いわき文音五吟歌仙「粥の香に」の巻 解題04(名残折表折立から六句目まで)
mezasi.jpg
※画像はWikipedia「メザシ」より転載

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

  いわき文音五吟歌仙「粥の香に」の巻         宗海捌
                        起首 2016.04.17
                        満尾 2016.07.06

 発句 粥の香に春の眠りを覚ましけり     宗海 三春
 脇   独活和え添えて床上げの膳      禿山 晩春
 第三 山笑ふ友の集へる故郷に        笑女 三春
 四   演歌の後は校歌朗誦         俊輔 雑
 五  夕暮れの川面に浮かぶ月赤し      遊糸 三秋/月
 折端  ちちろのすだく長屋門筋        海 三秋
初裏
 折立 ぐずる子をなだめすかして冬支度     山 晩秋
 二   亭主の膝で眠る三毛猫         女 雑
 三  ドクターの止めるも聞かずジャムを舐め  輔 雑
 四   自慢にならぬ強がりの癖(へき)     糸 雑
 五  ふつふつと汗の噴き出るサウナ風呂    山 三夏
 六   ヨガを済ませて付ける香水       海 三夏
 七  ふたとせの縁(えにし)をつなぐ赤い糸   輔 恋
 八   逢瀬待つ夜は心蕩(とろ)けて      女 恋
 九  お決まりの喧嘩の種はもの忘れ      糸 雑
 十   四月馬鹿なる真昼間の月        山 仲春/月
 十一 纜(ともづな)をぶらりと垂らす花見舟   海 晩春/花
 折端  鼻毛抜きつつ春の手枕         輔 三春
名残表
 折立 焼き上がる目刺鰯の香ばしく       女 三春
 二   ビーズつなぎに嵌まる此の頃      糸 雑
 三  ジャズラジオ好みはいつもサキソフォン  海 雑
 四   塩辛声が笑ひ振りまくく        山 雑
 五  熱燗が常温になる呑み談義        女 三冬
 六   朝の湯婆は二度のお務め        輔 三冬
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


名残表
 折立 焼き上がる目刺鰯の香ばしく       女 三春


膝送りはこれより折が変わって名残表移り。折立はお待ち兼ね笑女さんの付番です。面の変わり目は同季で繋ぐのが好ましいので春をもう一句お願いします。前句の三春で季戻りの懸念がリセットされたので春三期いずれも可。人情も前一句で棄てずに続けましょう。
このような条件を承けて呈示された候補5句の中から「肴焼く大羽鰯の香ばしく」の初案句を選り出しました。付心の程合いが良く前句にぴたりとはまっています。ただし、魚名に重ねて「肴」と言ったところにいささか言い過ぎの難があります。なお共用の季寄せでは「大羽鰯」を三春の季語としていますが、多くの歳時記にはこれが見当たらず、「鰯」の傍題とすると三秋になってしまうおそれがあるため、より一般的な「目刺鰯」に改めました。前句と程よい付きと離れ味を備えて釣合の取れた折立が生まれました。


 二   ビーズつなぎに嵌まる此の頃      糸 雑


二句目はお待ち兼ね4飛び付番の糸さんにお願いします。春が四句続いたのでここは季を離れて雑で行きます。人情の有無は問いません。
このような条件の下に糸さんから呈示された候補6句の中から、初案「ビーズつなぎに時は過ぎ行く」を選り残しました。前句「目刺」に内在する《連なり》の要素を付所にしたものと見られます。主体を女性にして打越から転じたところによい離れ味がありますが、欲を言えば下七の表現にもう一工夫凝らしたいところです。そこで、上記の《連なり》の要素とは別に、当の女性が手芸に夢中になって夕飯の支度を忘れていた、という状況を新たに設定して掲句の形に改めました。時間的逆付けの趣も加わり、前二句の世界からの転じのよい二句目が生まれました。


 三  ジャズラジオ好みはいつもサキソフォン  海 雑


膝送りはこれより5巡目入り。名残表三句目は3飛び早番の捌の担当。これに早速付けさせて頂きます。掲句は、前句の人物がスマホで音楽を聴いている情景を目に浮かべ、それを人情自に転化させることによって転じを図ったものです。


 四   塩辛声が笑ひ振りまくく        山 雑


四句目はお待ち兼ね5飛び遅番禿山氏の担当。もう一句雑を続けることと、人情自が二句続いたので人情を加えるならば他または自他半、あるいは場にしても差し支えなしという条件で付けて頂きます。
呈示された候補5句の中から選んで一直を加えたのが掲句。前句の「ジャズ」を付所に、往年の名手ルイ・アームストロングを彷彿とさせる人物像が描出されています。初案は「合間に唄うしゃがれ声にて」でしたが、「しゃがれ声」を「塩辛声」に改めて俳味を増し、彼の満面の笑みを面影として添加したものです。愛称「サッチモ」はトランペット吹きでしたが、楽器の違いは問わず、「ジャズ」を付所と見ることにしました。人情自から他への"移り"が変化をもたらして転じの効果を挙げています。


 五  熱燗が常温になる呑み談義        女 三冬


次は五句目。付順が標準方式に戻ったことで3飛び早番の付番が笑女さんに回って来ました。ここは雑を離れて初めての冬で運ぶことにしましょう。前句を打越句に付ければ「笑みを振りまく」人物が誰であるかは一目瞭然ですが、この句所ではその世界からきっぱり離れないと三句絡みに陥ります。前句をサッチモではない不特定の人物の動作として詠むことが必須条件で、そこをどのように処理するか、そこが腕の見せ所になります。打越が人情自なので、人情他を続けるか、自他半、あるいは人情無しの場の句いずれかにしましょう。
このような条件を承けて呈示された候補5句の中から、人情自他を取り合わせて賑やかな「爺仲間燗酒温度じゃんけんで」の初案を第一候補句取り上げました。「燗酒」が三冬の季語にあたります。
燗の具合をじゃんけんで決めるというのは面白い見立てですが、打越に「好み」があり、これと似通った要素の根がかすかに繋がってしまう点が障りになります。また前句の「塩辛声」を、客ではなく飲み屋の亭主の声と見定めてみれば句の世界がさらに拡がり、そうなるともはや「爺」と特定する必要はありません。
かかる視点に立って一直を加えた掲句を浮かべてみました。談論風発の間に熱燗がすっかり冷めてしまったという見立てによるものです。前二句の世界から良い離れ味を見せて俳諧を感じさせる、転じの利いた五句目が生まれました。


 六   朝の湯婆は二度のお務め        輔 三冬


ナオ六句目は今や遅しとお待ち兼ねの5飛び遅番俊輔氏にお願いします。前句の季を承けて冬をもう一句続けます。冬三期の別は問いません。四句目が人情他なので、人情句を続けるならば打越を避けて自または自他半、さもなくば場に転じてもよしとしましょう。
このような条件の下に呈示された候補5句の中からまず「湯たんぽ空けて顔を洗浄」の初案を選びました。前句の《冷める》の要素から湯たんぽの湯を導いたのはうまい着想ですが、「空けて」以下がいささか散文的で説明の匂いを感じさせる点をもう一段詩歌らしく昇華させたいところです。その方針に従って掲句の句形に仕立て替えをしました。
なお「湯たんぽ」はそのまま使ってもよいのですが、音数律の制約から本来の語形にあたる「湯婆(たんぽ)」に鞍替えをしました。これが近代中国から伝わった本来の形で、後にその語源が忘却され、新たに「湯」を注釈的に語頭に添えた「重言(じゅうごん)」による語形変化が生じました。(この項続く)
関連記事
とびぃ
連句
0 0

comment
comment posting














 

trackback URL
http://tobby70.blog83.fc2.com/tb.php/5462-18b9014e
trackback