いわき文音五吟歌仙『初便り』の巻 解題01(発句から初折表折端まで)
P1041723_R.jpg
※画像は札幌市内にて佐藤禿山氏撮影

前回から連衆五名が一座する付合となった「いわき文音連句」、その通巻第二十二に当たる歌仙「初便り」の巻が先月めでたく満尾を迎えました。一巻の進行状況を捌(さばき)役の宗海が解説を加えながらこれから6回にわたって連載いたします。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

  いわき文音五吟歌仙「初便り」の巻          宗海捌

                        起首 2016.01.07
                        満尾 2016.03.20

  発句 初便り実を食む鳥の珍しや       遊糸 新年
  脇   新年会に揃ふ顔触れ         笑女 新年
  第三 温泉(いでゆ)宿瀬音聞ゆる窓開けて   宗海 雑
  四   地物野菜の並ぶ朝市         禿山 雑
  五  据え置けば辺りを払う猿茸       俊輔 三秋
  折端  残業終えて裏道の月          女 三秋/月

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


今回も前回と同じ膝送り方式に従い、"遊糸>笑女>宗海>禿山>俊輔" と "笑女>遊糸>禿山>宗海>俊輔"の付順を交互に繰り返す「五飛び三飛び」(五番目は常時四飛び)形で付け進めます。


  発句 初便り実を食む鳥の珍しや       遊糸 新年


本年初興行の発句は遊糸さんにお願いしました。暮のうちから「松明け」の正月七日開巻を申し合わせておいたので、それを待ちかねていた遊糸さんから、8句に及ぶ候補句が呈示されました。
その中から頂いたのが上掲句。新年の季語「初便り」によって当季を定めています。これと同工の「珍しやギンザンマシコの初便り」にも食指が動いたのですが、中七に字余りを生じてしまう点を嫌いました。
ちなみにこの鳥名は、札幌在住の禿山氏の賀状メールに添付されていた画像の被写体を指すもので、アトリ科に属する珍鳥です。その画像を今回の記事に拝借しました。食んでいるのはナナカマドの実とのことです。


  脇   新年会に揃ふ顔触れ         笑女 新年


脇担当は笑女さん。新年を続けます。脇は発句に言い残されたところを探り取って寄り添うように付けるのがよいとされ、発句と同時・同場所が原則ですが、今回の発句については比較的ゆるやかに対応できそうなので、付句作者の裁量にお任せすることにしました。
笑女さんから呈示された5句の中から選んで一直を加えたのが掲句です。初案は「新年会の話題豊に」でしたが、「話題豊に」がいささか説明的な言い回しなので、ここにボカシを掛けることにした次第です。発句に描かれた世界を新年会の話題の内容と見定め、発句とともに一座への挨拶も込められています。


  第三 温泉(いでゆ)宿瀬音聞ゆる窓開けて   宗海 雑


第三は捌が付けます。新年が二句続いたので季を離れて雑に転じます。本句は脇の《集まり》の要素を付所に、昨年ミニクラス会が開かれた印象深い郷里の宿の佇まいを面影にしたものですが、「瀬音」は虚構です。ここでは「第三」の句体の一つで、上五と下五の間に別の中七を入れる「杉形(すぎなり)」体と呼ばれる句形を試みました。なお上五は当初「山の宿」だったのですが、この後に出された五句目の句材に《山》の要素が潜在していて打越の気味が感じられるため、途中でこれを「温泉(いでゆ)宿」に改めました。


  四   地物野菜の並ぶ朝市         禿山 雑


四句目は禿山氏の担当で雑を続けます。呈示された候補5句の中から一直を加えて頂戴したのが上掲句。前句から一夜を隔てた時分を設定し、「温泉宿」にふさわしい場所を選んだ「其場」の付けを試みたもので、程よい離れ味が感じられます。なお初案上七は「地場産野菜」でしたが、「産」に感じられる説明の匂いを解消するために掲句のように改めました。


  五  据え置けば辺りを払う猿茸       俊輔 三秋


五句目は俊輔氏の付番。ここは通常ならば月を出す句所ですが、本巻では月花句担当者の均等化を図るために、月を定座の一句後に「こぼす」ことにします。その呼び出しを兼ねて秋に転じことをお願いしました。
上掲句は、呈示された候補5句の中から選んだ初案の句材「猿の腰掛」に目を留め、これを下五にうまく収まる「猿茸(ましらたけ)」に差し替え、《堂々としているさま》を言う慣用句「辺りを払う」を中七に据えて擬人化を試みたものです。前句の「朝市」に猿の腰掛を配した着眼の面白さを活かした五句目が生まれました。


  折端  残業終えて裏道の月          女 三秋/月


膝送りは一巡が済んでここから付番の変わる二巡目入り。折端は三飛び早番笑女さんの担当。前句の秋を承けて上記のごとく短句の月を詠んで頂きます。打越に「朝」があるので、朝の時分を思わせる月は差合になりますが、昼あるいは夜分の月ならば「異時分打越嫌わず」で障りにはなりません。
呈示された候補5句はいずれも付所を「猿茸」に求めて「薬膳」「薬湯」などで応じたものですが、《薬》の要素はすでに「猿茸」に内包されていて意外性に乏しい憾みがあります。そこでここでは、前句の「据え置く」を付所にそれにふさわしい場を定める方向で一直を加えることにました。
その芽を含んだ句材を候補句中に探したところ、その目論見に叶う「路地裏」を句材に用いた句に目が止まりました。これを町工場の建ち並ぶ下町地域と見定めてみると、上記「据え置く」から、そのような小企業の経営者が大事そうに飾り置いた「猿茸」の姿が浮かんできます。そこで大幅な改訂を試みたのが上掲句。そのような企業に勤める社員が、残業を済ませて帰途に就く一場面を描いた人情句です。なお「路地裏」は打越と「地」の同字で触るのでこれを「裏道」としました。打越と前句の世界から大きく離れて新たな展開の期待される折端が生まれました。
(この項続く)
関連記事
とびぃ
連句
0 0

comment
comment posting














 

trackback URL
http://tobby70.blog83.fc2.com/tb.php/5338-ed5f8b9f
trackback