いわき文音五吟歌仙『初便り』の巻 解題05(名残折表七句目から折端まで)
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※画像は「チイ&カプチーノのブログ」による

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  いわき文音五吟歌仙「初便り」の巻          宗海捌

                        起首 2016.01.07
                        満尾 2016.03.20

  発句 初便り実を食む鳥の珍しや       遊糸 新年
  脇   新年会に揃ふ顔触れ         笑女 新年
  第三 温泉(いでゆ)宿瀬音聞ゆる窓開けて   宗海 雑
  四   地物野菜の並ぶ朝市         禿山 雑
  五  据え置けば辺りを払う猿茸       俊輔 三秋
  折端  残業終えて裏道の月          女 三秋/月
初裏
  折立 秋出水天気予報は大当たり        糸 仲秋
  二   てるてる坊主揺れる軒先        山 雑
  三  補助輪を外して被るヘルメット      海 雑
  四   投票箱へ制服のまま          輔 雑
  五  つなぐ手に力のこもる下り坂       糸 雑/恋
  六   高ぶる想い雨の後朝          女 雑/恋
  七  移り香のほのかに残る白絣        海 晩夏/恋
  八   合歓咲く木陰望む昼月         山 晩夏/月
  九  島々の名のみ留めて蚶満寺        輔 雑
  十   懐石膳に海老の真薯(しんじょう)    女 雑
  十一 踊りの輪少し崩れて花の宴        糸 晩春/花
  折端  湯暖簾くぐる朧夜の下駄        山 三春
名残表
  折立 仕上げたる篆刻文字の麗らかさ      海 三春
  二   修行明けとて啖(くら)ふ肉塊      輔 雑
  三  妙義山奇岩怪石連なりて         糸 雑
  四   先の読めない駆け出しのチェス     女 雑
  五  微笑みを豊かに包む裘(かわごろも)    海 三冬
  六   俱に身一つ恋の道行き         山 雑/恋

  七  憑き物が落ちて収まる元の鞘       輔 雑/恋
  八   呼吸整え朝のジョギング        女 雑
  九  茶点前の袱紗捌きも清々(すがすが)と   糸 雑
  十   水面の揺ぎ映す丸窓          山 雑
  十一 居待月比叡の御山を昇り来て       海 仲秋/月
  折端  鬼門の薄母が気にする         輔 三秋

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  七  憑き物が落ちて収まる元の鞘       輔 雑/恋


膝送り五巡目の最後は俊輔氏の付番。前句を承けて恋を続けます。前二句の描き出した逃避行の世界からどのように抜け出すか、三句絡みに陥り易い局面なのでその点がこの句所のポイントになります。
呈示された候補6句の中では初案「火傷して憑き物落ちる若旦那」に目が止まりました。前句の後日談を付筋としたもので「憑き物が落ちる」はよい言い回しを探り当てました。ただ上下両五にはまだ前句に対する説明の匂いが残っているので、そこにもうひとつ離れ味を加えたいところです。その点に対処すべく、初案の「火傷」「若旦那」の枝葉は刈り込んで、「憑き物」のみを活かし、慣用句「元の鞘に収まる」を代わりに埋め込んで掲句の句形に改めました。
前二句の切迫した恋の状況から離れて、身に取り憑いた物の怪を落としたかのような、けろりとした人物の振る舞いへ転じたところに面白さがあります。一句立ての川柳を思わせる俳諧味を湛えた七句目が生まれました。


  八   呼吸整え朝のジョギング        女 雑


膝送りはこれより六巡目入り。八句目は三飛び早番の笑女さんにお願いします。「人情自他半」句が二つ続いたので、自または他の人情句、あるいは場の句に転じてさらりと恋から離れることにしましょう。
呈示された候補5句の中から選んで一直を加えたのが上掲句。初案は「歩調揃えて朝のジョギング」で転じ味はよいのですが、「揃えて」には自分とは別の人物もいることを示す「人情自他半」の要素が含まれているため、同類の人情句が三句続くことになります。また「歩調」は打越「道行き」と微妙に通じる要素があり、これらの点に対する直しを入れた「人情自」句に改めた次第です。
程よい付味と離れ味で新たな展開が期待される八句目が生まれました。


  九  茶点前の袱紗捌きも清々(すがすが)と   糸 雑


九句目は五飛び遅番遊糸さんの担当。さらに雑を続けます。人情を加えるならば打越の「人情自他半」を避けること、人情無しでも構いません。また後の打越十一句目が月の定座に当たるので、これと天象の障りを生じないように注意しましょう。
捌の注文を受けて呈示された候補5句の中では「お茶手前流れる所作は自然体」に目が止まりました。前句の「呼吸」を付所にした離れ味のよい句ですが、「流れる」「自然体」には作者が語り手となって説明を加えている印象があり、もっと客観描写に徹したいところです。この点に対処すべく大幅な刈り込みを加えたのが上掲句です。前句の《呼吸》に異なる意味を持たせて場景を屋外から室内に転じ、前句の「朝」の気分に「清々と」で応じたもので、離れ味の良い九句目が生まれました。


  十   水面の揺ぎ映す丸窓          山 雑


十句目は三飛び早番の禿山氏にお願いします。雑をもう一句続けること、次に月が控えているのでその妨げになるような天象や時分には注意すること、人情を加えるならば打越と同じ人情自は避けること、これらの点を条件として示しました。
それに応えて呈示された候補5句の中では、初案「障子に映る水面(みなも)揺らいで」を良しと見ました。障子に写る水面の揺らぎに着眼した点が勝れています。折角の佳句なので、句末を体言留めにして落ち着きを持たせたいと考えて一直を加えたのが上掲句です。「障子」を「丸窓」としてこれを言外に隠すことで句想に曲折を持たせ、「障子に映る」の散文調を改善したところが狙いです。
前句との付き・離れとも上々で次の月を呼び出すにも好適な十句目が生まれました。


  十一 居待月比叡の御山を昇り来て       海 仲秋/月


十一句目は三度目の月の定座。ここは五飛び遅番の捌が付けます。
上掲句は、前句を京都の庭園の夜景と見定めて、東に比叡山を遠景に配した場の句。前句に描かれた場景に相応しい場所を配して付ける「其場(そのば)」と呼ばれる手法に従うものです。


  折端  鬼門の薄母が気にする         輔 三秋


名残表は最後の折端に至りました。この句所の担当は常時四飛び付番の俊輔氏。前句の仲秋を承けて、「季戻り」を避けるために初秋以外の秋季にします。なお場の句が二つ前に並んだので、ここは必ず人情を加えましょう。
条件に応じて呈示された候補5句の中から捌が選んだのは、初案「母が嫌がる鬼門のすすき」の一句。「叡山」が京都の「鬼門」に当たることに付筋を見出したところがお手柄です。ただし下七の「鬼門の/すすき」が句調を乱す形として嫌われる「四三」の句形なので、この点への手当が必要です。
その解消策として上下の語順を入れ換え、ついでに「嫌がる」を「気にする」と和らげたのが上掲句です。意表を突く上々の離れ味を感じさせる折端が生まれました。
なお本句の「(鬼)門」には、打越「丸窓」と居所の障りになるのではという、字面上の懸念を感じさせる節がありますが、熟語としての「鬼門」は《居所》ではなく《方角》が実質的な意味なので、この点に基づいて差合にはならないと判断しました。
(この項続く)


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