いわき文音五吟歌仙『赤蜻蛉』の巻 解題01(発句から初折表折端まで)
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今からちょうど60年前に福島県平(現在いわき)市立平第一中学校の学窓を巣立った級友同士が、ふとした機縁で始めた電子メールによる文音(ぶんいん)連句、その通巻第二十一が今月半ばに満尾を迎えました。

思い起こせば、笑女・禿山・宗海の3人で始めた最初の三吟歌仙「刈り終へし」の満尾が7年前の2008年12月22日、その後、通巻第四「陽だまり」の巻の中途から、この話を耳にした遊糸さんが参加を希望されて四吟歌仙に変わり、さらにそれがしばらく続いた後、今回からは禿山氏のお知り合いで北海道滝川市在住の歴史小説家田中俊輔氏を招請して五吟歌仙が賑々しく興行される運びとなりました。

本ページ冒頭に掲げる画像は、その俊輔氏が福島宜慶氏と共同で本年7月に北海道出版企画センターから刊行した『坊主持ちの旅-江政敏と天田愚庵-』表紙のスキャナコピーです。本書は磐城平生まれで正岡子規を初めとする当時の多くの著名人と交流のあった歌僧天田愚庵(あまだ・ぐあん)と、その友人で事業家の江政敏(ごう・ まさとし)との交流を描いた歴史小説です。ちなみに愚庵の母は本記事筆者の家系に繋がる女性にあたります。郷土と縁の糸で結ばれた不思議な出会いに驚かされた次第です。

そのような因縁によって起こされた本巻の進行状況の解説を、これまでと同様に捌(さばき)を務めた宗海がこれから6回にわたって連載することにいたします。

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  いわき文音五吟歌仙「赤蜻蛉」の巻          宗海捌
                        起首 2015.09.18
                        満尾 2015.12.13

 発句 赤蜻蛉載せて運ぶや坊主持ち      俊輔 三秋
 脇   金木犀の香る畦道          宗海 仲秋
 第三 宵の月鎖(さ)せる坑口照らすらん    禿山 三秋/月
 四   娘足長祖母は胴長          笑女 雑
 五  五十肩ハウツー本をかき集め      遊糸 雑
 折端  寒稽古にも追掛けがいる        海 晩冬

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今回は、正客の俊輔氏を宗海が亭主としてお迎えする形で巻き起こされ、その後に三人の連衆が続いて付け進めることになります。一巡目を"俊輔>宗海>禿山>笑女>遊糸"の付順で運んだ後、二巡目はこれを"宗海>俊輔>笑女>禿山>遊糸"の順に入れ換え、以後はこれを交互に繰り返す「五飛び三飛び」の膝送り方式で進めて行きます。ただし五番目の遊糸さんの付番は常に四飛びで変わりなく、また月・花の座の担当が偏在しないように、機に応じて付順を入れ換えることもあります。

 発句 赤蜻蛉載せて運ぶや坊主持ち      俊輔 三秋

俊輔氏から早々に送られて来た発句候補は次の5句。
  1) 鉄眼に仁義を切って秋思かな     三秋
  2) 文音に名のりあげたが秋の蝿     初秋
  3) フラガール踊る舞台に蘭捧ぐ     仲秋
  4) 坊主持ち荷物預けて赤とんぼ     三秋
  5) 湯河原に金婚そろって秋鰹      三秋

1の「鉄眼」とは前掲小説の主人公の一人である愚庵の法名で、4はその作品の初章に描かれた、彼の幼年時代の一場面を句材としたもの。「坊主持ち」とは、同行者の荷物を交替で持ち、途中で僧侶に出会うごとに持ち手を替える遊び。いわき市を郷里とする他の四人への挨拶の心が籠められていることと、持ち手を替えるというところに連句の付合を思わせる要素が潜んで隠し味として効いている点が他を凌駕しています。この二点を評価して本候補句を頂戴することにしました。
ただし初案4は、意味の切れ目が上下両五にある「二段切れ」の句形なので、これに一直を加えて掲句のように改めさせて頂きました。初案の動作主は荷物を預ける側に立つ人物でしたが、これを持つ側に入れ替え、「預けて」を「載せて」として俳味を加えたものです。なお上五は「赤蜻蛉(を)」のテニハ「を」を切った形で下に続くので二段切れにはなりません。

 脇   金木犀の香る畦道          宗海 仲秋

正客の発句を承けて亭主の宗海が脇を付けます。脇句は発句に寄り添うように詠むべしとされ、発句と同じ時・場所を表す内容で応ずるのを原則とします。そこでこれも上記作品に描かれた「坊主持ち」の遊びに興ずる幼い主人公たちが田圃の道を歩く場面を思い浮かべ、そこに虚構の「金木犀」を取り合わせる形で当季を定めました。

ちなみに発句にはその興行が始まった時季の季語を用いるのを原則としますが、本句のように季語が季全体に及ぶものである場合には、脇が三期を区分する初・仲・晩の季語を用いて当季を定めなければなりません。本句に「金木犀」の季語を用いたのは、この付合の始まったのが仲秋であることによるものです。

 第三 宵の月鎖(さ)せる坑口照らすらん    禿山 三秋/月

第三は禿山氏の付番。秋の発句で始まる巻では、ここを月の定座とするのが習わしです。第三は一巻の変化が始まる句所とされ、付句の心得としては前二句の構築した世界から大きく転じることが何より大切です。またその句形も「て・に・らん・もなし」などで留めるのが一般です。

禿山氏から提出された候補5句の中から捌が一直を加えて治定したのが上掲句。前二句の磐城平藩の世界から故郷の常磐炭鉱に連想を馳せ、月に照らされた廃坑の姿を思い描いたものです。

初案の句形「宵の月閉じし坑口照らすらん」は、上五に5拍連語を置いて軽い留めを入れた、第三に多く用いられる「大山体」と呼ばれる句体で、目前にない現在の場景を推量する「らん」を句末に据えた点も第三の作法に従うものです。なお中七「閉じし」は、過去の「し」ではなく存続体を用いて「閉ぢたる」としたいところですが、これでは字余りを生ずるので、「閉ざす」に近い二拍の動詞「鎖す」に別の存続の助動詞「り」を添える形に改めて治定しました。

 四   娘足長祖母は胴長          笑女 雑

四句目担当は笑女さん。秋が三句続いて式目の季に関する「句数(くかず)」の制約が解かれたので、ここで「雑(ぞう)」句に転ずることにします。四句目から挙句の前までの句は「平句(ひらく)」と呼ばれ、季語を用いない雑句や切字を用いない、俳句とは異なる句体で運ばれることになります。発句から第三までは内容・形式ともに重い句が続くので、四句目は変化を求めるためにも軽い味の句が好まれます。

第三治定の後、早々と呈示された候補5句の中で、上記の条件を満たすにもっともふさわしいと判定したのが次の初案句です。
  祖母は胴長娘足長
前句が離れた所の場景を推量したものですから、その思いを抱く人物を詠むことにすれば付筋は如何様にも自在に拡がります。付心の面でも《長さ》の要素が細い糸筋となって前句の「坑」に通う点によい付味が感じられます。なお本句に詠まれた二人の女性は、上七が主で下七が従にあたりますから、美味い物は後に出すことにして、上下を入れ替えた僅かな一直を加え治定しました。テニハの「は」に備わる"特立性"もこの方が効果的に発揮され、俳味がさらに増すものと思われます。

 五  五十肩ハウツー本をかき集め      遊糸 雑

五句目は遊糸さんの付番。雑句をもう一句続けます。呈示された候補5句の中から取り上げた句は次の一句。
  体力の無さに集めるハウツー本
前句の「胴長」を付所にそこから「筋力」「体力」へと付筋を伸ばした自然な付けを評価しました。ただし「体力の無さ」とまで言ってしまうと説明になるので、そこをもう少しさり気無く表現したいと考え、掲句の形に一直を加えました。

上記の所望点への手当と併せて、下五の字余り解消のために「ハウツー本」を中七に回し、下五に「かき集め」という平俗表現を意図的に用いて俳味を増したものです。

 折端  寒稽古にも追掛けがいる        海 晩冬

五句目で膝送りが一巡したので二巡目は付順が替わり、折端は捌が付けます。一面には二季を配するのが好ましいとされるので、この句所には夏か冬の季句を置くことにします。

掲句は前句の「五十肩」を付所として夏冬の運動競技関連季語を探し、晩冬の「寒稽古」を探り当てたもの。これにひと味加えるべく当人をイケメン男子と見定め、それに「追掛け」を取り合わせたものです。 (この項続く)

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