いわき文音五吟歌仙『初便り』の巻 解題04(名残折表折立から六句目まで)
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※画像はブログ「旅の日はいつも」による

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  いわき文音五吟歌仙「初便り」の巻          宗海捌

                        起首 2016.01.07
                        満尾 2016.03.20

  発句 初便り実を食む鳥の珍しや       遊糸 新年
  脇   新年会に揃ふ顔触れ         笑女 新年
  第三 温泉(いでゆ)宿瀬音聞ゆる窓開けて   宗海 雑
  四   地物野菜の並ぶ朝市         禿山 雑
  五  据え置けば辺りを払う猿茸       俊輔 三秋
  折端  残業終えて裏道の月          女 三秋/月
初裏
  折立 秋出水天気予報は大当たり        糸 仲秋
  二   てるてる坊主揺れる軒先        山 雑
  三  補助輪を外して被るヘルメット      海 雑
  四   投票箱へ制服のまま          輔 雑
  五  つなぐ手に力のこもる下り坂       糸 雑/恋
  六   高ぶる想い雨の後朝          女 雑/恋
  七  移り香のほのかに残る白絣        海 晩夏/恋
  八   合歓咲く木陰望む昼月         山 晩夏/月
  九  島々の名のみ留めて蚶満寺        輔 雑
  十   懐石膳に海老の真薯(しんじょう)    女 雑
  十一 踊りの輪少し崩れて花の宴        糸 晩春/花
  折端  湯暖簾くぐる朧夜の下駄        山 三春

名残表
  折立 仕上げたる篆刻文字の麗らかさ      海 三春
  二   修行明けとて啖(くら)ふ肉塊      輔 雑
  三  妙義山奇岩怪石連なりて         糸 雑
  四   先の読めない駆け出しのチェス     女 雑
  五  微笑みを豊かに包む裘(かわごろも)    海 三冬
  六   俱に身一つ恋の道行き         山 雑/恋

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名残表
  折立 仕上げたる篆刻文字の麗らかさ      海 三春


付合はこれより名残表入り。折立は捌が付けます。
前二句の春を承けてここはもう一句春を続けなければなりません。掲句はその「句数」の定めに三春の季語「麗らか」を用いて応えたもの。前二句の世界から脱け出すために、前句の人物を踊りから大きく離して、印章作成にいそしむ篆刻作家と見定めました。手の業が満足すべき状態で仕上がったので、晴れ晴れとした気持で銭湯に向かう人物の姿を詠んだ、「其人(そのひと)」と呼ばれる手法に従う付けです。


  二   修行明けとて啖(くら)ふ肉塊      輔 雑


二句目は常時四飛び信輔氏の付番。春が三句続いて句数の縛りが解けたので雑に戻ります。
呈示された候補6句の中から、初案「修行開けて食らふ肉料理」句に捌の食指が動きました。前句の篆刻師に対比させる形で、これと共通する要素を感じさせる修行僧の姿を詠んだ、「相対付(あいたいづけ)」と呼ばれる付け方に従ったものです。
前二句の世界は肩の凝りを解(ほぐ)そうと銭湯に向かった場景であるのに対して、後者は禁断の肉食で精力を取り戻そうという修行僧を対比的に登場させたことになり、そこに思わぬ滑稽味が生まれます。句想はたいへん面白いのですが、句調に乱れのある点が惜しまれます。
そこで掲句に見るように、上七を《一定期間が終わる》意にふさわしく表記を「開け」から「明け」に改め、さらに「とて」に《と称して》の意を持たせて、"自称"に対する一種の揶揄(やゆ)の意を込めてみました。また「食らふ」の「食」を「健啖家」に用いられる「啖」字に変えたのに合わせて、「肉料理」を「肉塊」として《暴食》の要素を付加する狙いも隠れています。
前二句の世界から大きく転じて付合に変化をもたらす効果のある二句目が生まれました。


  三  妙義山奇岩怪石連なりて         糸 雑


膝送りはこれより五巡目入り。名残表三句目は三飛び早番遊糸さんの担当。雑を続けます。なお折立に用いられた「麗らか」は、ここでは心理的な要素が重きをなしていますが、本来は時候の季語なので、これと打越の障りを生じないように注意する必要があります。
呈示された候補6句の中では上掲句をもっとも良しと見ました。メールに添えられた自解によれば、前句の「塊」から「岩」を連想した付けであることが知られました。これだけならば言葉の縁で付ける「物付」に終わってしまいますが、「奇岩怪石」には前句の修行の場所にふさわしい場所として、意味上の繋がりもあるのでそこによい付味が感じられます。そこで本句を初案のまま頂戴することにしました。


  四   先の読めない駆け出しのチェス     女 雑


四句目担当はお待ち兼ね五飛び遅番の笑女さん。ここも雑を続けます。
打越の二句目は、作者が登場人物を自らのこととして詠んだ「人情自」句に当たるので、ここは人情の打越を避けて「人情他」または「人情自他半」で行くか、あるいは人間の登場しない「場」の句を続けても構いません。
呈示された候補6句の中では、前句の「奇岩怪石」からチェスの駒を思い浮かべた初案「勝負のつかないしんまいのチェス」の転じ味を良しと見ました。ただそれだけだと言葉の繋がりに頼る「物付」になってしまうので、そこにもうひと味、内容面に通うものを添えたいところです。
そこでその点に一直を加えて掲句の句形に改めました。「奇岩怪石」の背後にロッククライマーの姿を連想し、登攀の際に必要な《先を読む》の要素を引き出してこれをチェスの勝負場面に転化したものです。奇岩の形状からチェスの駒に転じて新たな展開を図った四句目が生まれました。


  五  微笑みを豊かに包む裘(かわごろも)    海 三冬


笑女さんの四句目に三飛び早番の捌が付けたものです。そろそ二度目の恋が欲しい局面なので、ここは恋の呼び出しを試みることにしました。
前句を吟じ返すうちに何とはなしに浮かんだのがこの一句。「空撓(そらだめ)」と呼ばれる付けの手法に近いものです。敢えて付筋を露わにするならば、前句の「チェス」からテレビドラマ「相棒」を思い浮かべ、そこに登場する謎の女性の姿をイメージし、その人物にぴっちりとした三冬の季語「裘」を着装させてみました。「先の読めない」には《相手の心がつかめない》の要素が含まれているので、恋の呼び出しには持ってこいの"手づる"になりました。


  六   俱に身一つ恋の道行き         山 雑/恋


六句目は五飛び遅番禿山氏が担当します。前句の仕掛けた恋の呼び出しを承けて恋情の明らかな恋句を詠んで頂きます。
捌の求めに応じて呈示された候補5句の中、初案「ボストン一つ恋の道行き」に目が止まりました。前句に登場する女性を逃避行の相手と見定めたところに付味の面白さがあります。ただし「バッグ」を省いた「ボストン」にいささか危うさがあり、四句目の「チェス」が洋語であるとともに句材面でも「器財」の共通性のある点に打越の気味が感じられます。
このような吟味の結果、一直を加えた上掲句を頂戴することにしました。バッグも何も持たせない方が逃避行の覚悟の程が増すものと思量してかくは相成った次第です。ミ音を上下句に配して句調も良い恋の六句目が仕上がりました。
(この項続く)
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