いわき文音五吟歌仙『初便り』の巻 解題06(名残折裏折立から挙句まで)
IMGP2713_20160416100049385.jpg
※画像は2015.05.22東京蔵前国技館五月場所にて筆者撮影

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

  いわき文音五吟歌仙「初便り」の巻          宗海捌

                        起首 2016.01.07
                        満尾 2016.03.20


  発句 初便り実を食む鳥の珍しや       遊糸 新年
  脇   新年会に揃ふ顔触れ         笑女 新年
  第三 温泉(いでゆ)宿瀬音聞ゆる窓開けて   宗海 雑
  四   地物野菜の並ぶ朝市         禿山 雑
  五  据え置けば辺りを払う猿茸       俊輔 三秋
  折端  残業終えて裏道の月          女 三秋/月
初裏
  折立 秋出水天気予報は大当たり        糸 仲秋
  二   てるてる坊主揺れる軒先        山 雑
  三  補助輪を外して被るヘルメット      海 雑
  四   投票箱へ制服のまま          輔 雑
  五  つなぐ手に力のこもる下り坂       糸 雑/恋
  六   高ぶる想い雨の後朝          女 雑/恋
  七  移り香のほのかに残る白絣        海 晩夏/恋
  八   合歓咲く木陰望む昼月         山 晩夏/月
  九  島々の名のみ留めて蚶満寺        輔 雑
  十   懐石膳に海老の真薯(しんじょう)    女 雑
  十一 踊りの輪少し崩れて花の宴        糸 晩春/花
  折端  湯暖簾くぐる朧夜の下駄        山 三春
名残表
  折立 仕上げたる篆刻文字の麗らかさ      海 三春
  二   修行明けとて啖(くら)ふ肉塊      輔 雑
  三  妙義山奇岩怪石連なりて         糸 雑
  四   先の読めない駆け出しのチェス     女 雑
  五  微笑みを豊かに包む裘(かわごろも)    海 三冬
  六   俱に身一つ恋の道行き         山 雑/恋
  七  憑き物が落ちて収まる元の鞘       輔 雑/恋
  八   呼吸整え朝のジョギング        女 雑
  九  茶点前の袱紗捌きも清々(すがすが)と   糸 雑
  十   水面の揺ぎ映す丸窓          山 雑
  十一 居待月比叡の御山を昇り来て       海 仲秋/月
  折端  鬼門の薄母が気にする         輔 三秋

名残裏
  折立 独り住む都会生活そぞろ寒        糸 晩秋
  二   お風呂沸いたとタイマーの声      女 雑
  三  座布団をテレビ桟敷も飛ばしたき     海 雑
  四   老いも若きも好きな捕物        山 雑
  五  呼び込みの喉を枯らして花の道      輔 晩春/花
  挙句  雲の極(はたて)に消ゆる風船     執筆 三春

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

名残裏
  折立 独り住む都会生活そぞろ寒        糸 晩秋


付合はいよいよ終盤を迎えて名残裏入り。折立は三飛び早番の遊糸さんにお願いします。句数の定めに従って秋をもう一句続けます。三秋あるいは秋三期のいずれでも差し支えありません。また、前句が人情を起こしたのを承けて、必ず人情を加えます。自他の別は問いません。
呈示された候補5句の中から、初案「独り居の都会生活そぞろ寒」を第一候補として選り出しました。内容が前句「母が気にする」に響いてよい付味を見せています。ただし「居」が打越の「居待月」と同字で障りますが、そこは何とでもなるでしょう。その上五を「独り住む」と改めて頂戴することにしました。
前句の人情を他から自へ転じて新たな展開を図った、終盤にふさわしい穏やかな折立が生まれました。

  二   お風呂沸いたとタイマーの声      女 雑

二句目はお待ち兼ね五飛び遅番の笑女さん。句数の縛りが解けたので雑に戻りましょう。人情は打越と同じ「人情他」を避けること、場の句でも構いません。
このような条件を踏まえて呈示された候補5句の中から選んだのが上掲句。人語を話すものは合成音声のみというところに《独居のわびしさ》という付心がうまく活かされていて、前句とよく付いています。合成音をずばり「声」と表現としたところが面白い。運辞の良さに加えて付句の転じを誘うにも打って付けの二句目が生まれました。

  三  座布団をテレビ桟敷も飛ばしたき     海 雑

三句目は三飛び早番の捌が担当します。
前句の時分に取り合わせるにふさわしい情景を案じていたところ、たまたまその折に大相撲春場所が興行されていたので、そのテレビ観戦に熱を入れる人物の姿に思い至りました。横綱が負けると必ず桟敷席から座布団が土俵に飛んできます。その画面を見ている人物を我が事として詠んだ、「其場」の手法に従う「人情自」句です。

  四   老いも若きも好きな捕物        山 雑

四句目担当は五飛び遅番の禿山氏。雑をもう一句続けます。ここは次が花の座に当たる「花前」と呼ばれる句所なので、花が詠みにくいような句材や植物は避けるべしとされています。
呈示された候補5句の中では、初案「老いも若きもプロレスに酔う」に目が止まりました。相撲からプロレスへという転じの狙いはそれなりに評価できるのですが、格闘技という同じ土俵内に留まっているところにいま一つ意外性に乏しい憾みが残ります。また片仮名語が三つ続く点も変化の面でマイナス材料になります。
そこでこれらの難点に一直を加えて掲句のように改めました。新たに設定した句材の「捕物」は、前句の「飛ばす」のもう一つの付所として銭形平次の投げ銭のイメージを重ねたもので、そこに付けの曲折が加わっています。

  五  呼び込みの喉を枯らして花の道      輔 晩春/花

五句目は一巻の飾りとなる「匂の花」の座。ここは俊輔氏に花を持って頂きます。人情を加えるなら他者の姿を詠む「人情他」で行きたいところです。
俊輔氏から呈示された候補5句を見ると、実景としての「花」が詠まれているのは一句のみで、他はいずれも「根無しの花」と呼ばれる、植物の花としての実体のないものであったので、それらは「正花(しょうか)」として扱うことは叶いません。また仮に、花の実体はあったとしても、「桜」のような個別名では正花として認められません。通常の花句ではあくまでも実景の花を詠むべきです。初案「花見道呼び込み男のど枯らす」だけが辛うじてこの要件を満たしていますが、なお刈り込みを要する点があります。
まず句体の面から見ると、本句は上五でいったん切れる発句体に当たるので、これを平句体に改める必要があります。また「花見道」にはいささか熟し切れていない印象が残ります。また中七は「呼び込み」だけで十分で、「男」まで言うと残る言語空間を狭めてしまいます。なお下五「のど刈らす」は大打越「声」の同字を避ける工夫として上策なので、これを句末から上に引き上げて活かしましょう。
このような吟味に基づいて得られた一直案が上掲句です。「喉を枯らせる」(「る」は完了・存続の助動詞)と素直に行こうかとも考えたのですが、あえて含みのある「て」を用いた省略表現による曲折を導き入れました。思念的な前句を具体性の強い人情句で承けた、意表を突く面白味のある花句が生まれました。

  挙句  雲の極(はたて)に消ゆる風船     執筆 三春

前句までで連衆それぞれが7句を担当する膝送りがひととおり終わりました。残る挙句は捌が分身としての「執筆」に変じて付けることにします。
上掲句は、三春の季語「風船」に「聳物(そびきもの)」と呼ばれる「雲」を取り合わせた場の句により、一巻をめでたく満尾させることにしました。「雲の果て」では字足らずになるので《果て》の意を表す古語ハタテを用いて拍数を整えました。
これにてに五吟文音歌仙通巻二十二「初便り」の巻はめでたく満尾を迎えました。
関連記事
とびぃ
連句
0 0

comment
comment posting














 

trackback URL
http://tobby70.blog83.fc2.com/tb.php/5348-627c726e
trackback