【佐藤禿山氏追悼連句】いわき文音五吟歌仙『ひよどりは』の巻解題03(初折裏七句目から折端まで)
gojira.jpg
※画像は「amazon ジグソーパズル バーニング・ゴジラ」より転載

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

  いわき文音五吟歌仙「ひよどりは」の巻        宗海捌
                        起首 2016.08.09
                        満尾 2016.11.10


 発句 ひよどりは試練の海を越え行きぬ    禿山 三秋
 脇   涼新たなる旅立ちの朝        遊糸 初秋
 第三 来し方を家郷の月に眺むらん      俊輔 三秋/月
 四   薬あれこれ入れるポシェット     笑女 雑
 五  妹は姉に似合わぬ器用者        宗海 雑
 折端  吊り床揺れる薫風の庭         山 三夏
初裏
 折立 水族館人気抜群大くらげ         糸 三夏
 二   酢物味濃き嫁の手料理         輔 雑
 三  四捨五入すれば傘寿よ背の丸み      女 雑
 四   枯蔦からむ宮の狛犬          海 三冬
 五  難問が解けて空には冬の月        糸 三冬/月
 六   誕生なるか女性領袖          山 雑
 七  移り香のスーツに残る帰り道       女 雑/恋
 八   逢瀬重ねる焼肉の店          輔 雑/恋
 九  迷惑は口先だけとすぐに知れ       海 雑
 十   相槌打つもうはのそらなり       糸 雑
 十一 ジグソーのゴジラ仕上がる花明り     山 晩春/花
 折端  縞のキルトに蒲公英の絮        女 三春

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 七  移り香のスーツに残る帰り道       女 雑/恋

付合は初折裏の後半に差し掛かり、七句目は3飛び早番笑女さんの担当。前句の恋の呼び出しを承けて、恋の情を明らかに表出した付句をお願いしました。
歌仙では一巻の中に必ず恋句を詠むこととされており、恋句のない作品は半端物(はんぱもの)という有り難くない評価を受ける仕儀となります。
間もなく候補5句が呈示され、その中でもっとも良いと見た上掲句を初案のまま頂くことにしました。「移り香」を前句の女性のものと見立てて相手の男性を描いた「向付(むかいづけ)」の手法に従う付けで、すらりとした句姿と併せてよい付味が感じられます。
前句の呼び出しにうまく応じた恋の七句目が生まれました。

 八   逢瀬重ねる焼肉の店          輔 雑/恋

八句目はお待ち兼ね、5飛び遅番の俊輔氏にお願いします。ここにも恋句に関する式目上の決まり事があり、いったん恋句が出たらそれを含めて必ず二句以上は続けなければなりません。この習わしに従ってこの句所では恋を続けることになります。
俊輔氏呈示の候補5句の中、「逢瀬はいつもジンギスカン屋」に目が留まりました。お住まいの北海道滝川市の名物の店、そこを恋の舞台に選んだ奇抜な発想に捌の食指が動きました。前句の「残り香」を温和しく承けず、はぐらかしに出た妙技が冴えています。惜しむらくは、下七が六・一という頭でっかちの句形のために句調がいま一つ整わないこと。ここにもうひと工夫欲しいところです。そこでこの難点を解消すべく、上掲句のような一直案を浮かべ、この句形で治定としました。
食物と恋の意表を突く取り合わせによって展開の面目を一新した、良い味の九句目が生まれました。

 九  迷惑は口先だけとすぐに知れ       海 雑

次は九句目。付番の回ってきた捌がこれに早速付けを試みました。
掲句は、一句を独立させて読めば恋の趣は感じられないものの、前句に付けて味わうとそこはかとない恋の情緒が漂う、そのような句について言う「恋離れ」を試みました。身に覚えのない艶聞を流されたことに対する「迷惑」という見立てが前句への付心として働いています。

 十   相槌打つもうはのそらなり       糸 雑

十句目は4飛びの標準巡行によって付番の回って来た遊糸さんにお願いします。
話の続きを言うのではなく、前句の人物に相応しい動作・振舞を詠む方向を目指すことが、前句との離れを生む要諦になると思われます。また、次の十一句目が花の座で、ここはその前に位置する「花前」と呼ばれる句所にあたるために、植物や花の出しにくい句材は控えるべしとされています。
これらの注文を受けて遊糸さんから呈示された候補7句について吟味を加えた結果、初案「上の空にて相槌を打つ」が、ピントを一点に絞ったところから良い味が出ていると見ました。なろうことならば、「相槌を打つ」の「を」に籠もる説明の匂いを消すために、これを用いずに表現したい気がします。
そこで、本案の上下を入れ替え、余分と思われる助詞を省く「すみのテニハを切る」と呼ばれる手直しを加え、掲句の句形に改めて治定としました。
前句に逸らし気味に付けたところに曲折を感じさせる、付味の良い十句目が生まれました。

 十一 ジグソーのゴジラ仕上がる花明り     山 晩春/花

十一句目は初折の花の座。この花は4飛び巡行で付番の回ってきた禿山氏に持って頂きます。前句に描かれた人物を新たな視点から捉えてそこに花を配するという、かなり気骨の折れる付合になりそうな予感がしますが、そこを上手くあしらうのが付け手の腕の見せ所。
この間、下に示した「付記」にあるような事情によって数日間の「付合停止」期間が生じ、それが解除された後に禿山氏から候補5句が呈示されました。その中から初案「花の下ジグソーパズルの仕上げ時」を拾い上げました。惜しむらくは、「上」字が前句と同字の障りになることと、前句の「上の空」との論理的整合を図ろうとした点に"付け代"の広過ぎる印象が残ります。
前件については、「仕上げ」が他の語をもっては代え難いために、すでに治定していた前句の初案「上の空」を「うはのそら」と旧仮名遣いに改めることをもって解消策とし、後件を含めて掲句のような一直形に仕立て上げて治定としました。
なお、中七「ジグソーパズルの」の字余り解消を図る際に、その絵柄には何がよかろうと思い巡らした果てに浮かんだのが、最近の映画で話題の「シンゴジラ」。絵柄を言えば「ジグソー」だけでも通じると考えて、これを組み込むことによってさらなる具体性を持たせました。
前句への程よい付味と意外性のある、斬新な初折の花句が生まれました。

 折端  縞のキルトに蒲公英(たんぽぽ)の絮(わた) 女 三春

初折裏の折端は4飛び定時巡行によって笑女さんに付番が回ってきました。
人情句が重なって運びがいささかこみ入ってきたので、ここは人情を離れた場の句でさらりと逃げるのがよさそうですが、人情を加えるならば打越と同じ自他半は避けましょう。
同級会の準備と運営による疲れを癒やして日常生活のリズムを取り戻された笑女さんから呈示された折端候補5句の中、初案「キルト模様に蒲公英の絮(わた)」に目を留めました。
ご自解には、句材が前句と同じ植物であることへの懸念が示されていましたが、これは「摺付(すりつけ)」と呼ばれる付け方で、打越ならば差合になりますが、一句を隔てない付句なので、その点に問題はありません。また、「キルト」に「ジグソー」がほのかに通って良い味を出していますが、欲を言えば「キルト模様」にもう一つ具体性を持たせたい印象を受けます。そこでその点についての補修を加えた掲句の句形をもって治定としました。
しばらく続いた人情句を離れてあっさりした付味の、転じ具合も良い折端が生まれました
(この項続く)

(付記)
上記十一句目の付句条件を禿山氏に呈示したちょうどその頃、故郷のいわき市湯本温泉の旅宿で予定されていた、喜寿の祝いを兼ねた中学校同級会が間近に迫っていました。当の禿山氏も初めは出席の心算でおられたのでしたが、前記のように、にわかに入院の事態が出来(しゅったい)したため、無念の思いで欠席を表明される仕儀に至りました。
氏はその思いをメールに綴り、会の当日私宛てに送って下さり、当夜の席で同級生各位に最後の挨拶として披露して欲しい旨を依頼されました。その懇請を受けて旧交を温める宴に先だって級友に披露した、その文面には次のようにありました。

===
平一中クラス会 開催 おめでとうございます。お集まりの皆様には 多少の問題は抱えていても このように参加できるのであって これは喜ばしい限りです。私も楽しみにしていたのですが 現在 体力低下が著しく、室内の移動がやっとで 長距離の移動は難しい状況です。これも この春、悪性リンパ腫の再発と 胃ガンの発病を告げられ 私は手術等を諦め 無処置を選択、末期には緩和病棟で処置を受けることを決断しました。現在 その緩和ケアにて 日ごとに食事の通過が難しく 僅かな流動食に頼っている状況ですので いずれ 最後を迎えるのは避けられません。しかし、今の医療チームは 患者に苦痛と不安を与えぬよう 丁寧、かつ懸命に処置してくれますので 皆様にもご休心願います。
私の参加は難しいですが この会が1年、もう1年と 末長く続くことを願ってます。そして皆さまのご多幸を念じ ご挨拶と致します。皆様 長い間お世話になり ありがとうございました。
===
関連記事
とびぃ
連句
0 0

comment
comment posting














 

trackback URL
http://tobby70.blog83.fc2.com/tb.php/5592-b2e03c83
trackback