いわき文音五吟歌仙『初便り』の巻 解題02(初折裏折立から六句目まで)

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  いわき文音五吟歌仙「初便り」の巻          宗海捌

                        起首 2016.01.07
                        満尾 2016.03.20

  発句 初便り実を食む鳥の珍しや       遊糸 新年
  脇   新年会に揃ふ顔触れ         笑女 新年
  第三 温泉(いでゆ)宿瀬音聞ゆる窓開けて   宗海 雑
  四   地物野菜の並ぶ朝市         禿山 雑
  五  据え置けば辺りを払う猿茸       俊輔 三秋
  折端  残業終えて裏道の月          女 三秋/月
初裏
  折立 秋出水天気予報は大当たり        糸 仲秋
  二   てるてる坊主揺れる軒先        山 雑
  三  補助輪を外して被るヘルメット      海 雑
  四   投票箱へ制服のまま          輔 雑
  五  つなぐ手に力のこもる下り坂       糸 雑/恋
  六   高ぶる想い雨の後朝          女 雑/恋

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初裏
  折立 秋出水天気予報は大当たり        糸 仲秋


これより付合は初折裏に移り、折立は五飛び遅番の遊糸さんの担当。「句数(くかず)」の定めに従って秋をもう一句続けます。前に三秋が二つ続いたのでここは秋三期のいずれかにしなければなりません。
捌の求めに応じて呈示された候補6句の中から初案のまま頂いたのが上掲句。前句の「秋出水」に気象予報を絡めて言い残された余白を狙った「其場」の付けが良い味を出しています。如何様にも展開の可能な拡がりと仄かな俳味を持つ折立が生まれました。


  二   てるてる坊主揺れる軒先        山 雑


二句目は三飛び早番禿山氏の担当。秋が三句続いて句数の制約が解けたので雑に戻ります。
掲句は、呈示された候補5句の中から選んだ「てるてる坊主軒先に濡れ」に捌が一直を加えたもの。前句の「天気予報」を付所としたもので、親句性のやや強い点に気がかりは残るものの、前句の内容を素直に承けています。そこで前句の《雨》の要素を明示した「濡れ」を「揺れる」に替えて親句性を弱め、ついでに下七の語順を逆にして体言留めの短句に似合わしい形に改めました。前句に表れていない場を軒端と見定めた「其場」の付けの手法に従った、軽い味の二句目が生まれました。


  三  補助輪を外して被るヘルメット      海 雑


これに早速三句目付番の捌が付けさせて頂きました。
掲句は、前句の場景を幼児のいる家の庭先と見定め、その子が補助輪無しで二輪車に乗れるようになった姿を描いたもの。前二句の世界に通底する《雨》を詞の表に出すと三句絡みの難に陥るので、天候のことは表に出さず、言外に《雨上がり》の要素を潜ませました。


  四   投票箱へ制服のまま          輔 雑


四句目は常時四飛びの俊輔氏。ここも雑を続けます。人間の姿のない「場の句」の二句目を承けて前句が「人情」を起こしたので、この句所ではそれを一句限りとせずに必ず人情を加える必要があります。
呈示された候補6句の中、初案「制服のまま投票に行く」に目が止まりました。前句に潜む《初心》の要素を《学生》に具現化させて新たな世界への転換を図った"見立て替え"の手法に従う付けです。ただし句表現上「…のまま…に行く」がいささか散文的で説明の匂いを感じさせるので、ここに一直を加え掲句の形にしました。初案の「まま」を句末に据え、これを承ける述語「行く」を切ることにより、説明調の払拭を試みたものです。なお上七は初め「投票所へは」としたのですが、打越にこれと同じ"居所"の句材「軒先」があって障りになるので、その点を改めました。前句から意想外の時事の要素を導き出した転じ味の面白い四句目が生まれました。


  五  つなぐ手に力のこもる下り坂       糸 雑/恋


膝送りはこれより三巡目入り。五句目担当は三飛び早番の糸さん。もうしばらく雑を続けます。このあたりでそろそろ恋が欲しいと思っていたところ、前句に「制服」が出たので、これを恋の呼び出しと解して恋句を詠んで頂くことにしました。
捌の心算に従って呈示された候補7句の中では初案「つなぐ手に力こもりて帰り道」を良しと見ました。他にこれと類想の「辺りの目気にして歩く二人連れ」もあったのですが、こちらは作者が語り手となって外から二人の行動を描いているところがやや説明的なのに対して、前者は登場人物の内側に入り込んで自らの皮膚感覚として詠んだところが勝っています。ただし初案「帰り道」に前句の続きを言っている嫌いがあることと、初折折端にも「裏道」が出て間もない点を勘案して、掲句の形に手を加えました。
初案「力こもりて」の連用修飾形を「力のこもる」の連体修飾形に改めて句末まで一息に続く勢いを持たせ、「帰り道」の説明の匂いを消して具体性を与えるために「下り坂」に差し替えたところが一直の眼目に当たります。
前句の恋の呼び出しに応じた初々しさを感じさせる五句目が生まれました。


  六   高ぶる想い雨の後朝          女 雑/恋


六句目は五飛び遅番の笑さん。前句の恋を承けてもう一句雑を続けます。前二句の世界と異なる恋に転じるには、五句目を別の角度から読み替える必要があります。新たな世界をどのように開くかが見所です。
呈示された候補5句は、いずれも前二句の初々しい恋の世界から一転した濃艶な恋の世界への転じが見られ、捌の目論見どおりの展開となりました。掲句はその中から選んだ句に一直を加えたものです。初案は「高ぶる想い後朝の後」で、前句の翌日に時点を移してよい付味を見せています。惜しまれるのは「後朝の後」に見かけ上の「後」字の重複があること。そこでこれをいったんは「後朝の雨」とした後、もう一段曲折を加えて語順を「雨の後朝」として治定しました。蕉門俳諧「鴈がねも」の巻に出る次の付合を想起させるよい味の恋句が生まれました。
  足駄はかせぬ雨のあけぼの       越人
 きぬぎぬやあまりかぼそくあてやかに   芭蕉

(この項続く)
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