いわき文音五吟歌仙『赤蜻蛉』の巻 解題02(初折裏折立から六句目まで)
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※画像はブログ「小川原湖のほとり」より転載


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  いわき文音五吟歌仙「赤蜻蛉」の巻          宗海捌
                        起首 2015.09.18
                        満尾 2015.12.13


 発句 赤蜻蛉載せて運ぶや坊主持ち      俊輔 三秋
 脇   金木犀の香る畦道          宗海 仲秋
 第三 宵の月鎖(さ)せる坑口照らすらん    禿山 三秋/月
 四   娘足長祖母は胴長          笑女 雑
 五  五十肩ハウツー本をかき集め      遊糸 雑
 折端  寒稽古にも追掛けがいる        海 晩冬
初裏
 折立 影冴ゆる八甲田山音もなく        輔 三冬
 二   風化してなお道祖双体         女 雑
 三  くねくねと横座りする膝の上       山 雑/恋
 四   しごきほどけて闇は深まり       糸 雑/恋
 五  蓋開けて卵を落とす泥鰌鍋        輔 三夏
 六   泡盛酌めば昇る夕月          海 三夏/月

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初裏
 折立 影冴ゆる八甲田山音もなく        輔 三冬


付合は早くも初折裏に移り、折立は信輔氏の付番。前句の冬季は、式目の「句数」の定めでは一句のみで捨ててもよいものですが、面が改まる場合には折端と同季の形で続けるのが習わしなので、「季戻り」を避けて晩冬あるいは三冬の季語を用いることをお願いしました。その要請に応えて提出された候補5句の中から、もっとも付味がよいと判定して選んだ句の初案は次のような句形に従うものでした。
  寒波満つ八甲田山は音もなし
前句の「寒稽古」を承けてこれを人事から寒景に転じたもので、前句の内容によく付いています。「八甲田山」のような固有地名は表六句には用いることのできない句材の一つですが、ここから裏に移ったのでその点はお構いなし。ただし「寒波」の「寒」が前句と同字の障りになることと、下五の「もなし」が第三の留めの形の一つとされるものなので、これを平句に似合わしく改めることに意を用いて掲句の句形に仕立て直しました。軽い詠み口の前句から一転して、折立に置くにふさわしい丈高い句姿が生まれました。

 二   風化してなお道祖双体         女 雑


二句目は笑さんの三飛び早番。二句続いた冬を離れて雑に戻ります。呈示された候補5句の中の次の一句に目が留まりました。
  双体道祖風化してなお
引き締まった「双体道祖」という表現に心惹かれました。大景を写し取った前句に近景として道祖神を置いたところが効果的です。下七の「なお」を先行させて「双体」に続けるとさらに良い句形になるように思われたので、そのような一直を加えて掲句の形に治定しました。なお「道」字は脇句の「畦道」にも用いられていますが、すでに三句以上を隔てているので同字の障りにはなりません。前句の山容に古体の道祖神を配した格調のある神祇句が生まれました。

 三  くねくねと横座りする膝の上       山 雑/恋


三句目はお待ち兼ね禿山氏の五飛び付番。人間の登場しない「人情なしの句(場の句)」が二つ続いたので、ここはぜひとも人情を起こしたい局面です。前句の「双体道祖」は恋を誘うにふさわしい句材なので、これを「恋の呼び出し」と解して雑の恋句で応ずることをお願いしました。

呈示された候補5句の中で目を留めたのは次の初案句。
  膝上に横座りして縋りつく
積極的に男性に迫る女性を描いた恋句で、「横座り」に詞の面白さがあります。「(横座り)して」が前句「(風化)して」と重なる点と、「膝上」は句末に置いた方がさらに句興が増すことを考慮して、これに一直を加えた掲句の形に改めて頂戴しました。

睦まじげに肩を並べる前句の道祖神像を付所に、相手の膝の上に横座りして身体をぴったり寄せる艶めかしい女性の姿へと転じた面白い味の恋句が生まれました。

 四   しごきほどけて闇は深まり       糸 雑/恋


四句目担当は常時四飛び付番の遊糸さん。恋の句は二句以上続けるのが定石なので、ここは否応なしに前句の恋を承けて頂きます。前句をどのようにあしらうか、難しい局面ですが、そこが腕の見せ所。呈示された候補6句を吟味した結果次の初案二句を候補として残しました。
  3) はらりと落ちる緋の長襦袢
  5) しごきほどけて闇は深まり

一句立てとして味わうだけならば候補3の「はらり」がよく効いて面白いのですが、前句にも同類の擬態語「くねくねと」があって二つが連なる点に僅かな難があるため、候補5に軍配を上げ、これを初案のまま頂戴することにしました。なんと言っても「闇は深まり」が決め台詞で、前句に似付かわしいまことに濃艶な恋句が生まれました。

 五  蓋開けて卵を落とす泥鰌鍋        輔 三夏


五句目は三飛び早番の俊輔氏の付番。恋が二句続いたので、この句所には無季または夏の「恋離れ」句を所望しました。一句だけでは恋句にはならないけれども前句に付けると恋の心が感じられる、そのような句が上々の恋離れとされます。

呈示候補5句の中、次の初案句に捌の食指が動きました。
  汗流し卵割りたるどじょう鍋
前句の恋を承けるのに「卵」「泥鰌」に潜む《精を付ける》という要素を踏まえた付心がほのかな俳味を生んでよい離れ味が感じられます。ただし上五の「汗」は「どじょう鍋」と夏の季重なりになることと、「汗流し」の連用中止形を用いた表現にいささか説明の匂いがあります。また中七は「割る」よりも「落とす」が良さそうです。

これらの点を改めるべく一直を加えて掲句の句形が生まれました。なお前句の「闇」に「鍋」を配したところには「闇鍋」への連想を誘う要素もあって思わぬ効果を発揮しています。

 六   泡盛酌めば昇る夕月          海 三夏/月


六句目は五飛び遅番の捌が付けます。ここは前句の季を承けて夏の月を出すのがかねてよりの目論見でした。
前句を開け放った座敷の酒盛り場景を詠んだものと見立て、その場に夏の月を配したものです。なお二句前に用いられた「闇」は、真夜中に相当する「時分」の詞とも解され、本句の「夕」に障る懸念もありますが「異時分」は「打越嫌わず」と見なされるので差合なしと判断しました。 (この項続く)
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