いわき文音五吟歌仙『粥の香に』の巻 解題03(初折裏七句目から折端まで)
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※画像はブログ「品川 船清」より転載


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  いわき文音五吟歌仙「粥の香に」の巻         宗海捌
                        起首 2016.04.17
                        満尾 2016.07.06

 発句 粥の香に春の眠りを覚ましけり     宗海 三春
 脇   独活和え添えて床上げの膳      禿山 晩春
 第三 山笑ふ友の集へる故郷に        笑女 三春
 四   演歌の後は校歌朗誦         俊輔 雑
 五  夕暮れの川面に浮かぶ月赤し      遊糸 三秋/月
 折端  ちちろのすだく長屋門筋        海 三秋
初裏
 折立 ぐずる子をなだめすかして冬支度     山 晩秋
 二   亭主の膝で眠る三毛猫         女 雑
 三  ドクターの止めるも聞かずジャムを舐め  輔 雑
 四   自慢にならぬ強がりの癖(へき)     糸 雑
 五  ふつふつと汗の噴き出るサウナ風呂    山 三夏
 六   ヨガを済ませて付ける香水       海 三夏
 七  ふたとせの縁(えにし)をつなぐ赤い糸   輔 恋
 八   逢瀬待つ夜は心蕩(とろ)けて      女 恋
 九  お決まりの喧嘩の種はもの忘れ      糸 雑
 十   四月馬鹿なる真昼間の月        山 仲春/月
 十一 纜(ともづな)をぶらりと垂らす花見舟   海 晩春/花
 折端  鼻毛抜きつつ春の手枕         輔 三春
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 七  ふたとせの縁(えにし)をつなぐ赤い糸   輔 恋


初裏折七句目は3飛び早番俊輔氏の付番。前句から恋の呼び出しが掛かったのでここはそれに応じて頂きます。初度の恋はいきなり濃厚なのを詠むよりも、ほのかな味に仕立てるのが順当です。五句目の「ふつふつと」との打越の嫌いを避けるために、同類の畳語形式擬態語の使用は控えましょう。
これらの条件の下に呈示された候補5句の中から、初案「二人して道場通ひもはや四年」に目が留まりました。前句の言外に新たな状況を見出したところがお手柄です。ただ「道場」が「ヨガ」に付き過ぎていることと、恋の気分を別の詞に託すことができれば「二人して」は言わずとも済む詞で、もう少し"ぼかし"を効かせるとさらに面白味が加わるものと見て一直を加えたのが掲句です。
前句の人物に同じヨガ道場に通う相手を配して、あっさりとした恋模様を描き出した付味の良い七句目が生まれました。


 八   逢瀬待つ夜は心蕩(とろ)けて      女 恋


八句目は5飛び遅番の笑女さんの担当。前句を承けて雑の恋を続けます。前二句が描き出した世界の続きにならないように、前句からこれとは異なる状況を引き出すのが勘所となりますが、前句が観念性の強い恋句なので、これに付けるには具体性のあるものが欲しいところです。
呈示された候補五句の中でもっとも具体性を感じさせる上々の恋句として選んだのが掲句。"触り"とも言うべき「心とろけて」が聞かせ所です。初案は「逢瀬の夜は心とろけて」で、このままでも頂けますが、折角の好句なのでこれにもう一手間加えた句形に改めて頂戴しました。前句との付味の良い恋情纏綿(てんめん)とした佳吟が生まれました。


 九  お決まりの喧嘩の種はもの忘れ      糸 雑


九句目はお待ち兼ね遊糸さんの付番。膝送りはこれよりしばらく4飛びが続きます。
恋が二句出たのでもはや恋からは離れましょう。一句単独では恋句とは言えないものの、前句に付けて味わうとほのかな恋情が感じられる、そのような味わいが出せれば上々の恋離れになります。
このような注文に応えて呈示された候補6句の中から取り上げたのは「喧嘩するその発端は忘れごと」の初案句です。馴染みの間柄に「喧嘩」という不協和音を交えたところに転じの良さがあります。ただし「発端」には、詞の硬さと併せて打越の「縁」「赤い糸」にかすかに通う要素があり、この点にもう一工夫欲しいところです。そこでここに俳諧味を一匙加えて掲句の形に仕立て直しました。恋離れに《喧嘩》の要素を盛り込んだ転じ味の良い九句目が生まれました。


 十   四月馬鹿なる真昼間の月        山 仲春/月


膝送りは四巡目に入り、十句目は禿山氏に4飛び順行の付番が回って来ました。型通りに行くならば月の定座は八句目あたりに置かれるところですが、本興行では月花担当者が偏在しないようにこの句所まで月の座を"こぼし"ました。
また次の十一句目に花の座が続くため、それに応じてここは春の月で凌ぐという、いささか型破りの運行に従うことにしました。なお、打越の八句目に「逢瀬待つ夜」があるため、ここでは夜分の月を出すと差合になる点にも留意が必要です。
前句「もの忘れ」を付所にあれこれと付筋を探って頂いた候補5句の中から選んだのは「エープリルフール月中天に」の初案句。仲春の季語「エープリルフール」に意外性があるとともに「もの忘れ」に潜む《間抜けぶり》と通う要素が響き合って上々の付味を見せています。ただし「月中天」だけでは夜分の障りが克服されない点と、上七に付属語を入れて下七に続けたいという欲求に駆られます。そこでその付心を活かして、これに大幅な一直を加えたのが掲句です。上七の洋語を漢語に替えることによって二文字のゆとりを生み出したことと、差合を避けるために「月」を明らかな昼の月にしたいというのがその狙いです。「もの忘れ」に「四月馬鹿」を響かせて、春の昼月を短句で出すという型破りの面白さに満ちた月句が生まれました。


 十一 纜(ともづな)をぶらりと垂らす花見舟   海 晩春/花


十一句目は初折の花の座。前句の余勢を駆って、捌がこれに花句を付けます。
前句の場を河畔の場景と見定めたのですが、前句の季がまだ花時ではないので、その点を凌ぐために晩春の季語「花見舟」によってこれに応えました。「四月馬鹿」に内在する要素を具象化させることを狙って仕立てた場の句。月花を春季で連続させるという目論見もうまうまと果たすことができました。


 折端  鼻毛抜きつつ春の手枕         輔 三春


4飛び運行はなお続きます。折端はお待ち兼ね俊輔氏の付番。晩春または三春の季語を用いて春を続けましょう。場の句が二句続いたので、ここは人情を起こすことが必須条件になります。
呈示された五句の中から掲句に目が留まりました。花見客を登場させて人情を起こしたところが要求された条件を適えており、俳諧味を具備して前句にもよく付いています。
初案は「鼻毛抜きつつ春のうたた寝」でしたが、発句に「春の眠り」があり、これとの遠輪廻の嫌いが感じられるので、下七を「春の手枕」に改めました。「手枕」と「鼻毛」の雅俗混淆が、折端に込み入った俳味を醸し出して面白い味に仕上がりました。
(この項続く)
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