いわき文音五吟歌仙『赤蜻蛉』の巻 解題03(初折裏七句目から折端まで)
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※画像はブログ「JOINTtly green」より転載


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  いわき文音五吟歌仙「赤蜻蛉」の巻          宗海捌
                        起首 2015.09.18
                        満尾 2015.12.13


 発句 赤蜻蛉載せて運ぶや坊主持ち      俊輔 三秋
 脇   金木犀の香る畦道          宗海 仲秋
 第三 宵の月鎖(さ)せる坑口照らすらん    禿山 三秋/月
 四   娘足長祖母は胴長          笑女 雑
 五  五十肩ハウツー本をかき集め      遊糸 雑
 折端  寒稽古にも追掛けがいる        海 晩冬
初裏
 折立 影冴ゆる八甲田山音もなく        輔 三冬
 二   風化してなお道祖双体         女 雑
 三  くねくねと横座りする膝の上       山 雑/恋
 四   しごきほどけて闇は深まり       糸 雑/恋
 五  蓋開けて卵を落とす泥鰌鍋        輔 三夏
 六   泡盛酌めば昇る夕月          海 三夏/月

 七  黍畑塩吹く頬を手で拭い         山 雑
 八   湿布貼るにも器用不器用        女 雑
 九  接着の技術は今やロケットに       糸 雑
 十   金の筋目の細き志野焼         海 雑
 十一 三斎が利休見送る花明かり        輔 晩春/花
 折端  出窓開けば胡蝶飛び立つ        女 三春

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 七  黍畑塩吹く頬を手で拭い         山 雑


七句目は三飛び早番禿山氏の付番。五・六句目に夏が2句続いたので再び雑に戻ります。下戸どのに酒盛り句への付句をお願いするはちとお気の毒ながら、そこをうまくあしらうのが想像力の見せ所というものです。

呈示された候補5句の中で捌が目を留めたのは次の2句。
 3)キビ畑塩吹く頬を手で拭い
 5)風止んで収穫を待つキビ畑

3は前句の時間を戻して付ける「逆付(ぎゃくづけ)」の手法に従うもの。前句に付けると畑仕事の後に一献する農夫の姿が浮かんできます。夏の季語となる「汗」を避けて「塩吹く頬」とした工夫が功を奏しています。また「塩」には「泡盛」と微妙に響き合う効果もあります。5は同じ付筋で場の句として表現したもの。落ち着きのある句姿です。

彼此見比べた結果、5にも心が残りますが、そこに人情の加わった3の付味をさらに勝れたりと判断し、「キビ」を漢字表記改めただけで初案をそのまま頂戴しました。転じ味・付き味ともに上々の七句目が生まれました。

 八   湿布貼るにも器用不器用        女 雑


八句目担当は五飛び遅番の笑女さん。雑を続けます。前2句の形成する世界からまったく別の世界にどのように転ずるかが付けの眼目になります。

ご呈示頂いた候補5句の中では次の句を良しと見ました。
  湿布薬に頼る腰痛
前句の《農作業》から病体の「腰痛」を経て「湿布薬」を引き出したところによい思案の程が窺われます。ただ「腰痛」を真正直に詞の表に出すと付筋が露わに見えてしまうのと、「頼る」にいささか説明の気味が感じられる、その二点にいまひと工夫凝らしたい思いが残ります。そこでこれらの点に一直を加えて上掲句を案じた次第です。程よい付味と転じ味を兼ね備えた、新たな展開の期待される八句目が治定を見ました。

 九  接着の技術は今やロケットに       糸 雑


九句目の担当は四飛び付番の遊糸さん。ここでも雑を続けることにします。句中の人物を自らのこととして詠んだ「人情自」の句が続いたので、付合の流れが単調に陥らないように、この句所では他者を交えた「人情他」か、自他両者の登場する「人情自他半」、あるいは人間の姿のない「人情無し」のいずれかで行くことを条件としました。

遊糸さんから呈示された候補5句の中から粗選びしたのは次の2句。
 1)交渉は粘るが良しと教えられ
 5)接着剤技術は進みロケットに

1は前句の「湿布」から「粘り」という抽象概念を抽出し、それを人事に具体化させたもの。これも転じの手法の一つです。5は「貼る」から同様に「接着」の要素を引き出したもの。付筋がやや見え過ぎる嫌いはありますが、句材の「ロケット」には転じの面白さがあります。

上記2候補句を捌きの天秤に掛けた結果、人情については1の人情自よりも5の人情無しの方が展開の変化に長けていると判定しました。なお上五の字余りと、「技術は進み」にいささかの説明臭がある点に対処すべく一直を加え、掲句の形に改めさせて頂きました。「湿布」から「ロケット」へと見事に転じた、新たな展開の期待される九句目が生まれました。

 十   金の筋目の細き志野焼         海 雑


遊糸さんの前句に三飛び早番の捌が十句目を付けます。

掲句は前句の「接着」から茶器の補修に施される「金継ぎ」を思い浮かべたもの。当初は上七を「金の継目」としたのですが、付筋がいささか露わになる嫌いがあるので、その"欠け"を補修すべくこのように改めました。なお「茶碗」の句材には次の花句を付け易くしようとする狙いも込められています。

 十一 三斎が利休見送る花明かり        輔 晩春/花


十一句目は初折の花の座。お待ち兼ねの俊輔氏に最初の花を持って頂きます。花の句は、固有種名を詠んだのでは「正花」として認められないので、必ず汎称としての「花」のみを用いて詠むことが必須条件です。

呈示された候補5句に吟味を加えた結果、付味と"花への賞翫の心"の両面から次の候補句をもっとも良しと見ました。
 2)三斎と左介が送る花明かり

これには「細川忠興と古田織部と千利休」の自註が施されていました。前句の茶碗を付所に、利休が秀吉の勘気に触れて追放の憂き目を見た折、忠興と織部が秀吉に憚ること無く利休を見送ったという故事を踏まえたもので、歴史小説家の面目躍如たる付けです。両人の通称「三斎」「佐介」が頭韻を踏んで並んでいる点も効果的です。ただ、細部について言えば、自註が無いと「送る」だけでは判り難い印象を受けます。そこで最初この点を改めるために次の改案を試みました。
 2')三斎と左介見送る花明かり

しかし、さらになお考えるところがあってこれに再案を加えました。
 2")三斎が利休見送る花明かり

初案は見送る側の二人を表に出して客体としての利休を言外に隠していますが、それを再案のようにすれば主体と客体が明らかになって理解度が高まると考えた次第です。ただしそれでは「佐介」の名は消えてしまいますが、見送られる相手を明示した方が解りやすいと判断しました。専門家にとっては、付筋が露わに過ぎるという不満を覚えるであろうことは重々承知の上の提案でしたが、信輔氏からは快くご納受を頂きました。

史伝を踏まえた人名入りの起情句によって付合に新たな趣が加わり、「花明り」が利休の悲劇に哀れを添えた、長(たけ)高い花句が生まれました。

 折端  出窓開けば胡蝶飛び立つ        女 三春


折立は三飛び早番の笑女さん。前句を承けて三春または晩春の季語を用いることと、前句が人情を起こしたのでここでも必ず人情を入れることとをお願いしました。

間もなく呈示された候補5句の中では次の句の付味をもっとも良しと見ました。 
  出窓開ければ蝶飛び立ちて

「飛び立つ」が前句の「見送る」にほのかに通うところがある点と、「開ければ」として人情自を引き寄せた工夫が優れています。ただ「蝶/飛び立ちて」の詞の切れ目が、短句の句調を不整にする「二五四三」の「二五」の形であるのに加えて表現にもいまひとつ曲が欲しいことと、句末は「て」留めよりも動詞留めにした方が落ち着くように感じられます。

かかる吟味の結果、掲句に見るような一直案に従った次第です。なお「開(あ)ければ」を「開(ひら)けば」としたのは、同じ「開く」が初裏五句目にも用いられていることに配慮したものです。前句への程よい付きと離れによって、新たな展開の期待される折端が生まれました。  (この項続く)
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