いわき文音五吟歌仙「粥の香に」の巻 解題05(名残折表七句目から折端まで)
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※画像は「エントレ」より転載

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  いわき文音五吟歌仙「粥の香に」の巻         宗海捌
                        起首 2016.04.17
                        満尾 2016.07.06

 発句 粥の香に春の眠りを覚ましけり     宗海 三春
 脇   独活和え添えて床上げの膳      禿山 晩春
 第三 山笑ふ友の集へる故郷に        笑女 三春
 四   演歌の後は校歌朗誦         俊輔 雑
 五  夕暮れの川面に浮かぶ月赤し      遊糸 三秋/月
 折端  ちちろのすだく長屋門筋        海 三秋
初裏
 折立 ぐずる子をなだめすかして冬支度     山 晩秋
 二   亭主の膝で眠る三毛猫         女 雑
 三  ドクターの止めるも聞かずジャムを舐め  輔 雑
 四   自慢にならぬ強がりの癖(へき)     糸 雑
 五  ふつふつと汗の噴き出るサウナ風呂    山 三夏
 六   ヨガを済ませて付ける香水       海 三夏
 七  ふたとせの縁(えにし)をつなぐ赤い糸   輔 恋
 八   逢瀬待つ夜は心蕩(とろ)けて      女 恋
 九  お決まりの喧嘩の種はもの忘れ      糸 雑
 十   四月馬鹿なる真昼間の月        山 仲春/月
 十一 纜(ともづな)をぶらりと垂らす花見舟   海 晩春/花
 折端  鼻毛抜きつつ春の手枕         輔 三春
名残表
 折立 焼き上がる目刺鰯の香ばしく       女 三春
 二   ビーズつなぎに嵌まる此の頃      糸 雑
 三  ジャズラジオ好みはいつもサキソフォン  海 雑
 四   塩辛声が笑ひ振りまくく        山 雑
 五  熱燗が常温になる呑み談義        女 三冬
 六   朝の湯婆は二度のお務め        輔 三冬
 七  喜寿の会焼けぼっくいに何とやら     糸 雑
 八   人目を忍ぶささやきの道        海 恋
 九  触れた手の指絡め取る日暮れ時      山 恋
 十   酔ひの紛れに恋懺悔する        女 恋
 十一 草芝居赤城の月にお捻りが        輔 三秋/月
 折端  越える峠に行き合いの空        糸 初秋
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 七  喜寿の会焼けぼっくいに何とやら     糸 雑


七句目は順行4飛び付番遊糸さんの担当。二つ続いた冬を離れて雑に戻ります。打越が人情自他半なので、人情句で行くならば自あるいは他、場の句も可とします。このあたりそろそろ二度目の恋句が欲しい局面、恋の呼び出しとなるような要素が含まれていれば申し分ありません。
これらの条件に応えて呈示された候補6句の吟味の結果、初案句「同窓会焼けぼっくいに火がついて」が捌の篩(ふるい)に残りました。前句「二度のお務め」を付所に新たな状況へと付筋を伸ばしたもので、恋の呼び出しとしても相応しいと見たのですが、惜しむらくは「火」に打越「熱燗」と通う要素のあることと、「同窓会」が第三と四句目の「友・集う」「校歌朗唱」の世界に戻る遠輪廻の嫌いのある点が大きな障りになります。そこでこの難を改めるべく、これらを詞の表に出さずに"ぼかし"を掛けた掲句の一直案を浮かべました。
前句の「湯婆」が《老体》の付所となることと、「何とやら」にその齢に相応しい《もの忘れ》の響きを持たせて隠し味を効かせたものです。前句の《再度》の要素を《再燃》に転換して恋の呼び出しとした、転じ味の良い七句目が生まれました。

 八   人目を忍ぶささやきの道        海 恋


八句目は捌の付番。前句の誘いに乗ってこれを明らかな恋で承けました。ちなみに「ささやきの道」とは、国分寺市に隣接する小平市を流れる玉川上水沿いの細道の名。ここはかつての一橋大学教養部キャンパスと津田塾大学を結ぶ小径で、恋をささやくには絶好の場所です。ここを前句の老いらくの恋の舞台に選びました。

 九  触れた手の指絡め取る日暮れ時      山 恋


膝送りはさらにしばらく4飛びで順行します。九句目は禿山氏の付番、前句を承けて恋をもう一句続けます。八句目を共有しつつ、前二句の老体の恋からどのように離れるかが見所ですが、この展開はさほど難儀ではないように思われます。
呈示された候補5句の中で捌が目を付けた初案は「日暮れ時手に手を取った二人連れ」ですが、三句前の六句目と「二」の同字で障ります。「二人」を「ふたり」と仮名書きにして逃れる方策はあるものの、その《二人連れ》の要素はすでに前句に含まれていて、これを詞の表に出すと底が浅くなり、句の面白さが逃げてしまいます。そこでここに詠まれた状況を活かして大幅な一直を加えたのが掲句です。前句を日暮れ時と見立てた「其時」の手法に従い、その場に似合わしい初々しい恋模様に仕立て替えた付味の良い九句目が生まれました。

 十   酔ひの紛れに恋懺悔する        女 恋


十句目も順行4飛びで笑女さんに付番が回ってきました。恋の行方が気になるならばもう一句続けるか、あるいは恋離れで行くか、その判断は作者にお任せとします。人情を加えるならば、自他半句が二つ続いたので、これを避けて自または他、さもなくば人情を離れて場の句に転じるのも良いでしょう。
これらの条件を承けて呈示された候補5句の中から、初案「酔った振りにも色香いぢらし」に目を留めました。前句の状況の陰に《酔い》の要素を見出した付けで付味は悪くありませんが、前句からの転じ幅がいささか狭いため、打越から一直線に続く三句絡みの恐れがあり、その点についてもう一工夫欲しいところです。
本句の主軸となる《酔い》の要素を活かしたいと考えを巡らしたのですが、このままではどうしても前二句の世界の続きになってしまいます。そこで、窮余の一策として、前句から時間的な隔たりを置いた掲句を浮かべてみました。前句を昔の話にしてしまうことにはいささか不満が残るのですが、三句絡みを避けるには致し方ありません。そのことよりも、二度目の恋にふさわしい運びを見せた展開にうまくひと区切り付いた点をお手柄と見ました。

 十一 草芝居赤城の月にお捻りが        輔 三秋/月


順行4飛びが続いて十一句目は俊輔氏の付番。ここは月の定座にあたる句所ですが、それに絡んで難儀な問題が出来(しゅったい)しました。それは、打越九句目に時分と天象を兼ねる「日暮れ時」があるので、ここで天象を出すと打越の障りを生じてしまうことです。そこでその解決策としてここでは「書き割りの月」を詠んで頂くことにしました。「書き割りの月」とは、何らかの都合で実際に空に出ている月を詠めない場合に、絵に描いた月とか、月の異名を用いることで凌ぐ方策を指す呼び名です。
この求めに応じて呈示された候補5句の中からひとまず選んだのは「草芝居赤城の月に大向こう」という案ですが、下五を「大向こう」で留めたところにいささか不透明な印象が残ります。そこでこれを掲句の形に改めて頂戴することにしました。
前句の「酔い」と「恋懺悔」から草芝居の太夫の姿を呼び出し、それに書き割りの月を配した離れ味のよい十一句目が生まれました。

 折端  越える峠に行き合いの空        糸 初秋


名残表は折端に至り、次も4飛び順行で遊糸さんに付番が回ってきました。前句を承けて秋を続けます。十句目の人情は自他いずれにも解されますが、やや自の色彩が濃く感じられるので、人情を加えるならば他または自他半、あるいは場の句もよしとします。
この条件の下に呈示された候補5句の中から「直立不動色変えぬ杉」と「越える峠に行き合いの空」の二句を粗選りに残しました。いずれにも棄てがたい味があります。1は「直立不動」がいささか硬く、もう一段こなれが欲しいと考えて「すっくりと立つ」などの一直案も案じては見たものの、それよりも、5の《峠越え》には前句と程良く響き合う要素があって、そこによい付味が感じられる点を高く評価して、こちらを初案のまま頂戴することに決しました。
名残折表を終えるに相応しい落ち着きを感じさせる折端が生まれました。
(この項続く)
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