【佐藤禿山氏追悼連句】いわき文音五吟歌仙『ひよどりは』の巻解題05(名残折表七句目から折端まで)
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※画像はブログ「月夜の森 11/薩摩琵琶 友吉鶴心『花一看』」より転載

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  いわき文音五吟歌仙「ひよどりは」の巻        宗海捌
                        起首 2016.08.09
                        満尾 2016.11.10


  発句 ひよどりは試練の海を越え行きぬ    禿山 三秋
  脇   涼新たなる旅立ちの朝        遊糸 初秋
  第三 来し方を家郷の月に眺むらん      俊輔 三秋/月
  四   薬あれこれ入れるポシェット     笑女 雑
  五  妹は姉に似合わぬ器用者        宗海 雑
  折端  吊り床揺れる薫風の庭         山 三夏
初裏
  折立 水族館人気抜群大くらげ         糸 三夏
  二   酢物味濃き嫁の手料理         輔 雑
  三  四捨五入すれば傘寿よ背の丸み      女 雑
  四   枯蔦からむ宮の狛犬          海 三冬
  五  難問が解けて空には冬の月        糸 冬/月
  六   誕生なるか女性領袖          山 雑
  七  移り香のスーツに残る帰り道       女 雑/恋
  八   逢瀬重ねる焼肉の店          輔 雑/恋
  九  迷惑は口先だけとすぐに知れ       海 雑
  十   相槌打つもうはのそらなり       糸 雑
  十一 ジグソーのゴジラ仕上がる花明り     山 晩春/花
  折端  縞のキルトに蒲公英の絮        女 三春
名残表
  折立 いかめしも開通を待つ春の駅       輔 三春
  二   港目指して下る坂道          海 雑
  三  園児らのラジオ体操靄晴るる       山 雑
  四   集ふママ友尽きぬおしゃべり      糸 雑
  五  家事番は草むしりなど屁の河童      輔 晩夏
  六   女形の台詞やっと覚える        女 雑

  七  寝乱れの顔を繕ふ隠れ宿         海 雑/恋
  八   咬み痕なぞる紅差しの指       執筆 雑/恋
  九  ペアカップ割って後ろは振り向かず    糸 雑
  十   賽は振られつ渡るルビコン       輔 雑
  十一 望月のさやかに照らす島の影       女 仲秋/月
  折端  琵琶を弾じてしばし秋興        海 三秋

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  七  寝乱れの顔を繕ふ隠れ宿         海 雑/恋

付合は名残表七句目に差し掛かり、4飛び巡行の捌に付番が回ってきました。そこで前句「女形」を恋の呼び出しの詞と見定めて仕掛けられた恋を承けることにしました。
掲句の「繕ふ」は《化粧などを整える》の意。前句の人物をいささか妖しげな世界に拉致してその恋模様を描いてみました。

  八   咬み痕なぞる紅差しの指       執筆 雑/恋

膝送りはこれより六巡目入り。八句目は4飛び巡行付番の禿山氏にお願いします。恋は一句で捨てるべからず、その習わしに従って恋を続けましょう。恋の二句目は前二句の世界を背景にしてその続きを言う「三句絡み」に陥り易いもの。その点にご留意下さい。
このような条件を示して、氏の病状を懸念しながら付句を待っていると、それから6日後に、氏から次のようなメールが届きました。

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残念ながらギブアップです。句案の推敲は睡魔に勝てず毎度堂々巡りをしてます。
このような状態では、これ以上皆様をお待たせしても好転は見込めません。今後については何とかスマートに終息させるか、願わくば継続して頂きたいと願ってます。
連衆の皆様、重ねてお詫び申し上げます。
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かねてより、意のままにならなくなるまでは決してギブアップしないという、氏の決意表明を力草(ちからぐさ)に付合を進めて来たのでしたが、事態がかかる局面に至ったことを告げる知らせを受け、胸を突かれる思いに囚われました。しかしここで付合を頓挫させては氏の切なる願いを無にすることになるので、今後の運びについてあれこれ思案の末に次のような方策を案じ、それを連衆各位にお諮りしました。
それは、禿山氏の付番は、目下の名残表八句目が済めば残るはあと一つ、名残裏二句目のみという運行予定になっていたので、この両句所を捌が書記役の「執筆(しゅひつ)」に成り代わって急場を凌ぐことにしてはどうかという案です。
これを各位に示したところ、いずれからも異論なしという同意を頂いたので、この案に従って執筆が後見役を務める運びとなりました。

掲句は、前句の後朝(きぬぎぬ)の場景を承けて、「其場・其人」の手法を用いた恋の人情自他半句です。なお、三句前に「手」があって「指」との差合が懸念されますが、前者の「手の内」は比喩的な慣用句で実質は肢体に当たらないので障りにはならないと判断しました。

  九  ペアカップ割って後ろは振り向かず    糸 雑

九句目は4飛び巡行遊糸さんの付番。恋をもう一句続けるか、「恋離れ」で行くかは作者にお任せ、恋を続ける場合には前二句の世界の続きに陥らないようご注意下さい。
この要請を承けた遊糸さんから早々にご呈示のあった候補5句を吟味した結果、「後は振り向かず」に前句に通うものを含ませながら、それを「ペアカップ」にするりと逃げたところに良い離れ味を見せた掲句を初案のまま頂くことにしました。
前句から思い切り良く離れながら、一抹の恋の気分を残しつつ、新たな展開を招くにふさわしい上々の「恋離れ」句が生まれました。

  十   賽は振られつ渡るルビコン       輔 雑

十句目は4飛び巡行付番の俊輔氏にお願いします。雑をもう一句続けましょう。人情句で行くならば打越と同じ人情自他半を避けて下さい。場の句も可です。次が月の座に当たるので、月の出を妨げるような句材は控えましょう。
このような条件に従って俊輔氏から呈示された名残表十句目候補5句を吟味した結果、「カエサルの決断」という自註を添えた初案「賽は振られて渡るルビコン」を良しと見ました。
前句の「後は振り向かず」の勢いの良さを異なる局面に活かし、前句の句勢に応じて句を付ける「拍子(ひょうし)」と呼ばれる付けに近い手法に従ったもので、転じ味も上々です。なお微細な点については、「(振られ)て」が前句の「(割っ)て」と重なる点が気になるので、これを完了の助動詞「つ」に差し替えた句形により治定することにしました。
言い切りの形で短句の上七を断止する形が、カエサルの決意の強さに通底するものを感じさせます。前句の恋離れからさらに大きく転じて、ローマへの進軍を決意したカエサルのルビコン渡河の雄姿を詠んだ、離れ味の良い十句目が生まれました。


  十一 望月のさやかに照らす島の影       女 仲秋/月


十一句目は4飛び巡行笑女さんの付番。この句所を秋の月の座と定めます。前句まで人情句がしばらく続いて。いささか凭(もた)れ気味を感じることと、月の座であることを考慮すれば、場の句でさらりとかわすのが良さそうです。
笑女さんから呈示のあった十一句目候補5句の中から「白波に望月冴えて島の影」の初案を選り残しました。いささか親句の気味はあるものの、候補句の中では本案がもっとも付心が明確です。ただし「望月」だけならば良いのですが、「冴え」を添えると三冬の季語「月冴ゆ」に同化してしまうので、この点に対する手当てが必要です。また「白波」は八句目の「紅」と同じ色彩関連語で障ることと、前句と同じ水辺の「ルビコン」に付き過ぎる印象があるので、これは言わずに済ませる方策を考えたいところです。そこでこれらの難点に対して掲句に見るような一直を施して治定としました。
しばらく続いた人情を捨てて前句を場の句であしらった、付味のよい十一句目が生まれました。


  折端  琵琶を弾じてしばし秋興        海 三秋


これに早速4飛び巡行付番の捌が付けさせて頂きます。掲句は「島守」という詞を使いたいところでしたが、前句の「島」と同字で障るのでこれを表に出さずに、そのような人物がひとり琵琶を弾きながら秋興の刻を過ごす姿を思い描いて折端に据えました。
実はこの文音歌仙が始まったそもそものきっかけは、禿山氏が幼少の頃、自宅近くにあった常磐炭鉱の炭住長屋から琵琶の音が流れて来たという懐旧談が発端となり、それを踏まえて付合を試みたことにありました。本句の「琵琶」はその折のことを想起して取り上げた句材です。
なおよい機会なので、その折の「禿海(禿山)・笑人(笑女)・宗海」三名による習作十二句「ぼた山に」の巻を記念としてここに書き留めておくことにしましょう。数えみればあれからはや8年の歳月が過ぎ去りました。感無量という他はありません。
なお9の初案下五は「花言葉」でしたが、これは雑の正花で11の花の座に障るので「贈り物」に改めました。

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【予行演習十二句「ぼた山に」の巻】

1 ぼた山に琵琶音高き夕まぐれ    宗海 雑
2  家路を急ぐ顔黒き鉱夫(ひと)  禿海 雑
3 月明かり夕餉の香り子の笑顔    笑人 秋/月
4  踊浴衣の帯は紅色        宗海 秋
5 友集う北の寄宿舎秋深し      禿海 秋
6  波打つ稲穂すずめ飛び交う    笑人 秋
7 太棒に更科蕎麦を繰り延べて    宗海 雑
8  亭主の側(そば)よりヨン様が好き 禿海 雑/恋
9 香とともに心伝える贈り物     笑人 雑/恋
10  駅裏通り旧友の店        宗海 雑
11 花どきは歩いてみたきお城山    禿海 晩春/花
12  春風吹いて柳たなびく      笑人 三春
               起首 2008.09.27
               満尾 2008.10.18

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