【佐藤禿山氏追悼連句】いわき文音五吟歌仙『ひよどりは』の巻 解題01(発句から初折表折端まで)
興行発足以来足掛け10年に及ぶ歳月を閲した「いわき文音連句」、その通巻第二十四にあたる歌仙「『ひよどりは』の巻」がこのたび満尾を迎えました。

その付合が終局にさしかかった頃、初巻以来メールによる文音方式の座を共にしてきた、札幌在住の佐藤禿山氏が入院先の病院で急逝されるという悲報に接しました。

メールによる文音連句を病間のこよなき楽しみとしながら、満尾を待たずに永の眠りに就かれた氏のご冥福を祈念しつつ、捌を務めた宗海が本巻に解説を加えて氏の霊前に捧げさせて頂きます。

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※画像はサイト「FM-JAGA(FM帯広)」より転載

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  いわき文音五吟歌仙「ひよどりは」の巻        宗海捌
                        起首 2016.08.09
                        満尾 2016.11.10

  発句 ひよどりは試練の海を越え行きぬ    禿山 三秋
  脇   涼新たなる旅立ちの朝        遊糸 初秋
  第三 来し方を家郷の月に眺むらん      俊輔 三秋/月
  四   薬あれこれ入れるポシェット     笑女 雑
  五  妹は姉に似合わぬ器用者        宗海 雑
  折端  吊り床揺れる薫風の庭         山 三夏

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五吟による膝送り方式はこれが四度目。初・二巡目は a禿山>b遊糸>c俊輔>d笑女>e宗海、三・四巡目は b>a>d>c>e の付順を、それぞれ交互に二度ずつ繰り返しながら進めるという、前巻と同じ五四三飛び方式に従います。

  発句 ひよどりは試練の海を越え行きぬ    禿山 三秋


今巻の発句は、当の禿山氏に順番が回ってきました。呈示された候補5句の中から捌が選んで一直を加えたのが掲句。初案は「ひよどりや海峡超えに試練待つ」でした。狙いを三秋の季語「ひよどり」に定めた場の句で、試練の海を越えて行くひよどりの姿に、病と闘う作者の思いを籠めた一座への挨拶句と見定めました。ただ「海峡超え」「試練待つ」の運辞にいささか説明の匂いが感じられるので、これを上記の句形に改めました。

なお本句初案には次のようなコメントが添えられていました。それをこに引用して野鳥観察を楽しみの一つとされていた氏を記念する便(よすが)とします。
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本道のひよどりの殆どは秋に道南に集結し群れをなして津軽海峡を渡り南を目指します。これに合わせて猛禽類のハヤブサも狩りの為に集まり海を渡る直前を狙います。ハヤブサは水が苦手の為ひよどりが海上に出てしまったら追わず地上から飛び立ち海までの僅かな区間が狩場となります。この様子今やすっかり知れ渡り全国から野鳥愛好家やカメラマンが集まるそうです。
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  脇   涼新たなる旅立ちの朝        遊糸 初秋


運行目論見に従い、脇は遊糸さんにお願いします。前句が三秋なのでここは初秋の季語を用いて当季を定めることが必須条件。人情の有無は問いません。発句の言い残したものを探り当ててこれに寄り添うようにぴたりと付けるのが脇の大切な役割です。
このような条件に応えて、暑さをものともせぬ健吟ぶりを発揮して呈示された、その候補8句の中から「初めて涼し旅立ちの頃」を第一候補として選り出しました。これに運辞面から吟味を加えみるに、本句は上七でいったん言い切られていますが、ここは下に続けた方がすらりとした句姿になります。また「頃」で句末を留めるのは二拍分の余白を充填するための方策ですが、本句の場合にはそれよりも、時節を表す詞を表に出した方が、発句の言外にあるものを示す上でさらなる効果ありと見ました。
これらの吟味に基づいて、上七「初めて涼し」を傍題「涼新た」に替え、句末を「朝」とした上掲の句形に改めさせて頂きました。
初秋の季語を用いて当季をしっかと定め、人事への展開が期待される脇が生まれました。

  第三 来し方を家郷の月に眺むらん      俊輔 三秋/月


第三は俊輔氏の担当。発句が秋で始まった一巻は、月の定座を第三に引き上げるのが定石です。「月」とだけ詠めば秋になるので他の季語は要りません。前句は人情有無いずれとも解されますが、ここは「旅立ち」を付所に必ず人情を起こすことにしましょう。
第三は一巻の変化が始まる句所で、前二句の世界から大きく離れることが必須条件。また第三の句姿は発句に匹敵する「丈(たけ)高さ」が求められます。
これらの条件を踏まえて呈示された候補5句を、捌が篩に掛けて粗選りをした結果、「眺めやる来し方の月婚家にて」が残りました。
ただしこれについては、《過去》を言う「来し方」と月を直接結び付けた点と「婚家」の硬さの難を解消したい欲求を覚えます。
そこで、その両点について一直を加えた上掲句形に改めて治定としました。
前句の「旅立ち」への「対(つい)」付けとして、ふるさとに住む朋友の「来し方」に思いを巡らす人物を配した、落ち着きのある第三が生まれました。

  四   薬あれこれ入れるポシェット     笑女 雑

 
四句目はお待ち兼ね笑女さんの付番。秋の句数の縛りが解けたところで雑に転じましょう。格式を感じさせる句が三つ続いたので、この句所は「四句目ぶり」と称される軽い味の句でさらりとやり過ごしたいところです。人情は他または自他半、場の句でも構いません。
これらの条件に基づいて呈示された候補5句の中、「常備薬詰めポシェットを持つ」に目が留まりました。目先の変わった句材が軽くて四句目に相応しく、片仮名語も転じに効果があります。ただ、「…詰め…持つ」の表現が散文的で説明の匂いがするところにもう一手間加えたい印象が残ります。
そこでこれに短句らしさを付加する狙いを含めて掲句のように改めました。その第一次案は、初案の句形を活かして下七を「詰める…」としたのですが、打越の「旅」の用意のようにも読まれてしまうのを嫌って、このように改めました。
前句の「眺む」の主体に当たる人物の行為と見立てた、「其人」の手法に従う転じ味の良い四句目が生まれました。

  五  妹は姉に似合わぬ器用者        宗海 雑


前句の「ポシェット」を、手芸好きの義妹が贈ってくれた作品と見定め、そこに軽い俳味を加えた人情他の句です。実はこれに近いことが身近にあったばかりだったので、前句を見てすぐに本句が浮かびました。

  折端  吊り床揺れる薫風の庭         山 三夏


膝送りは早くも二巡目入り。兼ねての目論見どおり同じ付順をもう一遍繰り返すので、折端は4飛び付番の禿山氏が担当します。
一面二季としたいので、夏または冬いずれかの季語を用いて前句を承けること、話の続きとして理詰めで付けようとすると粘りが出るので、さりげなくふわりと付けることをお願いしました。
その要求に応じて提出された候補5句の中の「すず風吹いて庭木刈り込む」に、程良い付味と折端らしい落ち着きを覚えたので、この運辞の順序を入れ替えて「韻字止め」の形に改めました。
なおここでも、当初は初案を活かす心算で「庭木刈り込む涼風の庭」としたのですが、禿山氏から「涼」字が脇にある旨の指摘を受けたことと一句内の「庭」字の重出を嫌って、掲句の句形に治定しました。
(この項続く)
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