【佐藤禿山氏追悼連句】いわき文音五吟歌仙『ひよどりは』の巻 解題02(初折裏折立から六句目まで)
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※画像はサイト「鶴岡市立加茂水族館/クラネタリウム」より転載

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  いわき文音五吟歌仙「ひよどりは」の巻        宗海捌
                        起首 2016.08.09
                        満尾 2016.11.10


 発句 ひよどりは試練の海を越え行きぬ    禿山 三秋
 脇   涼新たなる旅立ちの朝        遊糸 初秋
 第三 来し方を家郷の月に眺むらん      俊輔 三秋/月
 四   薬あれこれ入れるポシェット     笑女 雑
 五  妹は姉に似合わぬ器用者        宗海 雑
 折端  吊り床揺れる薫風の庭         山 三夏
初裏
 折立 水族館人気抜群大くらげ         糸 三夏
 二   酢物味濃き嫁の手料理         輔 雑
 三  四捨五入すれば傘寿よ背の丸み      女 雑
 四   枯蔦からむ宮の狛犬          海 三冬
 五  難問が解けて空には冬の月        糸 三冬/月
 六   誕生なるか女性領袖          山 雑

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初裏
 折立 水族館人気抜群大くらげ         糸 三夏

 
膝送りは初折裏入り。折立担当は4飛び付番の遊糸さん。前句と同季の夏で初折の表裏を繋ぎます。人情句が続いて少々粘りが出て来たので、ここは場の句でさり気なくあしらうか、人情が入っても諄(くど)くならないよう、あっさり仕立てで行くことをお願いしました。
程なく呈示された候補6句の中から、初案「水族館浮かぶ海月が人気者」を選り出しました。前句の揺れる吊り床からクラゲの姿を思い浮かべたところに、連想の自然さと転じの良さがあります。ただし「浮かぶ」は "言はずもがな" の感を覚える詞なので、下記の数次に及ぶ改案を経て上掲句に治定しました。
一直初案は「大くらげ水族館の人気者」だったのですが、表五句目の「器用者」と「者」の同字で障ることに気付き、これを「大くらげ水族館の人気取り」に改めたものの、なお下五の言い回しが落ち着かず、これに再度手を加えて掲句の形に落着した次第です。
前句からさらりと転じた、折立にふさわしい展開の期待される付句が生まれました。
 
 二   酢物味濃き嫁の手料理         輔 雑
 
二句目はお待ち兼ね俊輔氏の付番。夏が二句続いたところで雑に戻ります。前二句が人間の登場しない場の句なので、ここは是非とも人情を起こしたい局面です。
このような要請を受けた俊輔氏から同日中に候補5句が呈示され、その中から初案「濃い酢物味嫁の手料理」を選びました。
本句は、前句の「くらげ」を付所として転じを図ったもの。着眼の良さが感じられるものの、上七の運辞にいま一つ工夫が欲しい気がします。そこで、上七内部の語順を入れ替えてその難の解消を図った結果、掲句の形に治定しました。
生類から食物の句材に転じて人情を起こした、付味の良い二句目が生まれました。
 
 三  四捨五入すれば傘寿よ背の丸み      女 雑
 
三句目は4飛び巡行に従って笑女さんに付番が回って来ました。前句の起こした人情を承けて、ここもまた人情句を続けましょう。
間もなく呈示された候補5句の中から、掲句を初案のまま頂戴することにしました。
本句は、前句の「嫁」にその《舅・姑》にあたるを人物を対置させた「向付(むかいづけ)」と呼ばれる手法に従ったもの。併せて人生の諸相に対する喜怒哀楽の情を述べる「観相」の付心も感じられます。
軽い俳味の中にも深みのある老体句が生まれました。
 
 四   枯蔦からむ宮の狛犬          海 三冬
 
笑女さんの三句目に、4飛び付番の捌が早速付けさせて頂きます。
掲句は前二句からの三句絡みの難を回避すべく、人情を捨てて冬の釈教句に逃れました。
前句の「老体」に通じる要素を持つ三冬の季語「枯蔦」によって前句に響かせたところに付心が働いています。また句材の「狛犬」にも、前句の「背の丸み」に通う付筋が潜んでいます。
 
 五  難問が解けて空には冬の月        糸 三冬/月
 
膝送りは三巡目入り、五句目は3飛び早番の遊糸さんの担当です。ここを二度目の月の座とします。
前句の季を承けてここは冬の月を詠んで頂きましょう。その際に第三の月に詠まれた状況と重ならない配慮が必要です。
この条件を承けて遊糸さんから呈示された候補5句の中から、初案「難問を解いて見上げる冬の月」に一直を加えた掲句を治定しました。「解いて見上げる」にかすかな説明の匂いを感じたので、「難問」を主体とする表現に改め「見上げる」は言外に隠しました。
前句の「枯蔦」が絡んだ姿に「難問」と通う要素を見出して新たな世界への展開を図った付けと転じの効いた五句目が生まれました。
 
 六   誕生なるか女性領袖          山 雑
 
六句目はお待ち兼ね6飛び遅番の禿山氏の付番。二句続いた冬を離れて雑に戻りましょう。
そろそろ恋が欲しい局面なので、どこかに恋を誘うような趣を感じさせる「恋の呼び出し」をお願いします。いきなり恋に入るのではないところにひと工夫が必要です。
 
ところが、このような条件を呈示した翌日、緩和病棟への引っ越しのために目下待機中という禿山氏からのメールが、担当医の病状説明を添えて送られてきました。胸を突かれる思いに囚われて危ぶみながら氏の句吟を待っていると、それより三日後、病床にある禿山氏のiPhoneから六句目候補5句の句案が届きました。
一座に寄せる氏の並々ならぬ思いに心を打たれながら吟味を加えた結果、離れ味の効いた初案「女性党首の誕生なるか」を、恋の呼び出し役としてもっとも良しと判定しました。ただ惜しむらくは、下七の四三の形が句調を損ねています。そこでこの点を改めるべく上下を倒置させ、かつ「党首」を4拍類義語「領袖」に入れ替える一直を加えて掲句のように句形を定めました。
時あたかも民進党の党首選びに向けた動きが始まったところ。そのような時事性を兼ね備えた、恋の呼び出しとしては意外性のある佳句が生まれました。(この項続く)
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