子(三夏/恋)
44  朴念仁の不器用な恋           葛(恋)
45 満月に腕(かいな)伸ばせば届きそう     海(仲秋/月)
46  富士の麓に薊粧(よそほ)ふ        屋(仲秋)
47 分譲地隔たる秋に色褪せて         翠(晩秋)
48  折り込みチラシ見ずに捨てられ      水
49 観無量寿経の中へ花吹雪          代(晩春/花)
50  岬たどれば燃ゆる陽炎          海(三春)
三折表
51 バス降りて菜飯茶屋へと旅行団       屋(三春)
52  老比べつつ譲り合ふ席          子
53 判型の違ふ字引を並べ替へ         翠
54  アラビア語など俄か勉強         葛
55 蔦茂るおとぎ話の城に姫          水(三夏)
56  バラの刺繍の小(ち)さきハンカチ     海(三夏)
57 微かなる香り含ませカンカン帽       蛉(三夏)
58  豪華客船寄港地は晴           代
59 目と耳と足の選り抜く料理店        屋
60  風冷たくも止まぬお喋り         子(三冬)
61 化粧するロボット誕生遠からじ       葛
62  体重計の数字気になる          海
63 望月に豊穣の海照されて          水(仲秋/月)
64  雨上がりなる黄菊鮮やか         子(晩秋)
三折裏
65 一合の米を炊(かし)いで零余子飯     代(晩秋)
66  ペットボトルに詰めた名水        翠
67 積年の不孝を詫びる枕許          葛
68  叱る来た道笑ふ行く道          屋
69 たっぷりと墨含ませて筆始         海(新年)
70  銀糸を巻けば手毬凛々          子(新年)
71 猫ドアをまずリフォームの要とし      水
72  DIYは任せてと彼             代
73 月光を浴びて糠床返す夜半         蛉(三秋/月)
74  桃の実包む産毛白々           屋(初秋)
75 秘めやかに微笑み送る涼新た        海(初秋)
76  弥勒菩薩にいまも恋する         代(恋)
77 初花を待たずに嫁ぐ末娘          翠(仲春/花/恋)
78  陽射し眩(まぶ)しく揺るる山吹      子(晩春)
名残折表
79 春荒の地に住み慣れてたたむ傘       葛(三春)
80  頼まれ刺し子やっと仕上がる       海
81 通し矢の柱の傷のありありと        屋(初夏)
82  千年の裔あるじ泰然           葛
83 メジャーてふ夢の挑戦見守りて       子
84  チャールズ河口冬のあたたか       代(三冬)
85 吾もまた遠き旅人浮寝鳥          海(三冬)
86  ふはり果敢なく舞へる綿虫        屋(初冬)
87 夕の陽に歩める背中ついてゆく       蛉
88  いつもの空き地今日は缶蹴り       水
89 ツナばかりもてる世なりと嘆く鮭      葛(三秋)
90  闇夜ひそかに醸す猿酒          代(晩秋)
91 赤みたる上弦の月雲の間に         子(三秋/月)
92  鳴子の崩すうたた寝の腕         屋(三秋)
名残折裏
93 芋煮会終えた頃から良い仲に        海(晩秋/恋)
94  篠つく雨に相合の傘           代(恋)
95 道楽の末の正調三味の音          子
96  即かず離れずノラと過ごす日       葛
97 錆色の汲み上げ井戸の濾し袋        屋
98  背負子を下ろし憩う軒先         蛉
99 花の香はひと吹き風に運ばれて       海(晩春/花)
100 なだらな道を辿る野遊          子(晩春)

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とびぃ
連句
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ツイッター笠着百韻「新涼や」の巻 (清書)
kinudoRhu.jpg
※画像はブログ「みのお 橋川豆腐店」 による


本年8月26日に開巻し10月15日に満尾をむかえた、ツイッター笠着百韻通巻第二十七「新涼や」の巻が改訂作業にあたる「校合(きょうごう)」を終えて本治定に至りました。その清書を掲載します。

本巻は「初折」から「名残折」に及ぶ四折の百韻形式に則り、巻中に花を四座、月を七座置く「四花七月」の方式に従って付合を進めました。付合は付順を決めず先に付けた句を優先する"先勝乱吟"方式を原則とし、進行と差合などの吟味は宗海(筆者)が務めました。

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  ツイッター #笠着 百韻「新涼や」の巻(先勝乱吟)
                    起首 2015.08.26
                   満尾 2015.10.15

01 新涼やゆらりと重き絹豆腐        宗海(初秋)
02  黒の小鉢に映える秋の灯        真葛(三秋)
03 氷輪にシュプレヒコール響かせて     松翠(三秋/月)
04  ポプラ並木の立ち尽くす街       里代
05 懐かしき匂いも色も古書の市       曙水
06  記憶うすれりゃ変わる世の常      関屋
07 燕の子いつもの軒で見守りて        翠(三夏)
08  仕立て下ろしの単衣涼しき        代(三夏)
初折裏
09 駅弁を開けば北に五月富士         海(仲夏)
10  格安の宿ネット予約で          屋
11 見渡せば後期高齢ばかりなり        水
12  冬の夕暮れ歌も浮かばず         葛(三冬)
13 鯛焼の尻尾に神は宿りたる         海(三冬)
14  ターシャは庭を楽園と呼ぶ        代
15 君を待つベンチに風の柔らかく       翠(恋)
16  艶めく髪の香りほのかに         屋(恋)
17 なよ竹の姫を呼びたき月夜なる      鯉子(三秋/月)
18  浮かれ出でたる秋蝶の舞         海(三秋)
19 差入れの新酒並びし楽屋裏         葛(晩秋)
20  ゴシップ記事も芸のいろどり       水
21 初陣の投球魅せる花の下          代(晩春/花)
22  若鮎臨む未知の水流           子(晩春)
二折表
23 巣箱より蜂の飛び立つ小昼時        海(三春)
24  エステサロンのマダム物憂く       翠
25 カンバスに広がる青のマチエール      葛
26  幹事すばやく済ます支払い        屋
27 あやされて泣けばおまけの夜店なり     子(三夏)
28  六十路すぎても得な末っ子        水      ※六十路(むそじ)
29 箒目の庭に楪客支度            翠(新年)   ※楪(ゆずりは)
30  女礼者の小袖はなやぐ          代(新年)
31 五年経て御朱印帳の折り果てて       屋
32  御籤の串をそっと振り出す        海
33 金運に縁なき株の乱高下          葛
34  インドの彼方機体消えゆく        子
35 ラマダンの果てて仰げば宵の月       海(三秋/月)
36  枝豆盛って塩をきかせて         翠(三秋)
二折裏
37 色褪せた簾はずす日友来たる        屋(仲秋)
38  断捨離などと言ふは易しき        葛
39 二の腕をひりりと剥がす陽焼け膚      海(三夏)
40  トランペットは波乗のあと        代(晩夏)
41 視線合ひラテンのリズム鼓動打つ      子(恋)
42  雨の逢瀬に裳裾からげて         水(恋)
43 薄紅の懐紙に載する黄味しぐれ       海
44  ほろほろ鳥を食ぶる秋の夜        代(三秋)
45 爲朝は弓張月を従へて           水(三秋/月)
46  掛け声渋く名残狂言           葛(仲秋)
47 駅前の暮色を照らす赤い羽根        翠(晩秋)
48  旧街道を別つ丁字路           屋
49 一瓢を腰に携へ花の下           海(晩春/花)
50  新参者に饅頭をやり           水(晩春)
三折表
51 コーラスを友と始むる春の朝        子(三春)
52  囀るひばり雲の彼方へ          代(三春)
53 川縁に仲睦まじき道祖神          海
54  里帰りには笑顔みやげに         水
55 揺るぎなき頂点の座に母在す        子
56  北斗の星の冴ゆる天空          海(三冬)
57 まきなおすショールの背のまるくなり    屋(三冬)    ※背(せな)
58  橋ありきとふ辺り彷徨ふ         葛
59 人混みに君の面影求むる夜         水(恋)
60  秘めたる逢瀬吐息重ねて         翠(恋)
61 栄転を皆と祝ひて秋の雨          子(三秋)
62  掃き目に残る送り火の跡         海(初秋)
63 はらはらと地獄の門に銀杏散る       代(晩秋)
64  鉈にはあらじ鎌形の月          葛(三秋/月)
三折裏
65 扇置く痩せ乾びたる膝の上         海(初秋)    ※乾(から)び
66  垣根を越えて猫が纏はる         代
67 何処より椰子の実ひとつ凪の浜       翠
68  知らなかったじゃ済まぬ此の頃      葛
69 入籍を娘はメールで言い寄こす       水
70  ミシン鎮座す短日の部屋         子(三冬)
71 底冷えの外陣の畳縁またぎ         屋(三冬)
72  白刃交す息の烈しさ           葛
73 化野の我と間合いを測る月         屋(三秋/月)
74  虫の挙りて一つ音となる         海(三秋)    ※挙(こぞ)り
75 秋出水引いて有志の続々と         翠(仲秋)
76  笑顔若やぐふれあいの会         代
77 言問の花に団子の黒白黄          屋(三春/花)
78  幸先良くて春の夢みる          子(三春)
名残折表
79 どんたくにどっと寄せ来る人の勢      海(晩春)
80  売られた喧嘩逃げる算段         代
81 赤白の鉢巻き反す裏表           葛
82  島影深き炎天の湖            子(晩夏)
83 削氷の喉を過ぎ行く心地好さ        海(三夏)    ※削氷(けずりひ)
84  評判の店伸びる行列           翠
85 藪入りに久留米絣のひと揃         代(新年)
86  気遣ひ給ふ声の優しき          葛
87 太古より信楽の窯火色生む         子
88  こぼれ咲きたる蝦蛄葉仙人掌       翠(仲冬)
89 群れて立つ霜夜の鶴を照らす月       海(三冬/月)
90  昔話に子らが寄り来る          代
91 それぞれのテレビで同じドラマ観る     子
92  絲の五行も揺れる薬玉          翠(初夏)
名残折裏
93 初浴衣商店街の旦那衆           海(三夏)
94  すれ違うたび婀娜な流し目        葛(恋)
95 往来を避け暖簾押す昼下がり        屋(恋)
96  催事チラシを丹念に読む         代
97 新妻はへそくり覚え雛飾り         水(仲春)
98  卒業式の呼名晴ればれ          子(仲春)
99 花吹雪集めて広き大手門          海(晩春/花)
100 足引き寄せて漕げるふらここ       代(三春)

とびぃ
連句
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いわき文音四吟歌仙『岬路や』の巻 解題06(名残裏折立から挙句まで)
IMG_1675-1.jpg  border=
画像は小名浜三崎公園の海岸風景(高崎俊彦氏提供)

【追記】画像の提供を頂いた高崎氏によれば、撮影日は2010年6月5日(土)14:24分とのこと。あの大震災に見舞われたおよそ9か月前にあたります。その後この海岸線がどんな状態になっているのか、この時とさほど変わっていないことを願わずにはいられません。

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  いわき文音四吟歌仙「岬路や」の巻          宗海捌
                        起首 2015.05.25
                        満尾 2015.08.28


 発句 岬路や香りは甘き花海桐(はなとべら)   笑女 三夏
 脇   夏めく浜に浮かぶ磯舟         禿山 初夏
 第三 プロペラ機心躍らす友のゐて       遊糸 雑
 四   園児馳せ来る丘の芝草         宗海 雑
 五  ひとり分夕餉(ゆうげ)を残す居待月     山 仲秋/月
 折端  遠く近くにちちろ鳴く声         笑 三秋
初折裏
 折立 ログハウス木の香に満ちて秋うらら     海 三秋
 二   読書する夫時に微睡む          糸 雑
 三  喜寿祝友に誘われふるさとに        笑 雑
 四   今なお残る立坑の跡           山 雑
 五  色変へて模様編み込む毛糸玉        糸 三冬
 六   月に枯れ斧揮う蟷螂           海 初冬/月
 七  離れ屋の北窓ふさぐ雨上がり        山 初冬
 八   自転車走る土手沿いの道         笑 雑
 九  訳ありとひと目で知れるふたり連れ     海 雑/恋
 十   外した指輪そっと差し出す        糸 雑/恋
 十一 ふるさとの花のトンネル人絶えて      笑 晩春/花
 折端  いのち悲しき孕みぶち猫         山 晩春
名残表
 折立 そよ風に吹けば漂ふシャボン玉       糸 三春
 二   名無しの森をアリス彷徨(さまよ)ふ    海 雑
 三  外つ国のお宝探す蚤の市          山 雑
 四   からくり時計何が出るやら        笑 雑
 五  ごり押しの安保法案土用前         海 晩夏
 六   届いた手紙読み所なく          糸 雑
 七  顔写真年貢そろそろ納め頃         笑 雑
 八   深い谷間の覗く襟刳り          山 雑/恋
 九  こみ上げる思い抱きて明日を待つ      糸 雑/恋
 十   縁(えにし)の錘(おもり)捨つる尼寺     海 雑
 十一 老い母の仕草瞼に浮かぶ月         山 三秋/月
 折端  柄合わせして秋袷縫う          笑 仲秋
名残裏
 折立 色鳥の渡る蔵道町おこし          海 三秋
 二   埋もれし匠表舞台に           糸 雑
 三  淹れたてのコーヒー香る朝寝覚め      笑 雑
 四   裏の畑で探す汁の実           山 雑
 五  飛花落花過ぎ行く風と戯れて        糸 晩春/花
 挙句  川を上れば霞む鐘の音          海 三春

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
名残折裏
 折立 色鳥の渡る蔵道町おこし          海 三秋


付合はいよいよ終盤を迎え、名残裏に入りました。折立は捌が承り、秋をもう一句続けます。本句は前句の「柄合わせ」から三秋の季語「色鳥」を引き出し、「秋袷縫う」に《創成》の要素を見出して「町おこし」に転成しました。「蔵道」は「蔵町」と言いたいところですが、下五「町おこし」との「町」字の重なりを避けてこの表現を用いました。人情句が続いていささか靠(もた)れの気味が感じられたので、これを嫌って場の句で転じを図る狙いもあります。

 二   埋もれし匠表舞台に           糸 雑


二句目は遊糸さんが付けます。呈示された候補6句の中には、本句と同じ句材を用いた「匠の技に光あたりて」もあり、両句の「匠」には前句の「町おこし」「蔵道」にもかすかに響くものがあって程よい付味が感じられます。両句を吟味した結果、後者の「技」が僅かながらも打越に含まれる《技芸》の要素と通うところがあるので前者に軍配を上げた次第です。前句と程よい「付き」と「離れ」の味を見せて新たな展開の期待される二句目が生まれました。

 三  淹れたてのコーヒー香る朝寝覚め      笑 雑


三句目は笑女さんの担当。頂戴した掲句は、前句の「匠」から《茶碗》を想起し、そこからさらに「コーヒー」を引き出すことで転じを効かせたもので、よい離れ味が感じられます。初案下五は「良き目覚め」でしたが、わずかながら説明の匂いが感じられるので掲句の形に一直を加えました。

 四   裏の畑で探す汁の実           山 雑


四句目は禿山氏の付番。候補5句の中から、前句の朝の場景を付所に朝食の汁の具を探す人物の姿を導き出した本句を頂戴しました。初案は「汁の実探し畑物色」とありましたが、「探し」と「物色」の併用に意味面の重なりがあることと、「畑物色」という切羽詰まった印象を与える縮約表現を避けて掲句の形に改めました。

 五  飛花落花過ぎ行く風と戯れて        糸 晩春/花


五句目は一巻の掉尾を飾る「匂いの花」の座。ここは遊糸さんに持って頂きます。候補6句の中から、上五の句調の良さと句材の取り合わせに心惹かれて頂戴したのが本句です。初案には「飛花落花風と戯れ遠くまで」とあったのですが、下五に僅かに説明の匂いがあるので、これを詞の表面に出さずに「風」についての修飾句をもってこれに替えることを提案して掲句の形に改めたもの。前二句の世界から大きく離れて躍動感のある句姿の花句が生まれました。

 挙句  川を上れば霞む鐘の音          海 三春


一巻を締めくくる挙句は捌が担当します。本句は前句の風に散る花の姿から隅田川の桜を連想し、水上バスと浅草寺を面影として取り合わせたもの。「鐘霞む」が三春の季語で、表現上の一興として/ka/の頭韻を持つ語を三つ揃えてみました。
かくして三ヶ月に及ぶ文音連句の付合はこれにてめでたく満尾を迎えました。 (この項終わり)

とびぃ
連句
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