【佐藤禿山氏追悼連句】いわき文音五吟歌仙『ひよどりは』の巻解題06(名残折裏折立から挙句まで)
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※画像はブログ「勝手にいわきガイド/白水阿弥陀堂」より転載


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  いわき文音五吟歌仙「ひよどりは」の巻        宗海捌
                        起首 2016.08.09
                        満尾 2016.11.10


  発句 ひよどりは試練の海を越え行きぬ    禿山 三秋
  脇   涼新たなる旅立ちの朝        遊糸 初秋
  第三 来し方を家郷の月に眺むらん      俊輔 三秋/月
  四   薬あれこれ入れるポシェット     笑女 雑
  五  妹は姉に似合わぬ器用者        宗海 雑
  折端  吊り床揺れる薫風の庭         山 三夏
初裏
  折立 水族館人気抜群大くらげ         糸 三夏
  二   酢物味濃き嫁の手料理         輔 雑
  三  四捨五入すれば傘寿よ背の丸み      女 雑
  四   枯蔦からむ宮の狛犬          海 三冬
  五  難問が解けて空には冬の月        糸 冬/月
  六   誕生なるか女性領袖          山 雑
  七  移り香のスーツに残る帰り道       女 雑/恋
  八   逢瀬重ねる焼肉の店          輔 雑/恋
  九  迷惑は口先だけとすぐに知れ       海 雑
  十   相槌打つもうはのそらなり       糸 雑
  十一 ジグソーのゴジラ仕上がる花明り     山 晩春/花
  折端  縞のキルトに蒲公英の絮        女 三春
名残表
  折立 いかめしも開通を待つ春の駅       輔 三春
  二   港目指して下る坂道          海 雑
  三  園児らのラジオ体操靄晴るる       山 雑
  四   集ふママ友尽きぬおしゃべり      糸 雑
  五  家事番は草むしりなど屁の河童      輔 晩夏
  六   女形の台詞やっと覚える        女 雑
  七  寝乱れの顔を繕ふ隠れ宿         海 雑/恋
  八   咬み痕なぞる紅差しの指       執筆 雑/恋
  九  ペアカップ割って後ろは振り向かず    糸 雑
  十   賽は振られつ渡るルビコン       輔 雑
  十一 望月のさやかに照らす島の影       女 仲秋/月
  折端  琵琶を弾じてしばし秋興        海 三秋
名残裏
  折立 山の湯は合掌造り紅葉焚く        糸 晩秋
  二   御堂の池を過(よぎ)る天雲       筆 雑
  三  石垣の崩れに残る夢の跡         女 雑
  四   眼下の街に飛ばすドローン       輔 雑
  五  散る花にゆふべのこころ遥かなる     海 晩春/花
  挙句  霞隔つる幽明の境           筆 三春

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名残裏
  折立 山の湯は合掌造り紅葉焚く        糸 晩秋


膝送りはいよいよ最終七巡目入り。名残裏折立は3飛び早番の糸さん。打越に仲秋、前句に三秋と続いた秋を承けてもう一句秋を続けましょう。前句が打越の場の句から人情を起こしたので、それを承けて人情句を続けます

ところが、この条件を呈示した翌日の11月25日朝に俊輔氏からメールがあり、それには、今朝から禿山氏の呼吸が荒くなり容態が悪化して予断を許さない状況にある旨のメールがご夫人から届いた、ということが記されていました。
かねてより覚悟はしていたものの、禿山氏の命の灯が今まさに消えなんとしていることを知り、暗然たる思いに囚われながら、目下進行中の付合をしばらく停止して氏のご様態を見守りつつ平安を祈念したい旨をご連衆一同に伝えました。

しかし本復の望みも空しく、同日午後、再び俊輔氏から14時40分に禿山氏が逝去されたことを伝えるメールが届きました。また、葬儀は氏の強い希望により内輪に執り行われる運びとなるということでしたので、せめてもの連衆の弔意の徴(しるし)をお届けしようという衆議に決し、次のような弔電を「いわき文音連句連衆一同」の名でご夫人宛に発信しました。
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ご逝去を悼み謹んでお悔やみ申し上げます。和男様の発句で始まり目下進行中の作品の完成を待たずに旅立たれたのはまことに残り多いことですが、最期まで付合を楽しまれたことがせめてもの慰めです。安らかな永遠の眠りに就かれるよう願ってやみません。
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葬儀が済んだ後も連衆ともども、心に大きな穴が空いたような満たされぬ想いを抱きながら日々を過ごしていましたが、氏が最期の刻まで気遣われていた一巻の付合をいつまでも停止しておくに忍びず、初七日の明ける日を期してこれを再開することにしました。
また図らずも、同報メール宛先に残されていたアドレスに届いていた禿山氏宛の文音メールを、ご夫人がお読み下さっていたことを知ったので、今後もその状態を保持したまま、挙句に至るまでの運びをご覧頂くことにしました。一巻満尾を待たずに旅立たれた禿山氏の無念さへの、せめてもの慰めとならんことを願うばかりです。

付合停止が解除されて間もなく、遊糸さんから折立候補5句の呈示があり、その中から初案「紅葉初む集う友あり炉端焼き」を選り出しました。数年前に禿山氏も加わって故郷の山深い鉱泉旅宿で開かれたミニクラス会の思い出を句材としたものと見ました。残念ながら「集う友」が名残表四句目に出た「集うママ友」の繰り返しになるため「輪廻」の難を免れません。また食物の句材もすでに「酢物」「焼肉」と二度出ています。またこれは差合ではありませんが、「紅葉初む」は「初紅葉」の同類に当たるので、季は晩秋ではなく仲秋と見なすのがよいでしょう。
かかる吟味の結果、食物の句材を、その折に見た、山宿に移築されていた「合掌造り」に差し替え、さらに亡友の俳号「山」字を隠し題として潜める趣向を構えてみました。
「琵琶」とそれに映りの良い「合掌造り」が溶け合い、亡友との団欒のひと時を懐かしく思う心の籠もった付味の良い折立が生まれました。

  二   御堂の池を過(よぎ)る天雲       筆 雑

二句目は禿山氏の付番にあたる句所ですが、兼ねての運行目論見に従って捌の分身にあたる執筆が代役を務めることにします。
前句の「山の湯」から、その近くに立つ、白水阿弥陀堂の通称で名高い願成寺庭前にある蓮池の場景を浮かべました。この寺院は平安時代末期の建築で、県内唯一の国宝建築物に指定されており、ここにもまた禿山氏の思い出が色濃く残っています。そこの池に映る雲の姿に天上の友の姿を擬えました。
なお、このような内輪の話をご存じない方々にも、「山の湯」から「御堂」への付筋は格別の違和感なく受け止めて頂けるものと見定めました。

  三  石垣の崩れに残る夢の跡         女 雑

名残裏三句目は3飛び早番笑女さんの付番。前句の雑を続けましょう。打越には微かながらも人情自の要素が認められるので、人情を加えるならば、他もしくは自他半、あるいは場の句を続けても差し支えありません。
なおまた、ここまでの付合数句に、禿山氏を偲ぶ思いが付心として働いているのは覆うべくもない事実ですが、付合の運びの面からは、それを可能な限り内に秘めて、詞の上には露わにしないのがよいでしょう。
間もなく笑女さんから呈示された三句目候補5句の中では、初案「古校舎石垣のみの城の跡」を良しと見ました。ただし式目の面から言えば「古校舎」が《建物》の要素を含む「居所」として、打越の「合掌造り」に障ります。
そこで本句の《城跡》の要素を活かして掲句のような一直案を浮かべ、これをもって治定としました。下五「夢の跡」は、ひと目でそれと知れる、芭蕉の「夏草や」句の本句取りです。これに故郷いわき市旧城跡に今も僅かに残る、磐城平城の石垣の場景を配しました。
終局を穏やかに迎える名残裏にふさわしい趣を湛えた三句目が生まれました。

  四   眼下の街に飛ばすドローン       輔 雑

四句目は、お待ち兼ねの5飛び遅番俊輔氏にお願いします。雑をもう一句続けること、場の句が二句続いたのでここは必ず人情を起こすことを条件として呈示しました。また、前句には《戦乱》の糸口が潜んでいますが、付合がここに至ったからには静かに終局を迎えることを目指して、波乱には及ばないよう注意を払いたいところです。
俊輔氏から提出された候補5句の中から、初案「町一望に飛ばすドローン」の離れ味をもっとも良しと見ました。本句の自解に「平の城跡」とあったのは、戊辰戦争の折の磐城平藩落城の状況を描いた氏の近著『坊主持ちの旅』(北海道出版企画センター)の取材に当地を訪れたことを示すものです。前句への付心に「其場」の手法を用いて、よい味を出しています。なお上七「町一望に」の表現にもうひと工夫あってしかるべしと判じて、これに一直を加えて掲句の句形に治定しました。
作者が自らのこととして表現した人物が、落城によって焼失した天守閣跡の「物見が丘」と呼ばれる高台にいることを、「眼下」によって暗示する人情自句です。
飛行体にことのほか造詣が深かった禿山氏が、故郷の街の上空にドローンを飛ばす姿を想像させるような、追憶の情の籠もった付味の良い四句目が生まれました。

  五  散る花にゆふべのこころ遥かなる     海 晩春/花

次はいよいよ一巻の飾りとなる「匂の花」の座。ここは捌が付ける運びとなりました。
しばらく長考に沈んだ後に得た掲句をもって治定としました。本句は朝食後の仮眠から目覚めた折にふと浮かんだ一句。与謝蕪村が青年期を過ごした下総結城郡本郷の俳人早見晋我の死を悼んで編んだ一篇、「北寿老仙をいたむ」に出る一節を踏まえたものです。禿山氏が永眠されてからこの作品が通奏低音のようにずっと心に響いていたのですが、その思いが図らずも花句として結実しました。
ちなみに、その作品と解説は次のページに掲載されていますので併せてご覧下さい。
⇒ http://www.geocities.jp/sybrma/334buson.hokujurousen.html

  挙句  霞隔つる幽明の境(きょう)        筆 三春

これに執筆が挙句を付けます。ここでも禿山氏との永別を悲しむ心を籠めて吟案を巡らしました。通常の付合ならば挙句はあっさりとめでたく仕上げるのが習わしですが、本巻では追悼の思いをもって一巻を終えることにしました。
実は、ツイッターとフェイスブックに連載記事として連日掲載している【今日の季語】11月2日の「末の秋」の項に、例句として「幽明を友と隔てつ末の秋」の自作句を披露したばかりですが、ここでもまたこの語を用いて、禿山氏と「幽明境を隔つ」状況に置かれた連衆一同の悲しみを表出したいと願った次第です。
これにて、禿山氏の発句によって起こされた本巻は、改めて世の無常を思い知らされる形で満尾いたしました。この一巻を氏の霊前に捧げて鎮魂の縁(よすが)とさせて頂きます。

【付記】満尾後の校合(きょうごう)の折に、禿山氏の最期の句に出た「靄」と、挙句の「霞」が響き合っていることに気付きました。また発句と脇に《旅立ち》の付心が働いていたことと併せて、偶然とは思えない経緯の糸が本巻を貫いていたことに思い至り、感慨を新たにしました。

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